こちらの記事の監修医師
順天堂大学医学部附属浦安病院
血液内科長 野口 雅章 先生
はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん(でぃーあいしー)播種性血管内凝固症候群(DIC)
最終更新日:2021/12/27
概要
外傷や、がん、急性白血病、細菌による重度の感染症などの病気をきっかけとして、全身の細い血管に血栓が生じたり、過度の出血症状が見られたりする重篤な合併症。血液の塊である血栓ができることで血管が詰まりやすくなってしまい、脳や腎臓、肺などに問題をもたらすことになる。また、出血しやすくなる上にその出血が止まりにくくなるという特徴も持ち、結果として大量出血を招くことにつながり、体中の臓器に甚大な影響を及ぼす。播種(はしゅ)とは、もともと作物の種を播(ま)くことを意味する言葉で、ここでは全身の血管内に広く血栓ができる様子を表す。汎発性(はんぱつせい)血管内凝固症候群と呼ばれることもある。
原因
何らかの病気や外傷といった症状が先にあり、それが原因となって出血症状や血栓ができやすい状態を引き起こす。主な原因としては、敗血症などの感染症、がん、急性白血病が挙げられる。がんなどの悪性腫瘍が原因となる場合は、抗がん剤などによる化学療法や放射線療法が関係しているとみられる。他にも、胎盤剥離などの出産に関するものや肝炎、膵炎といった病気によるもの、やけどや凍傷、ケガなど外傷によるもの、また手術、毒ヘビにかまれて起きる溶血反応など、その原因はさまざま。こうした原因が引き金となって、体中に張り巡らされた細い血管内に血栓ができてしまうと、脳梗塞、腎梗塞、肺塞栓症などを引き起こす。また血栓が大量に生じることで、血液内にある凝固成分が使い果たされたり血小板が減少したりしてしまうことから血液が固まりづらくなり、大量出血を招くことにもなる。
症状
血尿や吐血、下血など全身に出血症状が起きる。皮膚に紫色の斑点(紫斑)が現れることも特徴。脳から出血が起きると意識の混濁が見られる。手術や出産時に出血症状が起きた場合は、止血が困難になってしまうことも。また、血栓ができることによって血管が詰まったり血流の流れが悪くなったりする。その結果、脳、肺、腎臓、呼吸器などの全身の重要な臓器が正常に働かなくなる多臓器不全を引き起こし、命を落とす危険もある。そもそも播種性血管内凝固症候群が起きると、原因となったもとの病気の治療が難しくなってしまうこともあり、致死的な影響を及ぼす合併症といえる。
検査・診断
出血症状が見られると、まずは原因となるもとの病気があるか、臓器に問題が起きているかどうかを確認する。加えて、血液検査や凝固線溶系検査と呼ばれる検査などを行って、診断される。血液検査では、血小板や、フィブリノーゲンという血液が固まる時に生じるたんぱく質の数値などを確認する。これらの数値が減少しているようであれば、播種性血管内凝固症候群が起きていると確定する1つの基準となる。
治療
播種性血管内凝固症候群に至った原因を特定し、早急に治療を開始することが重要。もととなっている病気に応じて、抗がん剤、抗白血病剤、抗生物質などが使用される。ただし、原因となる基礎疾患は重篤なものが多く、すぐに治療が進むわけではない。こうした場合には、患者の状態を十分見極めた上で、ヘパリン、メシル酸ガベキサートなどの投与で血を固まりにくくする抗凝固療法や、アンチトロンビン濃縮製剤などの輸血製剤を用いて出血しにくくする補充療法などが選択される。なお、最近ではトロンボモジュリン製剤と呼ばれる遺伝子組換え薬を用いることも増えている。原因が出産などによるもので、播種性血管内凝固症候群の発症が急激に起きている場合では、薬物治療に加え手術を同時に行うケースもある。また、新生児にも播種性血管内凝固症候群が起きやすいといわれており、重篤な症状が出ることが多いので早期発見と早期治療が必要となる。治療は遺伝子組換え薬も含めた薬物治療や場合によっては交換輸血を行うケースもある。
予防/治療後の注意
DICの基礎疾患の予防と治療後の注意に尽きる。基礎疾患として敗血症、呼吸器感染症、肝硬変、大動脈瘤、胆石症、HIV感染症などが挙げられる。一般的な予防(手洗いやうがいなど)に加えて、高齢者や免疫不全者、合併症をもつ人は、感染症のワクチン(肺炎球菌感染症やインフルエンザ)を受けることが大切である。悪性腫瘍の早期発見のため、健康診断や各種ドック検査を受けることも予防につながる。治療後は再発防止のため、通院をお勧めしたい。
こちらの記事の監修医師
血液内科長 野口 雅章 先生
1983年順天堂大学医学部卒業。膠原病内科に所属し、免疫分野の診療経験を積んだ後、血液内科へ転向。亀田総合病院で移植医療を学び、順天堂大学医学部附属静岡病院を経て2000年から現職。2013年に教授就任。日本血液学会血液専門医、日本内科学会総合内科専門医。
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