村松 英之 院長の独自取材記事
きずときずあとのクリニック豊洲院
(江東区/豊洲駅)
最終更新日:2024/07/30

豊洲駅から徒歩5分の場所にある「きずときずあとのクリニック豊洲院」は、傷と傷痕の治療に特化したクリニックだ。「傷や傷痕に悩む人の力になりたい」との思いで、日本形成外科学会形成外科専門医の村松英之院長が2017年に開院した。「傷や傷痕そのものを診るだけでなく、患者さんの話をじっくり聞いて、それが心にどれほど影響しているかも見極めた診療を心がけています」と村松院長は言う。傷や傷痕に悩む人が全国各地から来院する同院。近年は動画配信サービスを使って、治療方法やクリニックのことを積極的に発信する。終始朗らかな村松院長に、診療の特徴や心がけていること、今後の展望について話を聞いた。
(取材日2024年4月17日)
できる限りの選択肢を用意し、傷や傷痕で悩む人の力に
傷や傷痕に特化したクリニックを開院しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

開院する前は、病院の形成外科で主にやけどや口唇口蓋裂の患者さんを診ていました。ある時、口唇口蓋裂の治療を勉強するためにシンガポールへ留学する機会がありまして、そのときに形成外科の治療法にはさまざまな種類があることを知ったんです。その多くは保険適用外のため自由診療になってしまうのですが、多様な方法を治療の選択肢の一つとして取り入れて、もっと傷や傷痕に悩んでいる方の力になりたいと思ったのが開院のきっかけです。
「きずときずあとのクリニック」というクリニック名はわかりやすいですね。
日本では、形成外科の認知度は決して高くないというのが正直なところです。けがややけど、傷痕に対処したい時にどの診療科を受診したらいいかわからないと悩む患者さんは、思った以上にいらっしゃると感じています。形成外科は「体の表面に生じた異常を治療する」ための診療科なので、形成外科に来ていただくといいのですが、残念なことに、さまざまな診療科を渡り歩いても形成外科にたどり着けない方がとても多いのです。受けたケアが果たして良かったのかと悩む患者さんや、子どものけがに対して傷痕が残ってしまうのではないかとご自身を責めてしまう親御さんもいらっしゃいます。そういった方に、けがややけど、さまざまな理由でついた傷や傷痕の治療法があることを知ってほしい。安心して治療を受けてほしいという思いでこのクリニック名を選びました。
開院当初、苦労したことはなんですか?

志は高く開院したものの、傷や傷痕の治療をメインとした開院したばかりのクリニックでの自由診療はなかなか受け入れてもらえませんでしたね。病院で保険診療に携わっていた時は、治療を患者さんに受けてもらうことは当たり前でしたが、クリニックで新たな診療を提供する場合は、患者さんから信頼を得るところから始めなければなりませんでした。どうやったら治療を必要としている人に知っていただき、受けたいと思ってもらえるかをずっと考えていましたね。今では徐々に患者さんが増えて、患者さん一人ひとりのニーズや状態に合わせたさまざまな治療法をご提案できるようになりました。
患者の心の内を見つめ、一人ひとりに合った治療を提供
どのような患者さんが来院されているのでしょうか。

子どもと女性が多いですね。子どもさんの場合は、けがややけどでいらっしゃる方が多いです。将来的になるべく傷痕が残らないように配慮をして治療を進めます。女性の場合は、子どもの時にけがをしてついた傷痕や手術の痕を気にしていらっしゃる方もいらっしゃいます。私が動画配信サービスを使って傷痕の治療や当クリニックのことを発信するようになった2019年頃からは、リストカットの痕の相談のために遠方から来られる方も増えました。またメッセージアプリを介して相談や質問を受けつけています。この方法でしたら、どこからでもお問い合わせいただけます。来院を考えている方から相談やお悩みを伺うだけでなく、治療後の状態に心配がある場合も写真を送っていただければアドバイスをさせていただきます。医師からの「大丈夫ですよ」の一言があれば、安心していただけるのではないかと思っています。
こちらで受けられる治療について教えてください。
お子さんの傷の治療は、ほとんどが湿潤療法を行っています。湿潤療法はこれまで一般的とされてきた、消毒薬を使ったり乾燥させたりする治療方法と比較して、治療中の痛みの軽減や治療後の傷跡が残りにくいことが見込めます。傷痕の治療では、内服や塗り薬、注射などがあります。症状を診察し、患者さんのご要望を伺った上で適切な治療方法を提案し、選択肢の中から選んでいただきます。リストカットの傷痕に対しては、自傷によりできた傷痕に見えなくするためのアプローチである、ご自身の皮膚を使った戻し植皮手術を提案することもあります。傷痕の治療は治療期間が長くなることもあるため、途中で諦めてしまう方もいらっしゃいますが、当院は傷痕の治療に関してさまざまな治療法を提供できる知識と実績がありますので、一つの治療方法に固執せずに患者さんのご要望をお聞きしながら、力を尽くしたいと思っています。
治療を受けた患者さんに、どうなってもらいたいと思っていらっしゃいますか?

残念ながら、傷痕そのものを完全に消すことはできません。しかし、当院で治療を受けることで、「人と面と向かって話すことができなかったけれど、できるようになった」ですとか、「長袖の服ばかりを選んでいたけれど、短い袖の服を着たいと思えるようになった」といったように、気持ちが前向きになってくれたらと思っています。傷痕のことを思い出すことが減ったり、忘れている時間が長くなったり、人の目が気にならなくなったりして、生活しやすくなったと感じてくれたらうれしいです。
悩みを抱えている人が安心して受診できるクリニックに
診療の際に心がけていることはどのようなことでしょうか。

患者さんのお話をよく聞かせていただき、こちらからの説明も丁寧に行うことを心がけています。傷痕については、本人がご自身のことで悩む場合だけでなく、子どもの傷痕に親御さんが悩まれる場合もあります。けがをしないように子どもを見てあげられなかったといった罪悪感で、ご自身を責めてしまう方もいらっしゃいます。しかし、大人になって子どもの頃に負った傷痕で悩んでいる方は、想像されるほど多くないように私は感じています。たくさんの患者さんを見てきた中で気づいたことを真摯にお伝えすると、安堵される方も多いように思います。悩んでいる方の気持ちが少しでも軽くなるように話をお聞きし、当院でできること、私が知っていることや学んできた情報をお伝えしたいと思っています。
村松院長は、情報発信活動にも力を入れていらっしゃいますよね。
2019年から動画配信サービスを使った情報発信を始めました。医師は患者さんに繰り返し同じ説明をしますよね。その延長線上の取り組みとして、患者さんに伝えたいことを動画に撮って発信したらどうだろうと思ったんです。新型コロナウイルス感染症の流行に差しかかったこともあって、一人で週に1本ずつ撮って情報発信を始めました。すると、視聴した方が足を運んでくださるようになったんです。患者さんにとっても、治療のことや当院の方針がわかるので、安心できるのではないかと思います。また、発信することで当院の治療についての情報が整理され、治療の体系化にもつながるという思わぬメリットもありました。
最後に、今後の展望を教えてください。

傷や傷痕の治療に従事して感じることは、傷や傷痕について誰にも相談できずに一人で悩んでいる方が多いということです。特にリストカットの傷痕がある方は、それだけで精神的な問題を抱えている人といった間違ったレッテルを貼られてしまい、不安の中で生きている方が多くいらっしゃいます。次第にこのリストカットに対する偏見や誤解のある社会を変えていきたいと思うようになり、「日本自傷リストカット支援協会」を立ち上げました。不安が減っていけば人生も変わっていくと思うんですね。その前進する一歩を踏み出すための一助になれたらと思っています。そのためにも、関東のみならず、ゆくゆくは関西圏にもクリニックを開院したいと考えています。
自由診療費用の目安
自由診療とは自由診療の傷痕治療/戻し植皮手術(~25cm四方):44万円