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荏原病院 感染症内科 中村(内山)ふくみ先生

こちらの記事の監修医師
荏原病院
感染症内科 中村(内山)ふくみ先生

えきのこっくすしょう(ほうちゅうしょう)エキノコックス症(包虫症)

概要

単包条虫や多包条虫という寄生虫の幼虫(包虫)による感染症。多包条虫や単包条虫に感染したキタキツネや犬の糞便と一緒に排せつされた虫卵が付着した食物、ほこり、汚染水などを人間が口から摂取することで感染する。人の十二指腸内で幼虫となり、血流に乗って肝臓や肺、腎臓、脳などに運ばれ、のう胞という液体の充満した病巣を形成する。単包条虫は世界中に広く分布し、イヌと羊などの家畜との間で感染が維持されている。ヒトの単包虫症(単包性エキノコックス症)例は牧畜の盛んな国で発生している。日本では北海道に多包条虫が分布し、キタキツネとげっ歯類(ネズミ)で感染が維持され、ヒトの多包虫症(多包性エキノコックス症)が発生している。北海道以外でも動物の多包条虫の感染が確認されており、2005年に埼玉県で捕獲された犬の糞便から、2014年には愛知県知多半島で捕獲された犬からエキノコックスの虫卵が検出された。

原因

エキノコックスの虫卵に汚染されたものを口から取り入れることが、人間への唯一の感染方法だ。虫卵から孵化した幼虫が腸壁から血流やリンパ液の流れに乗って身体各所に定着・増殖し、命に関わる重篤な症状を引き起こす。現在大きな問題となっている多包虫症の原因である「多包条虫」は、もともと北海道に分布していたのではなく、20世紀になってから北方諸島との交易の中で運ばれてきたと考えられる。主な生息域である北海道では、近年全エリアにその伝播域が拡大したため、国民の健康に対する大きな脅威ととらえられるようになった。感染症法ではエキノコックス症を「4類感染症全数把握疾患」に指定し、全患者発生例の報告を義務づけている。なお、エキノコックスの最終宿主はキツネや犬であり、人間はあくまでも中間宿主にすぎないため、人間から人間に感染することはない。

症状

寄生されてもすぐに症状は出ず、感染からおよそ5~10年ほど後に発症する。症状は感染した臓器によって異なり、肝臓に感染した場合は腹部の膨満・不快感が現れ、肝機能障害や発熱、黄だんなどの症状を呈しながら肝硬変が進行していく。肺に感染した場合は咳、胸痛、呼吸困難などを引き起こす。また、脳に感染した場合は意識障害、けいれんなどの症状を示す。のう胞が破裂すると、じんましんや発熱および重いアナフィラキシー反応(急激に進む、全身に起こるアレルギー反応)を現すこともある。なお、この疾患を放置すると、90%以上の患者が死亡するとされているので、迅速で確実な治療が必要だ。

検査・診断

検査にあたっては腹部の超音波検査、腹部及び頭部のCT検査、腹部MRI検査などで、のう胞性病変などがないかを調べる。また、血液検査も併せて行い肝機能や腎機能などの全身状態に異常がないかどうかも確認する。これらの所見と血液の中のエキノコックスに対する抗体が陽性であれば診断が確定する。患者に流行地での居住歴や、キツネや犬などの宿主動物との接触があった場合は診断や治療を進める上において重要な情報となる。疑わしい病変の一部を切り取って詳しく調べる「生検」は、腹腔内の病巣以外の部分にエキノコックスをばらまく可能性があるので行わない。

治療

病変した部分を外科的に切除することが唯一の根治的治療法とされている。しかし、早期診断された際の治療経過は良好だが、進行した病巣の根治は手術を行っても難しい場合がある。もし病巣の切除ができなかった場合死亡率は5年で70%、10年で94%にまでふくれ上がる。単包虫症ではその他の治療として「PAIR(穿刺‐吸引‐注入‐再吸引)法」という、のう胞に針を刺して内容を吸引した後、寄生虫を殺す薬を注入し再び吸引する治療法がある。駆虫薬の投与も試みられているが、現在のところ効果は一定ではない。そのため、感染してからの治療よりも「いかにして予防するか」に重点を置く方が、エキノコックスから身を守る上では重要である。

予防/治療後の注意

多包虫症の予防には北海道で「キタキツネや野犬を素手で触らない」、「触った後は手をよく洗う」ことが有効な対策である。北海道居住者は多包虫症の住民検診を受けることができるが、道外に引っ越した場合には自身で定期的に腹部超音波検査を受けて多包虫症になっていないか注意する。単包虫症の予防も同様で、流行地では牧羊犬や野犬を素手で触らない、触った後は手をよく洗うことが重要である。

荏原病院 感染症内科 中村(内山)ふくみ先生

こちらの記事の監修医師

荏原病院

感染症内科 中村(内山)ふくみ先生

1996年、宮崎医科大学卒業。宮崎医科大学寄生虫学教室、墨東病院感染症科、奈良県立医科大学病原体・感染防御医学/感染症センターにて基礎医学・臨床の両面から感染症に携わる。2016年4月より現職。日本内科学会総合内科専門医、日本感染症学会感染症専門医の資格を持つ。