青木 宏明 院長の独自取材記事
青木産婦人科医院
(世田谷区/下高井戸駅)
最終更新日:2023/02/15
京王線下高井戸駅から徒歩3分。「青木産婦人科医院」は1941年に赤堤で開業されて以来、80年以上の長きにわたり、地域に根差す産婦人科医院だ。2019年には青木宏明先生が3代目院長に就任し、施設をリニューアル。自然分娩を基本にする方針はそのままに、緊急事態に備えるための設備も整えた。受付横の吹き抜けには初代院長が2代目の院長に贈った母子の屏風絵が飾られ、温かな医院の象徴にもなっている。木のぬくもりを感じる明るい院内は、居心地の良い空間というだけでなく、出産・育児の悩み相談や、親同士をつなぐ場としての役割も果たす。先代からの想いを受け継ぎ、女性の「産む力」を見守る青木院長に、同院で力を入れる取り組みなどについて話を聞いた。
(取材日2020年2月4日/情報更新日2022年10月19日)
開業以来の方針を貫き、自然な形での分娩をめざす
80年以上も続く産婦人科医院で、院長は3代目だそうですね。
そうなんです。おかげさまで2021年に80周年を迎えました。当院にいらっしゃる妊婦さんは、ご自身はもちろんその親御さんもここで生まれたという方が少なくありません。3代にわたって関わった一つ一つのお産が、命としてつながっていることを改めて実感します。もともと親の背中を見て育った私にとって、医師を志し、産婦人科の道を選んだのは自然なことでした。大学病院などでの仕事もやりがいがあったのですが、教育や研究がメインになり、臨床に携わる機会が減ったことが地域に戻ろうと思った理由の一つです。妊婦さんとじっくり向き合い、お産に携わりたいという気持ちがだんだん大きくなり、いつかは後を継ぎたいという気持ちを後押ししたのかもしれません。
たいへんきれいで気持ちのいいクリニックですが、リニューアルの際にこだわったところは?
設計は高校の同級生にお願いしました。私から希望したのは、温かな雰囲気で、お母さんたちが診療以外でも集まれるような場所にしたいということ。例えば1階のコミュニティールームは母親学級や子育て相談など、いろいろな目的で使用できるように広くとりました。2階のラウンジスペースは、外の緑を見ながら面会に来た方との団らんやお食事にも使っていただけます。また、木のぬくもりにこだわりながら、受付のカウンターなどは小さな子どもに危なくないように角を丸くする工夫もしています。2階の病室も天窓を設けるなど外からは見えないようにしつつ、光がたっぷり差し込む造りなんですよ。患者さんからも好評で、「先生の雰囲気に合ったクリニックですね」と言われた時はうれしかったですね。
先代から受け継ぎたいこと、新しくしていきたいことを教えてください。
父が院長の時代から少しずつ一緒に働くようになったのですが、その頃は帝王切開は行わず、経腟分娩だけに対応していました。大学病院にいるとハイリスクの分娩が多く、帝王切開もたくさん行っていたため、経腟分娩だけで大丈夫なのかという思いもありました。ただ実際にここで分娩に携わっていると、ほとんどの方は経腟分娩で産まれるんですね。自然な形での分娩はこれからも受け継いでいきたいところです。一方で、急きょ帝王切開による分娩が必要になることもあります。ですから緊急の事態を含め、帝王切開もクリニック内できちんと対応できるように設備を整えています。
お母さんの産む力を大事にしていらっしゃると聞きました。
これまでたくさんの方を診てきましたが、妊婦さんには産む力があるんですね。お母さんは強いなと思います。私たちの役割はその力を引き出してあげること。決して私たちが産ませるのではなく、お母さんたちが自分の力で産むんです。そしてその分娩一つ一つをスタッフみんなで全力でサポートしていきたいと思っています。また、当院では、妊婦さんへの指導を均一的なものにしたくないため、マタニティーブックのような教科書的なものは作っていないんです。妊婦さんそれぞれの考え方やバースプランを尊重し、一人ひとりに寄り添えるように努めています。
助産師による外来で不安や疑問の解消へつなげたい
妊婦健診で大切にしているのはどのようなことですか?
異常を見つけるだけでなく、妊婦さんを不安にさせないことも医師の大切な仕事です。例えば胎児に少し気になるところがあっても、2週間後の健診まで経過観察でいいという場合は、あえて伝えないこともあります。そのまま話すと、心配な気持ちを抱えたまま2週間を過ごさなければならないからです。若い頃は何か見つけたらすぐにお伝えしなければと思っていました。でも、お母さんが赤ちゃんに感じる不安はとても大きいんですよね。今は妊婦さんの気持ちをより考えながらお話をするようにしています。また、おなかに張りがあるからといって仕事を休ませたり、自宅安静などの指示を出したりしても、実際に早産が減るというデータはほとんどありません。妊婦さんのQOLを保つことも医師の仕事です。駄目なものは駄目と伝えますが、過剰になりすぎず、大丈夫なことはきちんとそのように言ってあげたいですね。
分娩時にはどんな点に気を配っているのでしょうか?
気になることがあれば必要に応じて医療介入を行いますが、なるべく自然分娩を行うことが基本姿勢ですね。分娩にメインで関わることになるのは助産師さんです。理想を言えば、助産師さんだけで出産が完結できればいいですし、そういう意味では医師は待つことも多いかもしれません。助産師さんによく話すのは、なるべく妊婦さんに寄り添ってほしいということ。自然分娩で頑張るお母さんにとって、助産師さんがそばにいてくれることはとても大きな力になりますから。自然分娩にこそ最高のケアを提供したいと思っています。
助産師による外来ではどのようなことを行っていますか?
自然分娩で産みたいと思っても、妊娠した時点ではよくわからないという方がほとんどでしょう。そこで出産までに3回、助産師の外来を設け、毎回30分程度、不安や悩みについて聞く時間を取っています。診療の際にはなかなか長くお話しできないので、医師には聞きにくいこともぜひざっくばらんにお尋ねいただきたいですね。分娩のことを何も知らないまま本番を迎えるのは非常に不安でしょうし、痛みの感覚を2倍、3倍と強めてしまうことにもなりかねません。助産師さんと話すことで不安を解消するのに加え、分娩時の痛みがいつまで続くのかといった知識を前もって知ることもたいへん大事です。こうした情報や、出産に向けた体づくり、心構えなどについては両親学級でもお伝えして、少しずつ準備をしてもらえるように心がけています。
お産は素晴らしいこと。快適なマタニティーライフを
「子育て相談室」について教えてください。
一般的に産婦人科では、産後の1ヵ月健診まで母子を診ることが多いです。ただその後、実家から自宅に戻ったり、逆に手伝いに来ていた自分の母親が帰ってしまったりすると、赤ちゃんと2人で残されたお母さんが孤立してしまうことも少なくありません。中には産後うつに陥る人もいます。そうしたときに何かお手伝いができればと思い、当院では2005年頃から「子育て相談室」の場を設け、続けてきました。産後2ヵ月目は助産師と保育士で、3ヵ月目からは保育士がメインとなって相談に乗っています。1人目のお母さんだけでなく、2人目のお母さんも参加したりするので、いろいろな意見交換もできているようです。新米ママにとって仲間づくりができる最初の場としても大事にしたいですね。
クリニックという診療環境をどのように感じていらっしゃいますか?
院長として戻ってきてから、何より分娩と向き合える時間が増えました。大学病院の外来は週1~2回ですし、それまで診ていた患者さんの分娩に立ち会えないことも多くありました。今のように、ずっと見守ってきた妊婦さんの出産まで立ち会えるのはうれしいことです。同じ医師が継続して診られる環境は、細かい変化に気がつけるなど医療的なメリットもあります。これからも妊婦さんと向き合い、できる限り自然な形での分娩を行っていきたいですね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
長い間この仕事をしていますが、今でも出産のたびに感動をもらっています。お産は怖いもの、心配なものではなく、喜びにあふれた本当に素晴らしいものです。私たちも妊婦さんたちが快適な妊娠生活を送っていただけるよう、そして出産が素晴らしいものとなるよう、力を尽くしてサポートしていきたいと思っています。