長濱 久美 理事長の独自取材記事
メディケアクリニック石神井公園
(練馬区/石神井公園駅)
最終更新日:2024/10/07

石神井公園駅より徒歩2分の「メディケアクリニック石神井公園」を訪ねた。商店街の一角にある、明るくて親しみやすい雰囲気のクリニックだ。長濱久美理事長は、地域住民から頼られていた祖父のような医師をめざし、2014年に同院を開業。外来診療と訪問診療という2つの柱で地域の医療に貢献している。訪問診療においては地域のケアマネジャー、訪問看護ステーション、介護施設などと連携し、24時間365日対応できるように体制を整えている。「外来では、些細なことでも気軽に相談できる地域のドクターとして、訪問診療はその人らしい選択肢の一つとして、患者さんと一生の付き合いをしていきたいですね」と話す長濱理事長に、地域医療に対する思いを聞いた。
(取材日2024年7月5日)
地域との連携で、訪問診療に力を注ぐ
多くの医師やスタッフがいらっしゃいますが、診療体制についてお聞かせください。

当院は外来診療と訪問診療を行っており、医師は10名、スタッフは50名弱で運営しています。午前の外来は私が担当し、午後は訪問診療があるので、ほかの先生に交代で担当していただいています。訪問診療は定期と緊急時の訪問を行っており、緊急時は365日24時間、医師と看護師がペアになって訪問する体制です。必要に応じて臨時訪問や、入院先の手配なども行います。6名で開業したので、10年間でかなりスタッフ数が増えました。当院の考え方に賛同してくれた医師やスタッフが集まってくれて、多くの患者さんに対応できるようになり、たいへん感謝しています。
訪問診療の利用状況はいかがですか?
個人のお宅からの依頼が多いです。足腰が弱って通院困難な方が基本ですが、がんのターミナルケアなどにも積極的に対応しているので、国立がんセンターや国立がん研究センター、大学病院などからのご依頼も多いです。私が訪問診療に力を入れるのは、その方らしい人生の過ごし方を選択してほしいと思うからです。ご本人の要望を聞きながら、医学的に必要な検査や、やらないことによるデメリットなど、なるべくわかりやすく時間をかけて説明し、病院とも連携しながらサポートさせていただくよう心がけています。当院では、「わたしのカルテ」という冊子を用意しています。どういった医療を、どこで受けたいか、もしくは受けたくない医療は何かといったことを記入できる冊子です。外来に通院されている方にも必要に応じてお渡しさせていただいております。こうしたツールを使って、患者さんとお話しすることも大切だと考えています。
地域や他職種との連携にも力を入れているそうですね。

多職種との連携は開業当初から大事にしていることです。現在も毎月「石神井医療介護連携会」というのを実施して、毎回80団体近い方々にご参加いただいています。多職種とは、医療や介護の職種に限りません。ハウスクリーニング業者や、ネイリストの方、弁護士さんなどもいらっしゃいます。例えば、寝たきりの状態でも、おしゃれが好きな方の爪をケアすると笑顔になったり、部屋の掃除を行うことが健康状態の変化に結びついたりといったことがあるのです。事業者の方も医療者の知見を得ることで、患者さんへの接し方がわかり、安心してサービスを行えるでしょう。また、当院では患者さんの情報を共有できるシステムを利用し、ケアマネジャーや薬剤師、ご家族と密な情報のやり取りができるようにしています。こうした連携は今後も継続していく予定です。
患者の話をよく聞くことが診療の基本
外来ではどのような患者さんが多いですか?

外来の患者層としては、30代や40代の方から80代の方まで幅広くいらっしゃいます。風邪や長引く咳などの方のほかに、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病の方が多いですね。私自身は開業前、呼吸器内科を専門に学んできましたので、現在も、喘息や咳喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、睡眠時無呼吸症候群(CPAP管理)、慢性咳嗽など呼吸器疾患の診療を得意としています。なかなか咳が止まらないと悩まれている方は非常に多いので、お困りの方はお気軽にご相談いただければと思います。咳喘息の方は最近多いですが、放置すると喘息に移行することもありますので、早めの受診をお勧めします。また、咳は肺がんなど大きな病気のサインということもあります。肺がんは症状が出る頃には進行している可能性が高いので、早期発見のためには病院に行ってほしいですし、年に1回は検診を受けるようにしてください。
診察にあたって心がけていることはありますか?
まずは患者さんのお話をよく聞くようにしています。何よりも、患者さんがリラックスして何でも言える環境づくりが大切です。また、診療の最後に、「ほかに気になることはありませんか?」とお聞きするようにしています。薬に関しては、ウイルス性なのか細菌性なのかなどはきちんと考慮した上で診断・処方するようにしています。複数の病院にかかって薬の数が多い患者さんもいらっしゃるので、薬の種類をなるべく増やさないようにすることも大切です。当院には東洋医学を専門とする医師もいるので、漢方の処方にも自信を持っています。
訪問診療と外来診療では対応も異なりますでしょうか。

訪問診療でも外来診療でも、基本的な部分は変わりません。患者さんにとって、何でも話せて聞いてくれる存在でありたいと思っています。訪問診療ならではのコミュニケーションでいうと、お部屋にある置物などから話題を広げられることですね。患者さんのお宅に伺うので、飾られているものから趣味趣向がわかることもあります。また、訪問診療は医師と看護師がペアで行うので、互いの役割分担も重要です。例えば、医師に本音を話しにくいと感じている方には、医師が離れている間に看護師が話を聞くなどします。ご家族が不安を抱えていらっしゃるようなときは、本人の前ではなく、クリニックにお越しいただいてお話を伺うといった対応も必要です。当院の訪問診療は、患者さんやご家族との対話を重視している分、通常の訪問クリニックよりも診療時間が長めかもしれません。
呼吸器を専門とし、患者の全身を診る
先生が医師をめざすようになった理由を教えてください。

医師をめざすようになったのは、祖父が岡山で開業して働く姿を小さい頃から見ていたのがきっかけでした。祖父も地域に密着した医師で、いろんな患者さんに頼りにされていて、「町のお医者さんって良いな」と思っていました。大学で医療の道に進み、大学病院に勤めていた時期もありましたが、やはり理想の医師として祖父の姿が根底にあり、地域で開業するという、同じ道を選択したのだと思います。在宅医療に力を入れているのも、超高齢社会の中で、地域と連携した在宅医療の需要がさらに高まっていくだろうなとずっと考えていたからです。
呼吸器を専門とされたのはなぜですか?
理由としては、全身を診られるからです。もちろん、他の分野でも全身を診ることに違いはないのですが、自分に合っているなと思ったのが呼吸器内科でした。呼吸器内科は、がん、感染症、難病、人工呼吸器の管理など診療の幅が広いことが特徴です。消化器内科とも迷ったのですが、呼吸器内科は消化器内科に比べて検査の数が少ない分、より患者さんに向き合う時間が多いように思いました。私は患者さんとできるだけ多くお話しする時間を持ちたかったので、そうした意味でも呼吸器内科がいいのかなと。現在、週に1回ですが、順天堂大学医学部附属練馬病院の呼吸器内科で診察をさせていただいております。例えば、当院の患者さんで、入院が必要となった方を紹介できれば、私も様子を把握できるので安心です。
今後の展望をお聞かせください。

将来の大きな目標は、クリニック周辺を訪問診療が強い地域にすることです。そのためには、地域や多職種との連携は不可欠ですし、診療の効率化も考えなければなりません。現在、北は光が丘、南は吉祥寺、東は桜台、西は西東京市まで訪問診療に対応しています。当然移動時間が長くなれば、訪問できる患者さんに限りが出てしまうので、いかに効率良く訪問できるか工夫しなければなりません。訪問診療を望む患者さんが増加する一方で、訪問診療を行う医療者は思うように増えていかないという現状があるので、より多くの患者さんを診られるよう考えたいと思います。また、地域の連携においては、町会や商店会とも協力し合うことで、災害時の医療にも備えていく予定です。在宅介護や医療を受ける人が、災害時もスムーズにケアを受けられる、災害に強い地域にできればと思います。