こちらの記事の監修医師
東京都済生会向島病院
脳神経内科部長 大野 英樹 先生
ほんたいせいしんせん本態性振戦
最終更新日:2022/01/04
概要
原因の不明な、あるいは特定の原因によらない(本態性)、規則的な不随意運動(振戦)を生じる疾患のこと。震えだけが症状として現れる。主に成人期に発症するが、どの年齢層でも起こり、高齢になるほど顕著になる。通常、本態性振戦は軽度のまま経過するが、字を書きづらい、食器をうまく扱えないといった不便が生じることがある。原因は解明されておらず、深刻な病気によるものではないが、重度になると日常生活に支障を来すこともある。通常、年齢を重ねると少しずつ震えは目立つようになるが、大きく症状が進行することはなく、手足がまひするようなことはない。本態性振戦による震えは、精神的な緊張で強まることが知られており、逆にお酒を飲むと震えが軽くなる場合がある。家族や親類に複数の患者がいる場合も多く、家族性振戦と呼ばれることもある。
原因
原因はわかっていないが、精神的な緊張で症状が強まることから、興奮したり筋肉を動かしたりするときに働く交感神経が関係していると考えられている。
症状
何らかの姿勢を取ったときや動作をするときに症状が現れるのが特徴で、主に手が1秒間に4~12回の速さのリズミカルな震え(振戦)を生じる。手や指の症状が最も多いが、頭や足・顔面・声などにも起こる。症状は、新聞を読むとき、箸を持つとき、コップを持つとき、字を書くときに現れやすく、緊張すると声が震えたり、頭が横や縦に揺れたりすることもある。一方で、完全に力を抜いている状態では震えを生じない。震えによる日常生活の支障や精神的な苦痛を訴える患者が多い。
検査・診断
多くの場合、診察で本態性振戦を診断することが可能。甲状腺機能亢進症によって振戦が出ている場合があるので、血液検査で甲状腺ホルモンを測定する。てんかんの可能性が否定できない場合は脳波検査を行う。また、パーキンソン病やパーキンソン症候群が疑われる場合は、頭部MRIや各種の核医学検査を実施する。
治療
治療しなくても急に悪くなることはないので、治療するかどうかは、「症状に対してどの程度困っているのか」が判断材料になる。日常生活に支障を来していない、困っていない場合であれば急いで治療しなくても良い。困る場面でのみピンポイントで症状を抑える治療もできる。治療薬としては、交感神経の働きを抑え、震えを弱めるベータ遮断薬(アロチノロールのみ保険適用)が最も一般的。ベータ遮断薬で効果が得られない場合や、喘息などでベータ遮断薬を服用できない患者には、抗不安薬や抗てんかん薬が処方されることもある。このほか、筋肉をまひさせて震えを抑えるボツリヌス毒素注射という手段もある(保険適用外)。薬物治療で効果がない場合は脳の外科的療法が検討される。現在、主流となっているのは、脳内に電極を植え込み電気刺激を与える「脳深部刺激療法」で、数年ごとに手術が必要となる。このほか、頭蓋骨に小さな穴を開け、熱凝固針を刺して脳内の視床の一部を凝固する方法や、切開せずガンマ線や集束超音波で視床の一部を破壊する方法がある。
予防/治療後の注意
腕や脚を不自然な姿勢のままにすること、カフェインの摂取など生理的な震えを悪化させる要因は、症状を顕著にするのでできるだけ控える。また、ストレスや疲労も症状を強めるため、十分な睡眠と休養をとり、リラックスを心がける。震えを必要以上に気にしすぎず、症状を隠そうとしないことも大切。家族など周囲の人も患者の震えを細かく指摘しないようにしたい。飲酒によって症状が軽くなるケースは多いが、お酒で震えを抑える習慣がつくとアルコール中毒になる恐れがあるので、症状を改善するための飲酒は避ける。これらのことに気をつけ、病気と上手に付き合っていくことで、症状を和らげることもできる。
こちらの記事の監修医師
脳神経内科部長 大野 英樹 先生
脳神経内科を専門分野とし、脳卒中診療のスペシャリストであるとともに、末梢神経疾患にも精通。日本神経学会神経内科専門医、日本内科学会総合内科専門医。
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