吉村 衛 院長の独自取材記事
神戸静脈瘤クリニック
(神戸市中央区/三宮・花時計前駅)
最終更新日:2021/12/28
2019年7月開院の「神戸静脈瘤クリニック」は、下肢静脈瘤・鼠経ヘルニア(脱腸)・肛門疾患の3つを専門としたクリニック。23年間、外科の医師として大学病院や総合病院に勤務してきた吉村衛院長は、自らも初期の下肢静脈瘤を患い、同疾患患者を「助けたい」という強い思いを持ち、開院に至ったという。患者と密に接することができる開業医のメリットを最大限に活用し、「再発しないよう治療計画を立て実行する」ことが診療モットーの吉村院長に、下肢静脈瘤・鼠経ヘルニア・肛門疾患のそれぞれの症状と治療法、診療の際に心がけていることなどを聞いた。
(取材日2019年12月9日)
下肢静脈瘤・脱腸・肛門疾患に対応する専門クリニック
医師になった理由と、開院までの経緯を教えてください。
私は祖父、父と代々医師の家系で2人の背中を見て育ちましたが、当初は他の学部をめざしていたんです。しかし親戚ががんで命を落としたのを目の当たりにしてから、医学の道に進むことを決めました。外科を選んだ理由は「自分の手で治療できること」に魅力を感じたからです。1996年に外科に入局後、医局の細分化で消化器外科に所属し、以後2019年までの23年間、外科の医師として広範囲な医療領域に携わってきました。その中で大規模病院で長時間お待たせして“3分診療”ではなく、患者さんと密に接して治療し、ともに回復を喜び合いたいと考え、ちょうど50歳、令和を迎えたこのタイミングでひと区切りをつけようと、下肢静脈瘤、鼠経(そけい)ヘルニア、肛門疾患の専門クリニックを開院するに至りました。
下肢静脈瘤、鼠経ヘルニア、肛門疾患の3つを選んだのはなぜですか。
最近、専門クリニックが増加傾向にある下肢静脈瘤に加え、鼠径ヘルニアと肛門疾患の専門的な診療を行っているのが当院の特徴です。下肢静脈瘤は直接命に関わるものではないため、長期にわたって放置され適切な診療が受けられないケースも多い疾患です。実は私も自己検診で初期の下肢静脈瘤を発見したこともあって、見た目の悪さや足への強い不快感をお持ちの方を「何とかして助けたい」と思ったのが下肢静脈瘤治療を専門とした理由ですね。専門的な治療が望めない診療科をいくつも訪れてお悩みを深くされた患者さんがたくさんいる現状を知り、専門的な治療の大切さを実感しています。あわせて鼠経ヘルニアや内痔核など肛門疾患も十分に日帰り手術が可能な疾患ですから、これまで消化器外科の医師として治療してきた経験を生かしたいと考えたんです。
下肢静脈瘤とはどのような疾患でしょうか。
足の静脈では重力に逆らい上向きに血液が流れますので、血液の逆流防止のため、静脈の内側に逆流防止弁があります。この弁が壊れることにより起こる疾患が下肢静脈瘤です。弁が壊れ血液の逆流が悪化すると、静脈が外見からわかるほどコブ状に膨れたり、未明に足がつったり、足がだるかったり、重かったりします。また症状はないのですが、血管がクモの巣状や網目状にモヤモヤ広がる場合もあります。60歳代以降の女性に比較的多いですが、美容師など立ち仕事、移動距離の少ない職業の方も多いですね。男性は足を露出する機会が少なく、見た目も気にしない方が多いため、重症化してから来院される傾向があります。また遺伝的要素が大きく、ご家族に下肢静脈瘤を患った方がおられたり、体重が多い方や妊娠出産を経験された方もかかりやすいので注意が必要です。
症状に合わせ手術以外の治療法も。連携病院も紹介
下肢静脈瘤が重症化するとどうなるのでしょうか。
直接命には関わりませんが、残念ながら下肢静脈瘤は自然には治らない病気です。放置すれば、個人差はあるものの、常に足が重だるくてつらい、こむら返りの痛みで目が覚める、足のかゆみが治まらない、あざのような色素沈着や皮膚潰瘍ができるなど症状が悪化します。また足のコブや潰瘍が気になって好きな服装ができない、外出がおっくうになったりと、見た目でつらい思いをすることがあります。以前は入院を伴う手術が主でしたが、現在は症状に合わせて専門知識を有したスタッフがサポートする弾性ストッキングによる対処方法から、硬化療法という注射での治療、カテーテルによる日帰り手術まで、日常生活にあまり影響がない治療が増えてきました。
鼠経ヘルニアとはどのような疾患でしょうか。
足の付け根のところにポコッと腸などが脱出する病気で、いわゆる「脱腸」といいます。女性の場合は卵巣が脱出することもあるんですよ。乳幼児の場合は先天性が多く、成人の場合は筋肉や筋膜が弱くなったところに腹圧がかかってできることが要因です。高齢男性に多い疾患で、慢性的な咳や便秘のほか、遺伝的要素、重量挙げなど腹圧がかかるスポーツをされている方も少なくありません。時に不快感や疼痛があり、脱腸が戻らなくなった状態を嵌頓(かんとん)といいます。これを放置すると腸閉塞や腸壊死で緊急手術となり、命に影響することがあります。当院の治療法は鼠経部を約5センチ切開して行う日帰り可能な鼠径部切開法を施行しており、全身麻酔が必要な腹腔鏡下鼠経ヘルニア手術を希望される場合は他の病院を紹介します。
肛門疾患の種類と症状、それに対する治療法を教えてください。
排便時に出血や痛みを伴う内痔核や外痔核、肛門周囲に膿がたまって腫れる肛門周囲膿瘍や痔ろう、硬い便で肛門が裂けて痛みと出血を伴う裂肛などで、いずれも著しくQOLが落ちることがある疾患です。内外痔核であれば軟膏療法からスタートし、内痔核を注射で固めるための痔核硬化療法や結紮切除術、外痔核であれば痔核切除も行います。痔ろうは通常切開の痔管開放術やゴムを使用してゆっくり切開するシートン法に対応し、痔管くり抜き術など日帰り手術では危険なケースはしかるべき病院にご紹介させていただきます。裂肛は軟膏療法と排便コントロールを基本とし、慢性化して狭窄した際には拡張術や切開術を行うこともあります。
再発なきよう、正確な検査・診療・治療計画に努める
診療のモットーを教えてください。
当たり前ではありますが、正確な検査・診断、正確な治療を行うことです。検査・診断については大学病院でも使用しているエコー機器を用いて検査を実施します。診断結果により治療の必要があれば、そのまま当院で行いますし、例えば下肢静脈瘤であれば深部静脈血栓症など他の病気が疑われる場合、鼠経ヘルニアや肛門疾患なども含めて重症な症状の場合には適切な医療機関をご紹介しております。治療の際には、治療の後もなるべく苦痛を感じないようにするのはもちろん、今後二度と再発することがないように治療計画を立てて実行することもモットーにしています。
患者さんに接する際に心がけていることはありますか。
少なからず不安を抱えて来院される患者さんの言葉をしっかりと聞き、症状や不安に思う気持ちなど状態をきちんと把握することを心がけています。例えば足の不快感を訴える患者さんであれば、下肢静脈瘤の有無に関わらず何が原因なのかを説明し、もし下肢静脈瘤であるなら現在の症状や処置、予後までを丁寧にご説明して、患者さんが納得した上で適切な治療を提供することを心がけています。鼠径ヘルニアについても同じで、当院での手術か、大きな病院での入院・手術かの判断も含めて、現状をきちんとお伝えすることを大切にしています。肛門疾患は、いきなり手術を行うのではなく、まず手術以外の軟膏療法などで現在の苦しみが取れるかどうかを試すことから始めます。また肛門の手術は術後の痛みが強いケースも多いので、そこもしっかりと説明してから診療にあたっています。
読者にメッセージをお願いします。
下肢静脈瘤はまだまだ認知度の低い疾患であり、せっかく医療機関にかかっても納得いく診療が受けられなったという方も多いと思います。見た目や感じられる症状と実際の症状の重さが必ずしも一致しないのも下肢静脈瘤の特徴ですから、専門的な知識を持つ医療機関を受診していただくことが重要だと思います。鼠径ヘルニアは放置すると大変なことが起こる可能性もあるので、自覚されたら早めに来院されることをお勧めします。肛門疾患は恥ずかしさもあって病院やクリニックに行けないという方も多いのですが、治療を受ければ症状緩和が望める疾患です。当院は肛門専門ではないので来院しやすいと思いますし、プライバシーもしっかりと守っています。患者さんの不安、不快感を取り除くことが私たちの大切な仕事ですから、気になることがありましたらお気軽にご来院ください。
自由診療費用の目安
自由診療とは弾性ストッキング(保存療法の場合)/5500円(税込)~
※看護師がサイズを測り、患者個人に合ったストッキングを提供