井上 啓太 先生、楊 睿 院長の独自取材記事
アヴェニューセルクリニック
(港区/表参道駅)
最終更新日:2024/09/24
東京メトロ銀座線表参道駅の出口すぐ上という便利な場所にある「アヴェニューセルクリニック」。日本全国でも数少ないリンパ浮腫の治療がメインの個人クリニックである。顕微鏡を使った高度な技術を要するマイクロサージャリー手術、中でもリンパ管と静脈をつなぐリンパ管静脈吻合を得意としている井上啓太先生が2016年に開院し、2024年7月には新たに楊睿(よう・えい)先生が院長に就任。患者の体や時間などの負担を減らす低侵襲医療を提供している。東京大学医学部附属病院形成外科の同門でもあるという井上先生と楊院長に、治療に対する思いや今後の展望についてなど、詳しく語ってもらった。
(取材日2024年8月27日)
低侵襲のリンパ浮腫治療を行うクリニック
リンパ浮腫の治療を個人のクリニックとして対応されているところは、少ないのではないでしょうか。
【井上先生】そうですね。リンパ浮腫はリンパ液がたまることによって生じる“むくみ”のことで、乳がんや婦人科のがんなどの手術後、まれに起こるとされています。しかし病気の認知度が低く、2016年に開院した当時は特に、リンパ浮腫の日帰り手術を専門に行う個人のクリニックは少なかったでしょう。当時に比べて今は対応するクリニックが増えてきましたが、リンパ浮腫の治療を取り巻く現状としては、執刀医が非常勤で患者さんが手術の日まで医師に会えないようなケースも未だ少なくありません。ですから当院ではリンパ浮腫の治療をメインとし、手術から術後の理学療法までワンストップで提供することで、不安を抱える患者さんに寄り添えるように努めてきました。リンパ浮腫は日によって状態の良し悪しがありますが、タイミングを逃さず対応することが肝心であると考え、相談しやすい環境を整えているんです。
井上先生のご経歴や、クリニックを開院されるまでの経緯について教えてください。
【井上先生】東京大学を卒業後、同大学付属病院の形成外科に入局し、波利井清紀教授、光嶋勲教授のマイクロサージャリーという顕微鏡を使って行う手術を間近で見させていただいて、非常に感銘を受けたんです。その後は、さらに知識を深めたくて東京大学大学院に進学し、コロンビア大学にも留学しました。帰国後は、静岡がんセンターなどでマイクロサージャリーの経験をたくさん積ませていただきました。やがて、若い医師たちにマイクロサージャリーについて教える立場になったのですが、私自身が手術に携わる機会が減り、後輩たちが頼もしく育っていく中で、できることはやったという思いもあり、一医師として直に患者さんのお役に立ちたいと思うようになりまして。そんな折にタイミングよく大学時代の同級生に誘われて、同じ建物内で開院することになりました。
2024年7月には、新たに楊先生を院長に迎えられたそうですね。
【井上先生】はい。ありがたいことに患者さんが増えてきましたので、クリニックの体制をより強化するために私は院長職を退き、楊先生にお任せすることにしました。現在、リンパ浮腫に関しては私と楊先生を中心に、常勤2人と非常勤5人の7人で診ています。
【楊院長】私は井上先生と同じ東京大学医学部附属病院の形成外科の医局出身で、在籍していた教室の先輩の紹介でこちらに勤めることになりました。大学病院ではリンパを専門に診療していて、リンパ浮腫のマイクロサージャリーによるリンパ管静脈吻合など、多くの症例を経験してきました。当院でもこれまで培ってきた技術を生かして、患者さんの役に立てれば幸いです。
患者を不安にさせないために標準治療をワンストップで
クリニックの特色について、教えてください。
【楊院長】リンパ管静脈吻合から圧迫治療まで、リンパ浮腫に関する治療を一通り提供できることが特色の一つです。リンパ浮腫は手術だけ病院でして別のクリニックで理学療法を受けるケースがよくありますが、もしそれぞれで診療方針が違った場合、治療の途中で患者さんが不安になってしまいかねないでしょう。その点、クリニックで一通りの治療ができることは同じ理論下で診療を続けられることでもありますから、患者さんにとって合理的ではないでしょうか。リンパ浮腫は手術をしても完治する病気ではなく、付き合っていく病気です。継続的に診ながら、いかに悪化させないかが鍵になりますので、「手術をした先生に長く診てもらえる」というのが、患者さんの安心感にもつながると考えます。
【井上先生】他にも、患者さんに対するホスピタリティーを大事にしています。患者さんが肌身で感じる安心感は、そういった心がけからも醸し出されると思っています。
診療はどのように進めていきますか?
【井上先生】手術や理学療法を駆使しながら、患者さんにとって一番良い形を提供できればと考えています。ご自身の病状について悩みや不安が大きいでしょうから、なるべく解消して差し上げたいですね。そのために大事なのは、正しい診断です。リンパ浮腫は問診や見た目である程度わかりますが、検査に基づいた診断結果をしっかりお伝えすることで、患者さんに安心していただけるように思います。インドシアニングリーンという薬を使用した蛍光リンパ管造影を使ってリンパ管の機能がどれくらい残っているか、静脈瘤など静脈系の問題が隠れていないか、浮腫の具合や進行具合などを見極めます。特に超音波診断の進歩は著しく、これまで見ることができなかったリンパ管を可視化できるようになり、症状に合わせてピンポイントの手術をすることが可能になってきています。今では当院のリンパ浮腫の術前診断に欠かせない検査となっています。
クリニックの設備や内装のこだわりについて、教えてください。
【井上先生】リンパ浮腫の診療に用いる医療機器は高性能のものをそろえています。リンパ管は最小0.2ミリと、とても細いので、これを可視化するための超音波診断装置、手術用顕微鏡、また、手術でリンパ管を操作するための器具もこだわって選んでいます。加えて、クリニックの内装は、患者さんにリラックスしてお過ごしいただけるよう、できるだけ自然の素材を使用しています。ドアを開けて入ってきた時に、木があって石があって緑が見えて……と、落ち着ける環境づくりを意識しました。手術室については、ライトを落とすことによって、横になって眠くなるような雰囲気になるようにと心がけました。手術といっても切開する箇所は2、3センチで小さいですから、部屋全体に電気を煌々と照らす必要はないんです。待ち時間から治療に至るまで、気持ち良くお過ごしいただければと思っています。
リンパ浮腫の不安を抱える人の「よりどころ」に
診療にあたって、心がけていることは何ですか?
【楊院長】当たり前かもしれませんが、「正しい診療」に努めることです。患者さんにうそをつかないのはもちろんのこと、学術的にしっかりと診療することを第一に考えたいです。私は院長になってまだ間もないですが、当院は2016年の開院以来、地に足をつけて実直に続けてきただけに、皆良い意味で営業的ではなく、医師としても安心して働ける環境だなと感じています。患者さんにも、そういった姿勢が伝わったらうれしいですね。
スタッフが皆、誠実に患者さんと向き合っているのですね。
【井上先生】そうですね。リンパ浮腫をはじめ、医療は多職種が関わっていますからチームワークも必要で、縦割りではなく横のつながりが大事だと思っています。患者さんを中心にしてチーム全体で診ていくためには、自分の仕事だけやればいいというわけにはいきません。お互いの仕事を理解した上で自分のすべきことを考えるようにすることで、相乗効果が生まれますから、尊重し合いながら仕事をしようと心がけています。
今後のクリニックの展望について、教えてください。
【井上先生】開院から8年以上たち、リンパ浮腫の標準的な治療をワンストップで提供するという理想は、ある程度実現できてきたかなと感じています。一方でリンパ浮腫の患者さんが偏った情報に振り回されたり、不安でクリニックを転々としたりすることは、今も少なくありません。今後も不安を抱える患者さんが「ここに行けば何とかなる」と思える存在としてあり続けられるよう、楊院長をはじめとする先生方の力もお借りしながら、診療を続けていきたいです。
【楊院長】当院に在籍している先生は、皆リンパ腺の診療のエキスパートですから、安心して受診していただけたら。私も井上先生の思いを引き継ぎ、お力になれるように努めますので、悩んでいる方はご相談ください。