小川 雄史 院長の独自取材記事
鶴見メンタルクリニック
(横浜市鶴見区/鶴見駅)
最終更新日:2023/02/06

JRの鶴見駅から徒歩約10分、京急鶴見駅から徒歩約5分と好アクセスな「鶴見メンタルクリニック」は、2020年4月の開院以来多くの患者が訪れるメンタルクリニック。早稲田大学大学院理工学研究科で工学を学び、鉄道会社で技術系総合職として勤務した経験を持つ小川雄史院長は、新幹線の運転免許も持つ異色の精神科医師だ。さまざまな出来事をきっかけに医師の道を志し、精神科の医師になって15年。自身のサラリーマン経験を生かして自立支援や就労サポートにも積極的に取り組み、認知行動療法、運動・食事指導、睡眠指導、漢方薬やビタミンに関するアドバイスを行うなど、多くの引き出しを持つのが同院の強みだ。患者に向き合う真摯な姿勢と明るい人柄が魅力的な小川院長に話を聞いた。
(取材日2020年4月21日/再取材日2022年2月28日)
サラリーマン経験を生かした診療で幅広い疾患に対応
開院までの経緯を教えてください。

早稲田大学大学院理工学研究科で修士課程を修了した後、3年間鉄道会社で技術総合職として勤務していましたが、高校時代の友人の死や家族の交通事故をきっかけに医学に興味を持ち、富山大学の医学部に編入し医師の道を志しました。その後、精神科の医師として13年間いくつかの病院に勤務し、2020年の4月に開院しました。前職の診療所から近いこの場所で開院したのは、以前から診ていた患者さんから「先生、行かないで」と言われたことが一番の理由です。このエリアに精神疾患で困っている人々が多くいることを知り、以前からの患者さんも変わりなく診療させていただけるので、結果的に鶴見にして良かったと思います。
患者層や診療体制についてお伺いします。
うつ病、発達障害、不眠症、パニック障害、認知症など幅広く対応しています。また、勤務医時代からの長いお付き合いの患者さんの中には、重度の統合失調症の方も多くいらっしゃいます。最近では、パニック障害や不眠症で来院される患者さんが増えました。感染症拡大に伴い、マスク着用や在宅ワークなど新しい生活様式が広まったことも一因だと思います。ストレスは増える一方で気分転換をするのが難しい状況ですから、オンとオフの切り替えがうまくできないのでしょう。ほかには、認知症の診断にあたって連携している診療所に電話1本で頭部CT検査をお願いできる体制を整えています。注射が必要な患者さんや血中濃度を調べる必要のある患者さんのために院内には処置室を設けており、精神科のクリニックでは珍しく週に4回ほど看護師が勤務し対応しています。
クリニックの診療方針はどのようなものでしょうか。

当院の診療方針の一つは、薬の処方に慎重だということです。薬は実生活に支障を来す場合にのみできるだけ少ない量から始めます。薬は体に吸収されるものですから、初めて精神薬を飲む患者さんは抵抗を感じるでしょうし、副作用が出たら驚いて治療を中断してしまうこともあります。まずは薬を体になじませることを優先し、いずれ薬をやめることを目標に依存性の出にくい薬を選んで処方しています。ほかには、漢方薬の処方や、食事指導、運動指導、睡眠指導、認知行動療法などを取り入れています。適応障害の患者さんには、診断書を書いて休職のお手伝いも行います。
復職や生活支援など患者を支えるトータルサポート
患者さんの復職サポートに注力されているそうですね。

ある程度回復しても、復職するタイミングによっては再び不調になってしまう場合もあります。そういったことを防ぐために、復職するときに私が上司の方と面談するなど、復職後の環境を整えるためのサポートも行っています。また、患者さんの段階に応じて精神障害者保健福祉手帳のご紹介や、行政から受けられる障害年金などの制度もご紹介しています。復職のタイミングでは、より良い人間関係を構築するためのコミュニケーションスキルの一つである「アサーション」の本を勧めるなどもしています。こういった制度の提案などは本来の医師の仕事ではないかもしれませんが、「誰かがやらないといけない」という使命感を持って対応しています。
病気だけでなく、患者さんの生活全般を支えているのはなぜですか。
生活全般が患者さんの精神状態にも影響すると考えているからです。金銭面で余裕がなくなったために精神状態が悪化してしまう方もいるので、金銭面のお悩みについてもじっくりご相談を受けていきます。経済的な負担が軽くなる制度の紹介としては、障害者手帳を取得することで障害者雇用枠として働けることや保険会社から支給される傷病手当金などをご案内しています。また、片づけられずに家がゴミだらけになってしまっている方には、ヘルパーを導入してストレス軽減を図る方法もあるでしょう。患者さん一人ひとりに合わせて何が必要なのかを考えることが大切です。ケースワーカーとの連携なども含めさまざまな支援を活用しながら、患者さんの生活をトータルサポートしていく体制を整えていきたいです。
精神科の医師として大切なことは何でしょうか。

さまざまな経験を患者さんにフィードバックできること、いろいろな「引き出し」を持っていることが大切だと思います。私自身がサラリーマンを経験して年を重ねてから医師になったので、いろいろな立場と状況にある方の気持ちが理解できるのが強みです。精神症状は、その人の人生です。例えば、会社へ行けないという状況は、人生がかかっていますからただごとではない。そこは真剣勝負ですね。患者さんから学ばせていただくことが多いのも精神科の特徴かもしれません。治療のヒントは案外目の前にあるものです。患者さんが困っていることは何なのか、求めていることは何なのかを理解し、謙虚な姿勢で患者さんの話をしっかり聞いて、解決して差し上げるのが精神科の医師の仕事であると思います。患者さんに貢献するには自分自身の心の余裕が欠かせないので、ポジティブな意味で自分の限界を自覚しながら、私自身もワークライフバランスの維持を心がけています。
気軽に来院できるハードルの低いクリニックでありたい
精神科の難しいところや医師としてのやりがいを教えてください。

精神科は他の診療科と違い検査のデータを見て異常を発見したり診断を下すことが難しいので、正解のない科だといわれます。さらに人間の心という見えないものを対象にしているので、精神科の医師を15年続けても実はわからないことばかりなんです。「精神科は怪しい」と言われてしまうこともあります。でも現実的には精神科に頼っている患者さんがいて、精神科を通して日常生活への復帰をめざす方がたくさんいるんです。必要とされる仕事ですし、やはりこの仕事が好きだから続けられています。最近は、おかげさまで多忙な状況が続いていて大変な部分もあります。それでも患者さんに直接「ありがとう」と感謝していただけるのが一人の医師として素直にうれしいですね。
ストレスに悩む方へのアドバイスはありますか。
最近は生活スタイルが変わって不調やストレスを感じる方も多いと思います。精神科受診の前に、まずはご自身でできるようなストレス対処法をいくつか持っておくことをお勧めします。一例として、国が奨励しているのは週に90分歩くことです。1日8000歩の散歩がうつの発症抑制に役立つというデータもありますが、毎日続けるのは大変だと思います。まずは週に90分歩くことを目標にして適度な運動を心がけてください。ほかには軽めの趣味を持つことも良いと思います。ヨガや茶道などジャンルは何でも良いので、「続けたいと思ったら続ければいい」という気軽な気持ちで試しに始めてみましょう。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

誰でも気軽に来られるようなハードルの低いクリニックでありたいと思っています。一人で悩まずに、判断に困ったらまずは相談してみてください。精神科に行くことに対して周りの目を気にする方もいますが、重症になってから来るよりも、症状の軽い段階での受診が長期的には負担も減るはずです。ですから、ストレスを感じて眠れないなど具体的な症状が出てきたときには、すぐに来てほしいですね。受診を迷っている方も、当院のホームページか電話でご予約の上気軽にお越しください。また、地域限定になりますが一部往診も受けつけていますので、気になる方は電話相談をお願いします。