田辺 亮介 院長の独自取材記事
田辺医院
(松山市/伊予北条駅)
最終更新日:2023/05/30
開業から30年、松山市北条にて地域の人々の健康を守り続けている「田辺医院」。院長の田辺亮介先生は、東京大学大学院にて法医学分野の研鑽を積み、DNA型鑑定の現場にも早くから立ち会った法医学界のエキスパート。地元で開院後は、地域の患者へ専門性の高い医療サービスを提供する傍ら、遺体の死因究明に尽力している。「法医学というと死んだ人を診る学問と思われがちですが、今を生きている人に還元するためにできた学問なのです」と語る田辺先生。今を生きる人のため、地域のかかりつけ医と法医、さらにはスポーツドクターという三足のわらじを履きこなす田辺先生に、これまでの豊富な経験や診療方針について聞いた。
(取材日2023年3月30日)
地域住民の健康のために、豊富な医療経験を発揮
こちらは松山市北条の中心部にありますが、患者さんの年齢層やどういった症状が多いかなど教えてください。
当院は内科、呼吸器科、循環器科を診療しています。地域の開業医なので「何でも屋さん」といったところでしょうか。子どもから高齢者まで年齢層は幅広いですね。開業から30年がたちますので、開院当初は赤ちゃんだった子がお母さんになって、子どもと一緒に訪れるケースもあるんですよ。症状で多いのは、高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病や喘息などの呼吸器疾患、不整脈や心筋梗塞などの循環器疾患。感染症の外来もありますので、発熱など風邪の症状で来られる患者さんも多いです。また当院では往診や地域の施設への訪問診療も行っています。
院内環境について工夫されている点を教えてください。
当院は開院30年目を迎えますが、当初からフロア全体に床暖房を入れています。呼吸器や循環器の疾患を抱える方に冷えや乾燥は大敵ですからね。待合室を含め、患者さんにはできるだけ快適な環境で過ごしていただきたいと考えています。また一般の外来を1階、感染症の外来を2階にしているのも特徴です。入り口も別にしていますので、新型コロナウイルス感染症などの感染症の疑いがある方も気兼ねなくご来院いただけるかと思います。
診療において大切にしていることはありますか?
やはり大切なのは患者さんの話を聞くこと。現代の医療では検査機器も進化しており、検査が重要視されていますが、ただやみくもに検査をするのは良くありません。丁寧な問診で必要な検査を絞り込むようにしています。「問診80%、身体所見10%、検査10%の割合で診断に貢献する」という言葉もありますが、きちんと患者さんの話を聞いていれば、それ以上にわかるはずなのです。CTが開発されてから、診断学はもう終わったという先生もいますが、そうではなくて、基本は患者さんを診ること。つまり、ちゃんと話を聞いて、ちゃんと診察をしなさいということですね。その上で適切な検査を無駄なく行い、必要なら躊躇なく適切な高次医療機関の専門医を紹介するよう努めております。若い頃、先輩医師から言われていたことを、開業医になってから日々実感しています。
法医学分野を経て町の医師へ、異例の転身
患者さんのどんなところを注意して診るようにしているのですか?
本当に何げないことですが、診察室に入ってこられるところから見ています。歩き方、顔つき、しぐさ……体のバランスが悪かったり、ちょっと表情が歪んでいたり、いつもより呂律がまわっていなかったり。言動全体を観察しています。当然、患者さんの血圧も私が測ります。本来、血圧は医師が測ることが基本。自分が研修医の頃は、上の先生方はみんな血圧計を持って病棟を回診していました。そんな先生の姿を見てきたので、私も腕帯を患者さんの腕に巻くところから自分で行い、患者さんの様子を観察しながら測っています。
これまで研鑽を積まれてきた分野について教えてください。
1983年に名古屋保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部医学科を卒業し、研修医として東京都立駒込病院に勤務しました。そこでは循環器、呼吸器、内視鏡、消化器、肝臓、腎臓、血液、産科、放射線、膠原病の内科系をフルローテーションで研修しました。2ヵ月ごとに各科を回ったのですが、それぞれ1年分くらいの密度の濃い勉強をさせていただいて。今思えば、この経験が現在の地域のかかりつけ医としての仕事に役立っている気がします。その後の進路を考える中、知り合いの勧めもあり東京大学大学院医学系研究科法医学に進み、4年間みっちり法医学を勉強しました。もともと法医学には興味があったんです。
東京大学大学院医学系研究科では、どのような研究をされたのでしょうか?
私が在籍していた当時は、まさにDNA型鑑定の黎明のタイミングでした。DNAフィンガープリント法やPCR法を法医学実務に導入すべく、研究・実務に取り組んでいました。特に司法解剖件数に関しては、東大は事件性のある司法解剖のみ取り扱っており、多くのご遺体と向き合うことで経験を積ませていただきました。そして、1989年に東京大学大学院医学系研究科を修了し、医学博士号を受領しました。
30年来のチームワークで、患者一人ひとりに寄り添う
法医学での経験が、地域の患者さんを診る上で生かされていることはありますか?
人がどうやって死んだのかを考えるとき、そこには生きている時点の状況から考えるのか、死んだ後の状況から考察するのかという2方向の視点があります。つまり、どういうことをしたら危ないか、その死因を究明することで、生きている人の予防や健康を守ることにつながる。それが法医学の役割です。法医学というと死んだ人を診る学問と思われがちですが、今を生きている人に還元するためにできた学問。ですから、現在も引き続き法医学に携わっているのです。臨床・研究に関する事項や、医学的な解明を必要とする法律上の案件に対して、公正な医学的判断を下す、法医学の研究を行うために研究棟を設置し活動しています。
さらに、スポーツ医学の分野でも活躍されているそうですね。
そうなんです。私はスポーツ医としての専門性を持ち、アンチ・ドーピングに関わる仕事もしています。えひめ国体の際には、選手の貧血に焦点をあてて研究を行いました。アスリートの貧血問題というと中高生、特に女性に多いイメージがありましたが、実際に調査をしてみると、意外と中高生は大丈夫で、むしろ成人の方に問題があることがわかりました。また、全国的に見ても愛媛県の少年男子の体が小さいという事実も発覚しました。その理由はご飯を食べないから。えひめ国体を通して、スポーツと食育など、さまざまな問題が浮き彫りになりましたので、その解決へ向けて取り組んでいます。
読者に向けて一言メッセージをお願いします。
おかげさまで、1994年の開院から30年という節目を迎えることができました。生まれ故郷の北条の皆さまに貢献したい。その想いで町場の医師となり、一人ひとりを丁寧に診ることに心血を注いできました。看護師や医療事務スタッフも、ほとんどが開院当初からのオリジナルメンバーというのも特長です。みんな長年同院を支えてくれ、結婚・出産を経てカムバックしてくれたスタッフ、60歳の定年後も続投してくれているスタッフもいます。そんなアットホームなクリニックですから、体の不調はもちろん、お困り事や不安に感じていることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。