河村 武人 院長の独自取材記事
みどりの森メンタルクリニック成城
(世田谷区/成城学園前駅)
最終更新日:2025/10/07

成城学園前駅近くの医療ビル4階にある「みどりの森メンタルクリニック成城」の河村武人院長。大学病院などで長く診療に携わってきた経験を生かしながら、地域のクリニックだからこそできる一人ひとりの心に寄り添った診療を実践したいと開業したという。今では心の不調に悩む30代、40代の働く世代、子育て世代の患者が多く訪れる。「軽症の方こそ悩みが多様で診断が難しいもの。多方面から時間をかけてアプローチし、改善をめざす地域のクリニックならではの診療を提供したいと考えています」と話す。穏やかな語り口も印象的な河村院長に、診療にかける思いやクリニックの特徴などを聞いた。
(取材日2025年8月27日)
働く世代や子育て世代を支えるメンタルクリニック
こちらはどのような患者さんが来られるのでしょうか。

症状としては、うつや不安、不眠など軽い症状の方が多いですね。しかし、軽症の診断は実は簡単ではなく、むしろ悩み事も多く、家族関係や仕事など背景が重要になってくるのでじっくりとお話を聞いて診療を進めることが必要になります。年齢的に多いのは働く世代や子育て世代の方。30代から40代の方が多いですね。就職や転職で、仕事や職場環境に適応できないというような方も目立ちます。開業前には、高齢化が進む中で認知症やその前段階の軽度認知障害(MCI)の患者さんが多いかなと考えていたので、少し意外に思っています。
開業のきっかけなどを教えてください。

大学病院や総合病院の精神科など、一人ひとりの診療に十分な時間をかけづらい病院診療では、そのまま同じ薬を処方し続けてしまっていることもあります。しかし、精神疾患にはさまざまな種類の病気があり、使う薬も異なります。しかも、双極性障害のように年単位で継続的に診察してようやく診断が下せる病気があるなど、精神科の病気はとても診断が難しいものも多いのです。私は、勤務医時代の経験から、患者さん一人ひとりに対して、なぜこのような状態に至ったのか、時間をかけてじっくりと掘り下げながら、原因に迫る治療を行い、広い視野から原因にアプローチしていく診療を実践したいと考えるようになり、当院を開設しました。
男性更年期障害(LOH症候群)の諸症状の治療にも注力されているそうですね。
そうです。勃起不全(ED)や筋肉量の低下、体毛の変化などが見られるLOH症候群では、不眠やイライラ、抑うつの症状が出ることがあるので、うつ病などと勘違いされてしまうことも多いようです。うつ状態が続いていて抗うつ薬を使用しても改善が見られない男性の場合、実は男性更年期障害という場合があるのです。最近、女性に限らず男性にも更年期障害があるということが少しずつ知られるようになってきたことで、諸症状の治療につながるケースは増加傾向です。しかし、ストレスやうつ病による症状だと思い込み、適切な医療につながっていないケースもまだまだ多いと考えられます。そうした現状を鑑み選択肢を増やすために、男性ホルモンが関わる病気についての学びを深め、テストステロン補充療法を行うための勉強もしてきました。この療法では従来筋肉注射が一般的ですが、当院ではより手軽に使える塗り薬の処方も可能です。
検査により心の癖を把握し、得意・不得意分野を探る
心理検査に力を入れているのも特徴とのことですね。

ハートフル川崎病院などの機関と連携して、臨床心理士による心理検査とカウンセリングを行い、その人の特性、いわば心の癖を理解し、それぞれに即したオーダーメイドの治療を行っています。心理検査で私が重視しているのがWAIS-IV(ウェクスラー成人知能検査)と呼ばれる知能検査と、MMPI(ミネソタ多面的人格目録)という人格特徴の検査です。ほかにより簡便で時間のかからない検査を院内で行うこともあります。WAIS-IVには10個の基本検査があり、結果は言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度の4つの指標で表され、そこから総合的なIQも算出し、4つの能力にどのようなばらつきがあるかがわかります。MMPIは、性格特性を多面的に測定していくもので、初診ではなく、必要なタイミングで行っています。
心理検査によってどのようなことがわかるのですか。
事務処理能力的な部分と性格の傾向が見えてきます。私は、この両方を組み合わせて患者さんを診ることで、人の心がある程度わかると考えています。人間関係を円滑にするには、まずは自分の能力や心の癖を理解して、周囲に認めてもらうことが重要です。当院では、これらの検査からわかったことをオリジナルの図にしてまとめたものを「あなたの取扱説明書」として提示し、説明します。もちろん、検査により病気の原因すべてを解説できるわけではありませんが、ご自身の心を数値化するということは、大きな意味のあることだと考えています。そして、誰にも得意分野と苦手分野があるので心理検査によってそれを把握して、得意分野は伸ばすように、苦手分野は無理をしないようにアドバイスします。自分という人間の能力を適切に発揮することができれば、生きやすくなるのではないかと思うので、得意分野を生かせるようなお手伝いがしたいと考えています。
診療の際、どのようなことを大切にされていますか。

自動販売機のような機械的な診療は、決してしないと心に決めています。短時間の診察で薬だけ出して終わりということはせず、患者さんとの対話を大切にしています。患者さんがなぜそのような状態になったのか。背負っているものは何なのか。その方のバックグラウンドまでよく理解した上で診察するよう努めていて、初診には30分以上、再診では10分程度かけて患者さんとお話しするようにしています。メンタルクリニックは、患者さんが心の奥にたまった膿を吐き出す場所だと思います。最初は話しにくいと思いますので、できるだけ話しやすい雰囲気づくりにも配慮しています。時間をかけて話をしていく中で信頼関係を築いて、患者さんがどんな心の膿でも心置きなく吐き出せるクリニックになれればと思っています。
表面的な症状の下にあるものを掘り下げることを重視
精神科を志したきっかけなどを教えてください。

若い頃、長期にわたり体調を崩した際に処方された薬がとても自分に合い当初は医師に感謝したのですが、治療を継続するうちに機械的な診療になり、疑問も感じ始めました。そんな体験から、医師として、患者さんの話を親身に聞く診療を行いたいと考えるようになりました。私が得意とする「人の話をじっくり聞く」ことを生かしながら、個々の患者さんに合った診療を一緒に考えていけるのを魅力に感じて、精神科を志しました。
今後に向けての展望についてお聞かせください。
開業から5年目を迎えて、紹介などで受診される近隣の患者さんも増え、今後も成城の街に根差して皆さんの心を支える診療を続けていきたいと思っているところです。いろいろなクリニックを受診してみて、最終的に当院に戻ってこられるのも良いと思います。ご自分に合うメンタルクリニックを見つけることも大切ですから、気軽に相談していただける雰囲気は大切にしていきたいですね。統合失調症に関する市民講演会も行い、地域への情報発信にも力を入れていきたいと考えています。統合失調症など重い精神疾患については、必要に応じて入院加療もできるように近隣の病院と連携しながら診療していますので、患者さんやご家族に頼っていただければ、私がここで開業した意義があると思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

仕事に行きたくない、夜眠れない、食欲がないなど、ご自分でちょっとおかしいなと感じたらご相談ください。これらの症状は表面に現れたもので、その下に何があるのかを掘り下げることが大切です。脳が長くストレスにさらされ続けると神経がそれだけダメージを深め回復機能が失われてしまいますので、早めの受診をお勧めします。そして、当院は、患者さん一人ひとりの心の癖を理解してサポートしていきたいと考えています。また、精神的な理由で社会から離れてしまった方がいれば、復帰の方向へ進めたいと思っています。いつもと少し違う、心が弱っていると感じたら、抱え込まずに、気軽に相談にいらしてください。