認知症患者と共生する知識と
患者と家族をサポートする取り組み
いのくちファミリークリニック
(稲沢市/稲沢駅)
最終更新日:2024/11/15
- 保険診療
高齢化が進む日本では、65歳以上の5人に1人が認知症であるともいわれている。多くの人がなり得る身近な病気である一方、気になる症状があっても受診をためらい、不安を抱え込んでいるケースも少なくないのではないだろうか。「認知症の方が、日々穏やかに過ごせる一助となりたい」と話すのが、認知症治療のエキスパート「いのくちファミリークリニック」の遠藤英俊院長だ。遠藤院長は認知症サポート医の養成に携わっていた。認知症の予防や早期発見・早期治療には、患者本人だけでなく家族にとっても、たくさんのメリットが望めるという。受診のタイミング、遠藤院長の新たな取り組みについて教えてもらった。
(取材日2023年9月2日/情報更新日2024年11月5日)
目次
認知症は、早期発見・早期治療で予防と症状緩和がめざせる病気
- Q認知症の症状や、受診のタイミングを教えてください。
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A
年を取ると、誰しも人の名前をすぐに思い出せなくなったり、昨日の食事の献立を忘れたりするものです。認知症は加齢による物忘れとは違い、正常だった脳の働きが徐々に低下する病気です。食事したこと自体を忘れたり、日付や曜日がわからない、仕事の要領が悪くなるなどの困難が生じ、日常生活をうまく送ることができなくなります。症状があっても、「年のせいだ」と受診をためらう方もいますが、早期診断により症状の進行を遅らせたり、予防することも図れます。また、早い段階から適切なアドバイスを受け、福祉サービスなどを活用することで、介護負担を減らすことも可能です。今までとは違う症状や行動に気づいたら、早めに受診しましょう。
- Q認知症の診療において力を入れていることを教えてください。
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A
認知症の早期診断・早期治療に注力しています。当院の認知症患者さんのうち約3割はMCI(軽度認知障害)の方です。MCIの約半数は5年以内に認知症に移行するといわれていますので、総合病院と連携し、進行を抑制するための治療をご案内しています。また、既に認知症が進行している方の家族のお悩みで多いのが、妄想、目的なく歩き回る、攻撃的になるといったBPSD(行動・心理症状)です。本人の気持ちを理解して受け入れ、適切に対応することで改善を図っていきます。例えば、妻の浮気を疑う嫉妬妄想という症状が見られた男性患者さんのケースでは、奥さんに地味な服を着せたり、出歩くのを控えたりするように提案する場合もあります。
- Q患者さんのご家族へのフォローはされていますか?
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A
ご家族にも「大丈夫ですか?」などの声かけをして、コミュニケーションを取っています。特に自宅で介護をしているケースでは、患者さんを日々、支えているご家族が心身ともに健康であることが重要なので、ご本人と家族を2対1くらいの配分で意識しています。ご家族には相談ノートをお渡しし、チェック項目や記述式で医師や看護師に言いにくいことでも伝えられるように、工夫しています。また、本人の前で言いづらいこともあると思いますので、土曜日に設けている家族相談の日には、本人とご家族と別々にお話を聞く時間もあります。深刻なケースであれば、スタッフが30分ほどかけて、じっくりとご家族からお話を聞くようにしています。
- Q新たに認可が下りた認知症の薬について、教えてください。
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A
認知症には症状を緩和することをめざす薬しかなかったのですが、進行の抑制を図るための新薬ができました。これは医療の大きな進歩と考えます。しかし、その新薬は発症前であること、認知症の原因物質とされるアミロイドβが脳内に蓄積していると検査で証明されるなどの条件がそろっている方しか使えません。さらに、日本では検査ができる病院が少なく、検査費用や治療費も高額になるため、多くの方が使用できる薬とは言いにくいと思います。そのため、私は新薬を使えない方の治療・相談を行うための外来を開こうと考えています。認知症治療のスタンダードを実践し、夢を持ち続けられる外来にしたいのです。
- Q認知症患者を含め高齢者とその家族を支援する体制が大切ですね。
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A
2023年7月に、認知症患者との「共生」に重きを置いた新たな法律が制定されました。ただ現実では、家庭や施設で認知症患者に対する虐待が増加しています。そこですべての事業所は高齢者虐待の担当者を決めて委員会と理念をつくり、年に2回の研修を行うことを定める法律も整備されました。私自身もこの法律と並行して、高齢者虐待防止システムをさまざまな事業所で進めていきたいです。また、地域全体で動くことがとても重要ですので、ぜひ市町村が率先して進めてほしいと思っています。認知症を抱えているご本人、ご家族皆さんが穏やかに共生できる社会になるよう、日々の診療やさまざまな活動を通して、働きかけを続けたいと思っています。