羽賀 達也 理事長の独自取材記事
羽賀糖尿病・甲状腺内科
(愛西市/五ノ三駅)
最終更新日:2025/06/25

五ノ三駅から徒歩10分、田畑の多いのどかな地域にある「羽賀糖尿病・甲状腺内科」。「糖尿病でない人と同じ暮らしを糖尿病患者さんにもしてもらいたい」と、日本糖尿病学会糖尿病専門医でもある羽賀達也理事長が一人ひとりに寄り添ったきめ細かな医療を提供している。長年糖尿病治療に特化してきたが、近年は大学病院や地域基幹病院から糖尿病・内分泌を専門とする医師を招いて甲状腺など内分泌疾患の診療にも熱心に取り組んでいるという。診療の傍ら、海部医師会の会長として地域医療の向上にも尽力する羽賀理事長。やわらかな表情と優しい口調から、穏やかな人柄がうかがえる羽賀理事長に、クリニックの治療方針や特徴、糖尿病の診療にかける思いを聞いた。
(再取材日2025年5月28日)
食事・運動・薬で、糖尿病患者のQOL向上をめざす
開業されて18年とのことですが、振り返って感じられることは?

糖尿病に特化しているので、糖尿病の患者さんが少しでも糖尿病でない人と同じように暮らせるということをめざして日々の診療に臨んでいます。診療では患者さんのお仕事や生活スタイル、ご家族のことなどをお聞きしていますが、それらは糖尿病の状態に大きな影響を及ぼします。食事の時間帯、手料理なのか外食が多いのか、運動できる環境にあるのか。それらにより患者さんがどのような生活をされているのかを想像し、どのように工夫をすれば糖尿病の状態が良くなるのかを考えます。深夜に帰宅して早朝に出勤する方に、家に帰ってから運動してくださいなんて言えないですからね。そのようにお一人お一人に寄り添った診療の積み重ねが、今につながっていると感じます。
糖尿病のほか、甲状腺疾患の診療にも対応されていますね。
もともと甲状腺疾患の方も診療していましたが、現在は内分泌専門の医師が診療しているため、2024年に医院名に「甲状腺内科」を加えました。今は甲状腺疾患の患者さんが多く来られています。甲状腺というのは頸の喉仏のすぐ下にあるチョウの形をした小さな臓器で、代謝を調節しています。このため、体温、脈拍数、体重、活動量に影響を与えます。お子さんでは体の成長をサポートします。甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症、甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症があり、前者はバセドウ病、後者は橋本病が代表的な病気になります。甲状腺機能亢進症では多汗、手の震え、動悸、体重減少などの症状が見られます。甲状腺機能低下症の症状は無気力、疲れやすい、体重増加、脂質異常、うつ状態、嗄声、脱毛、月経異常などがあります。
スタッフ体制について教えてください。

管理栄養士1人、臨床検査技師2人、看護師4人です。彼女たちは糖尿病の方を指導するための専門知識を持っています。医師は愛知医科大学病院、藤田医科大学病院や近隣の基幹病院などから7人の先生に非常勤で来てもらっています。このため、ほとんどの診療日で二診制をとっています。女性の医師も4人おり、患者さんがご自分と相性が合う医師を選択できます。私が3年前から海部医師会の会長を務めるようになり、その仕事で忙しくなったこともあって、診療に出ない時間帯も非常勤の先生が専門的な診療を提供させていただいています。
糖尿病を逆手に捉え「一病息災」を体現してほしい
糖尿病というと、長く付き合っていかなければいけないイメージがあります。

治癒が難しい病気なので確かにその側面はありますが、近年、糖尿病の治療は非常に速いスピードで進化しており、糖尿病を有する人は糖尿病でない人とほとんど変わらない生活が望めるようになってきています。逆に、糖尿病の方はがんや心臓疾患など重大な病気が糖尿病でない人よりも早く見つかるといわれています。糖尿病の治療で通院していることから、重大な病気が早く見つかりやすいのです。糖尿病は食事、運動など生活習慣の見直しが基本です。食べる順序、栄養素のバランス、体重が多すぎる方は摂取カロリーが適切であるか、どの程度の運動をしているかを確認します。お仕事でたくさん歩くとか力仕事をしている方はそれ以上の運動は必ずしも必要ではありません。食事・運動の見直しを実践しても血糖コントロールがうまくいかないときはお薬の出番です。
糖尿病の薬物治療について詳しく教えてください。
以前は、膵臓からインスリンを多く出して血糖値を下げるためのSU薬が主流でした。SU薬は低血糖を起こす危険があるため、最近では、低血糖を起こしにくいビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬など変わってきています。特に、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、体重を落としながら動脈硬化を抑制し、腎臓を守ってくれることが期待できます。GLP-1受容体作動薬はホルモン剤なので注射ですが、週に1度注射すればよい製剤が主流になっています。新たに内服タイプが加わり、多くの人が使用できるようになってきました。さらにGIP/GLP-1受容体作動薬が使用されるようになり、大きな威力が見込めるようになりました。
糖尿病の治療薬は、腎臓疾患にも用いられているそうですね。

さまざまな病気に効果が期待できる薬ができました。例えば、SGLT2阻害薬は糖尿病に限らず、広く慢性腎臓病や心臓病の治療にも期待ができることがわかりました。また、GLP-1受容体作動薬では、腎臓疾患の治療に活用できないか研究されているものがあります。糖尿病によって腎臓や心臓に症状が出る前に対策を取ることで、重篤な状態になることを防ぐことが重要です。
糖尿病は「一病息災」という言葉が当てはまる病気だとお考えだそうですね。
当院の患者さんの多くは糖尿病という病気を持っていますが、その治療は取りも直さず健康的な生活につながる行動です。患者さんからの相談に対してその都度アドバイスをさせていただきますが、患者さん方は病院にかかっていない方より、いざというときに役立つ予備知識を持たれているのではないでしょうか。また、定期的な検査を受けられているため、少しの変化でも医師は早く気がつくことができます。その原因に重大な病気が生じていないかを確認する検査で超早期に微小がんが発見されるということもあります。最近の日本の調査では、糖尿病をお持ちの方はそうでない人と寿命がほぼ同じであるという結果が示されてきました。当院にもお元気な80歳以上の方が多数おみえになります。
換気システムやCO2モニターなど徹底した感染症対策
先生は多趣味だと伺いました。

最近はプールで泳いでいます。水泳はあまり得意でなかったので、スイミング教室で教えてもらっていますが、速く泳ぐための方法を一つずつ習得できるので結構楽しくやっています。夜や休日は声楽の練習もしています。もともと声楽をしていた妻に誘われてやってみたのですが、かなり難しいですね。バリトンの先生に教えてもらっていて、発表会で歌うくらいですがすごく楽しいです。腹筋や横隔膜をきちんと使わなくては良い声が出ないので、インナーマッスルが鍛えられます。また、声帯から出た響きが咽頭を通過して副鼻腔や頭蓋骨を響かせながら言葉と一緒になって音を作るというのは非常に興味深い作業です。声楽は健康のためにもなると思いますよ。
感染症対策についても教えてください。
当院は、外からフィルターを通したきれいで新鮮な空気を中に入れて、室内の汚れた空気を外に出すという第1種換気システムを採用しています。また、二酸化炭素がどのくらいあるのかを検知するモニターで待合室が三密になっていないことを確認しています。窓を閉めきっていると患者さんが不安に感じられるので、換気中だということがわかるステッカーを換気口に貼っています。また、次亜塩素酸を利用した空気清浄機のほか、サーモグラフィーカメラを設置し、非接触で体温を計測しています。このほか、効率良く診療を進めて患者さんの在院時間を短縮するために、ウェブ問診も開始しました。
最後に、読者へのアドバイスをお願いします。

2型糖尿病は早期発見・早期治療が重要であることが明らかになっています。症状がなくても健診でヘモグロビンA1cや血糖値が高いと指摘を受けたら、すぐに専門の外来を受診してください。そしてなるべく早く、血糖値を正常に近い状態に持ち込むことが大切です。後はその治療を継続すれば生涯、合併症を心配せずに生活を送ることも望めるでしょう。また、甲状腺が腫れていると言われた方、甲状腺が心配な方は、ぜひウェブか電話で予約を取り受診をお願いしたいですね。