こちらの記事の監修医師
医療法人社団済安堂 井上眼科病院
井上 賢治 院長
せんてんせいびるいかんへいそくしょう先天性鼻涙管閉塞症
最終更新日:2022/01/05
概要
鼻涙管閉塞症とは、目と鼻をつなぐ鼻涙管(びるいかん。泣くと鼻水が出るのは、涙が鼻涙管を伝い落ちて鼻から出るため)が何らかの原因で狭くなったりふさがったりして涙が目にたまってしまう病気で、涙が流れるのが止まらなくなる。特に先天的に鼻涙管が変形していたり、管の中に何かが詰まっていたりして閉塞している場合を先天性鼻涙管閉塞症と呼び、生後間もない新生児に見られる。呼吸によって閉塞している部位が開いたり、涙液分泌が活発化したりすることで症状が落ち着き、12ヵ月以内には高い確率で自然治癒するといわれている。
原因
目尻の側のまぶたの上にある涙腺で作られた涙は、目頭にある涙嚢内に入り、鼻涙管を伝い落ちて鼻から出るというメカニズムになっている。ところが新生児によっては鼻涙管から鼻腔に通じる箇所に膜が残ってしまうことがあり、これが先天性鼻涙管閉塞の原因となる。たまった涙が原因で鼻涙管が細菌感染を起こす涙嚢炎(るいのうえん)という別の病気を合併することもあるが、これは新生児の鼻涙管が細いため炎症が起きやすく、細菌が繁殖しやすいことが原因と考えられている。ただし新生児はもともと鼻涙管が細いため、鼻涙管が閉塞していない正常な状態でも涙嚢炎を発症することはある。
症状
下まぶたに涙がたまり、止めどなく流れ落ちる。また、たまった涙が原因で鼻涙管が細菌感染を起こす涙嚢炎を合併することも多い。涙嚢炎を合併した場合は涙に粘液や膿が混じったり、まぶたが腫れたりし、特に寝起きに大量の目やにを伴う。涙嚢炎が長引くと涙嚢周囲の皮膚やまぶたが赤く腫れたり、涙嚢周囲炎や眼窩蜂窩織炎(がんかほうかしきえん)などの疾患へつながることもある。
検査・診断
涙があふれる、目やにが多いといった症状があるかどうかを確認する。涙に粘液や膿が混じったり、目やにが多かったりという症状が認められる場合は、結膜炎や涙嚢炎など他の疾患を併発している可能性があるため眼科で検査を受けることが望ましい。鼻のつけ根辺りを押すと涙が逆流して目からあふれてくるかどうかでも診断可能。それでも確認できない場合や別の病気との鑑別が必要な場合、涙道通水試験(るいどうつうすいしけん)を行う。これは涙点(涙の出口)から生理食塩水を注入する検査で、鼻涙管が正常であれば、食塩水は鼻の奥へ流れていくが、異常があると逆流して目からあふれてくる。
治療
専用のマッサージを行うことで鼻涙管を開通させる。目の内側の鼻のつけ根付近を指で圧迫するようなイメージで10回程度マッサージし、これを1日に数回行う。先天性鼻涙管閉塞症のほとんどは、この涙嚢マッサージで治癒するといわれている。涙嚢炎を併発している場合は抗菌薬も用いる。それでも治癒しない場合には、鼻涙管開放術を行う。これはブジーと呼ばれる針金を涙点から入れて鼻涙管まで通し、涙が流れるのを妨害している膜を突き破るという術式。なお、鼻涙管開放術の実施目安時期に関しては、医師によって「早期にやるべき」「生後3ヵ月たっても症状が改善しなければやるべき」「1歳までは行うべきではない」など意見が分かれるが、具体的な治療方法や時期については医師とよく相談して決めることが重要となる。ごくわずかなケースではあるが、鼻涙管開放術を行っても状態が改善されない場合に手術を行うことも。
予防/治療後の注意
目やにがたくさん出ている場合は、お湯で湿らせた清潔なガーゼでこまめに拭き取り様子を見る。こうしたセルフケアによって症状が治まらず、目が腫れて赤くなったり、涙に粘液や膿が混じったりする場合は、眼科を受診することが望ましい。ただし呼吸によって閉塞している部位が開いたり、涙液分泌が活発化したりすることで症状が落ち着き、12ヵ月以内には高い確率で自然治癒するといわれているため、1歳半頃までは特別な治療をせず経過観察を行うことも多い。
こちらの記事の監修医師
井上 賢治 院長
1993年千葉大学医学部卒業後、1998年東京大学大学院医学系研究科修了。東京大学医学部附属病院分院(現在は本院に統合)眼科医局長、名戸ヶ谷病院眼科部長、井上眼科病院附属お茶の水・眼科クリニック(現:お茶の水・井上眼科クリニック)院長を経て、2008年に同院母体である医療法人社団済安堂の理事長に就任。2012年から井上眼科病院院長を兼務。日本眼科学会眼科専門医。
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