こちらの記事の監修医師
慶應義塾大学医学部産婦人科学教室
教授 青木 大輔 先生
たのうほうせいらんそうしょうこうぐん(ぴーしーおーえす) 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
最終更新日:2022/01/04
概要
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS=polycystic ovarian syndrome)は、排卵障害の一つで思春期から成年期の妊娠可能年齢の女性によくみられる病気です。発症すると、卵子の元である卵胞が発育するのに時間がかかってなかなか排卵しなくなり、月経周期が徐々に長くなっていきます。女性の20~30人に1人の割合でこの病気を発症するとされています。排卵されない卵胞が卵巣内にとどまるため、超音波検査では袋状になった多くの卵胞が見えるために多嚢胞性卵巣症候群と呼ばれます。多嚢胞性卵巣症候群は治療しなければすぐに死につながるような病気ではなく、軽症なら自然妊娠する可能性もありますが、不妊で苦しんでいる人や、月経不順、多毛などの症状で悩んでいる人は積極的な治療をお勧めします。
原因
多嚢胞性卵巣症候群の原因は、はっきりと解明されたわけではありませんが、排卵に関わるいくつかのホルモンバランスの崩れにあるという説が有力です。卵胞の成長と排卵は、脳内の下垂体から分泌されるLH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)によってもたらされますが、LHばかりが過剰に分泌され、FSHより優位になってしまうと、排卵がうまく行われなくなります。また、アンドロゲン(男性ホルモン)にも排卵を妨げる働きがあります。肥満などによって血糖を下げるホルモンであるインスリンが過剰な状態(高インスリン血症)が続くと、男性ホルモンが増加して卵胞の発育を抑制し、卵巣の膜を厚くして排卵を妨げてしまいます。そのため、多嚢胞性卵巣症候群の患者には、多毛などの男性化症状やインスリンが効きにくい体質の肥満が多くみられるとされています。
症状
多嚢胞性卵巣症候群の症状には、無月経、月経不順、不正出血、にきび、多毛、肥満などがあります。ニキビ、多毛、脱毛、低音声などは男性ホルモンの過剰による男性化の症状です。また、病気の原因と考えられている男性ホルモンの増加は、細胞でインスリンが効きにくくなる体質と関係しています。多嚢胞性卵巣症候群の患者は年とともに肥満や高血糖になる人も増加していくため、注意が必要です。排卵が起こりにくいため、妊娠の機会が減少し、不妊になる可能性も高くなります。治療しないでいると、月経周期は年齢とともにどんどん間が長くなります。月経周期が35日を超えたら、一度は産婦人科を受診することをお勧めします。
検査・診断
日本産科婦人科学会の診断基準では、①排卵障害が認められる、②高LH(黄体形成ホルモン)血症または高アンドロゲン(男性ホルモン)血症のいずれかがある、③卵巣に多嚢胞が見られる、という3つの条件にすべて当てはまり、他の病気ではないことが確認されると、多嚢胞性卵巣症候群と診断されます。そのため、診断では、問診、血液検査、超音波検査でこの3点を調べることが基本です。超音波検査では、卵巣実質の周囲に小さな卵胞が1列にずらりと並ぶ「ネックレスサイン」と呼ばれる典型的な所見があるかどうか、その数がどのくらいかによって判定します。
治療
多嚢胞性卵巣症候群には、大きく分けて、排卵障害からもたらされる不妊に対する治療と、病気の原因に対する治療があります。その選択には、患者が早期の妊娠を望んでいるかどうかが大きく関わってきます。妊娠を希望している患者には、排卵誘発剤による治療を行います。通常は内服薬で始め、効果が不十分な場合は注射薬を用います。ただ、排卵誘発剤による治療に卵胞が過剰反応した場合、卵巣過剰刺激症候群という副作用や多胎妊娠が起きることがあるため、ある程度試してうまくいかないときは、腹腔鏡下で卵巣に多数の穴を開けて排卵しやすくする手術や体外受精・胚移植を行うという選択肢があります。ただ、この手術は根治手術ではなく、効果は半年から1年程度といわれています。病気の原因に対する治療は、肥満者ではインスリンの効きを良くするための糖尿病薬を服用することで、男性ホルモンの過剰分泌などホルモンバランスの改善が期待できます。また、早期妊娠を希望しない場合は、ホルモン療法を行うことで月経不順、無月経など排卵障害の改善を図ります。
予防/治療後の注意
肥満になってインスリンの効きにくい体質の場合は、食事や運動の生活習慣を改善することが多嚢胞卵巣症候群の予防につながります。すでに発症している場合も、薬などによる治療と並行してライフスタイル改善を図ることが重要です。肥満を解消すると排卵障害も改善につながることがわかっています。また、月経不順や無月経を治療せずに長期間放置していると、子宮内膜に異常が生じ、若い方でも子宮内膜増殖症や子宮体がんが発生することもありますので、不正出血がある場合など必ず産婦人科の医師に相談しましょう。
こちらの記事の監修医師
慶應義塾大学医学部産婦人科学教室
教授 青木 大輔 先生
1982年に慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学医学部産婦人科にて研修。1988年より2年間、アメリカのLa Jolla Cancer Research Foundation(現・Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Institute)で博士研究員として活躍。帰国後は国立東京第二病院(現・独立行政法人国立病院機構東京医療センター)にて研鑽を積んだ後、1991年より慶應義塾大学医学部産婦人科で助手・専任講師を務める。2005年より現職。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医などの資格を持つ婦人科疾患のスペシャリスト。
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