鍵はホルモン値のコントロール
甲状腺疾患の妊娠・出産への影響
名古屋甲状腺診療所
(名古屋市中区/上前津駅)
最終更新日:2022/01/11


- 保険診療
出産年齢の高齢化が進む昨今、子どもを持ちたいと願う人にとって甲状腺疾患がどんな影響を及ぼすのかは、気になるところではないだろうか。最近ではブライダルチェックの一環として、甲状腺の検査を受ける人も増えているという。「甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの過不足は卵巣機能に関わるため、妊娠・出産を希望し、該当する症状がある方はぜひ検査を受けてほしい」と話すのは、「名古屋甲状腺診療所」の大江秀美院長。甲状腺疾患の治療を専門とする同院では、女性が安心して妊娠・出産、そして子育てに臨めるよう、甲状腺機能のコントロールをすることによりサポートを行っている。そこで今回は、甲状腺疾患が妊娠・出産に及ぼす影響や、もし甲状腺に異常が見つかった場合はどんなことに気をつければいいのかについて詳しく話を聞いた。
(取材日2021年12月1日)
目次
継続的な検査・治療で、甲状腺ホルモン値を正常値へとコントロールしていくことが大事
- Q甲状腺疾患とはどのような病気ですか?
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A
▲日常生活の中で見過ごしがちな症状が、甲状腺疾患の場合も
甲状腺は、体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンを産生・分泌する臓器です。甲状腺の働きに異常があると、甲状腺ホルモンの過不足によってさまざまな症状が現れます。例えば、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症の代表的な病気「バセドウ病」では、動悸や手足の震え、多汗、頻脈、体重減少、眼球突出などの症状がみられます。一方「橋本病」では、甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症になると、むくみ、体重増加、冷え、物忘れなどの症状がみられます。どちらも妊娠・出産を考える20~40代の女性にも多いことから、思い当たる症状があれば、妊娠を検討する段階で専門の医療機関を受診することをお勧めします。
- Q甲状腺機能に異常があると、妊娠・出産に影響するのでしょうか?
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A
▲甲状腺疾患はセルフチェックが難しいため、臨床検査が重要だ
甲状腺ホルモンの大きな異常は卵巣機能にも関与するため、甲状腺機能が亢進・低下していると、妊娠・出産に影響を及ぼしかねません。例えば、妊娠前は月経不順になったり、妊娠中も流産や早産のリスクが高まったりする可能性があるとされます。また不妊症の場合、わずかな甲状腺機能の異常でも治療が勧められるケースもあります。そのため、妊娠を希望する方は専門家の診断・治療を受けることが大切といえます。甲状腺の病気があっても、適切に治療して甲状腺機能が正常で安定した状態が保たれていれば、妊娠・出産は可能です。なお、当院では婦人科、産科と連携し、患者さんがより安全に妊娠・出産に臨めるようサポートしています。
- Q甲状腺に問題がある場合、妊娠中の注意点を教えてください。
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A
▲ホルモン値のコントロールが鍵となる
甲状腺ホルモンは妊娠の継続や胎児の成長にとって欠かせないものなので、妊娠中は、適宜検査をして甲状腺ホルモン値を正常に保つことが重要です。そのため妊娠が判明したら早めに受診してください。甲状腺機能低下症の方は甲状腺ホルモン薬を継続して服用する必要があり、量を増やすこともあります。また、バセドウ病の方は甲状腺ホルモンの産生を抑える薬を服用しますが、薬によっては妊娠初期に胎児への影響が出る可能性もあるため、妊娠前に主治医と治療方針について必ず相談しましょう。また、妊娠中に病状や検査値が安定しない場合は胎児への影響が懸念されるため、新生児科や小児科の診療を行っている病院での出産を勧めることもあります。
- Q出産後も気をつけたほうがいいことがあれば教えてください。
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A
▲初期段階で治療につなげることが、症状を悪化させないために大切
出産後は甲状腺ホルモン値の変動が起こりやすくなるため、妊娠中の服薬の有無にかかわらず定期的な通院が必要です。特にバセドウ病は産後に悪化する傾向があるため、内服治療の再開や内服薬の増量が必要な場合があります。薬の種類や内服量によっては母乳に影響することもあるため、授乳について事前に主治医と相談しておきましょう。一方、甲状腺機能低下症では妊娠中増量した場合、内服量を妊娠前の量に戻します。特に橋本病の方は、産後に甲状腺ホルモン値が一時的に大きく変動することがあるため、その際は甲状腺ホルモン薬を一時的に減量または休薬することもあります。なお、甲状腺ホルモン薬は授乳中であっても服用に差し支えありません。
- Q内服治療以外にも治療法はあるのでしょうか?
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A
▲薬の副作用についてもしっかり説明を行っている
バセドウ病にはアイソトープ治療と手術という選択肢もあります。アイソトープ治療は放射性ヨウ素のカプセルを服用し、甲状腺細胞を減らす方法です。ただ、妊娠中・授乳中・18歳以下の方は避ける必要があり対象が限られます。また、永続性の甲状腺機能低下症になったり、まれに目の症状が悪化したりする可能性があることも理解しておく必要があります。一方、手術は甲状腺を全摘する方法が最近の主流で、早く治したい方や甲状腺の腫れが大きい方に適しています。ただし、入院が必要なことや手術の痕が残ること、甲状腺機能低下症になり継続的な服薬が必須となることも理解した上で選択するようにしましょう。