こちらの記事の監修医師
順天堂大学医学部附属練馬病院
メンタルクリニック先任准教授 臼井 千恵 先生
せんいきんつうしょう線維筋痛症
最終更新日:2024/02/19
概要
3ヵ月以上にわたって、全身の広範囲に激しい痛みが起こる病気。現時点において原因がわかっていないことから、一般的な検査では異常が見つかることはありません。しかし、体の強いこわばりや疲労感、睡眠障害、頭痛、抑うつ状態などのさまざまな症状を引き起こすのが特徴。病気が進行すると複数の症状が慢性化してしまい、日常生活に支障を来すことに。爪や髪への刺激など、弱い刺激でも激痛を感じるケースもあります。日本においては関節リウマチよりも多い約200万人以上の患者が存在するとされます。40代後半から50代の女性に多く、他にも若年性線維筋痛症や65歳以降の高齢者も発症しやすいことが判明しています。なお、関節リウマチのように関節の変形などを伴うことはなく、命に関わる病気ではありません。
原因
現時点において、病気の決定的な原因はわかっていません。さらに、痛みやこわばりなどがある部分に炎症が起きていないことも明らかになっています。中枢神経系、特に脳内において、痛み刺激の処理が増幅されるか、疼痛抑制系が十分に働かないか、あるいはその両方であると考えられています。疼痛の知覚、伝達、送信が増幅される経路があるとも考えられています。つまり、痛みに対して通常よりも過敏になっている状態であるというのが世界的な共通認識となっています。また、この神経の障害は、ストレスやPTSD、外傷などによって引き起こされる可能性も議論されています。
症状
全身の広範囲に激しい痛みを伴うことがほとんど。軽度な痛みから激痛まで幅広く、慢性的に発症します。また、体の強いこわばりを感じることも。しかし、関節リウマチのように関節の腫れや変形はありません。さらに、このような痛みやこわばりに加えて、疲労感や倦怠感、睡眠障害などが引き起こされることに。他にも目や口の乾燥や手の膨張、過敏性腸症候群、頭痛や動悸、体の冷え・火照り、抑うつ気分、集中力の低下、耳鳴りなど、全身のあらゆる部位にさまざまな症状が現れます。複数の症状が同時に起こり続けることによって、日常生活に支障を来すケースも珍しくありません。
検査・診断
線維筋痛症の原因がわかっていないことから、血液検査や尿検査、エックス線検査など一般的な検査では病気を特定することはできません。そのため、米国リウマチ学会が発表した基準を用いて診断を行います。具体的には、3ヵ月以上にわたって全身のあちこちに慢性的な痛みがある場合、その痛みや症状から診断を実施します。現在日本人で妥当性が示された2010年(2011年)米国リウマチ学会の診断基準や2019年米国疼痛学会の診断基準を用いて診断します。
治療
基本的には、薬物による対症療法が中心となります。痛みの程度や症状などに応じて、疼痛治療薬や睡眠薬、抗うつ薬、漢方薬などを単独、もしくは複数を組み合わせて処方するケースがほとんど。欧米では運動療法と精神・心理療法を積極的に導入することも。ストレッチや有酸素運動、ヨガ、認知行動療法、カウンセリングなどの多角的なアプローチが有用だと考えられています。
予防/治療後の注意
線維筋痛症は命に関わることはありませんが、重症化すると生活の質(QOL)が低下し、通常の社会生活を送ることが難しくなります。実際に、症状が悪化し休職や休学となってしまうケースも少なくありません。うつ病など精神疾患を併発しやすいことから、欧米では長期的に病気を患うことで自殺率が増加するともいわれています。3ヵ月以上にわたって全身の痛みやこわばりが気になる場合、早めに医療機関を受診の上、医師に相談してください。
こちらの記事の監修医師
メンタルクリニック先任准教授 臼井 千恵 先生
順天堂大学医学部卒業後、順天堂大学精神医学講座に入局。順天堂大学の附属病院、荏原病院、豊島病院などでの勤務を経て、2010年より順天堂大学医学部附属練馬病院勤務。専門は線維筋痛症、慢性疼痛、脳機能画像、リエゾン精神医学。現在、線維筋痛症学会副理事長、線維筋痛症学会診療ガイドライン作成委員長を務める。
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