田原 一優 院長の独自取材記事
京口門クリニック
(広島市中区/八丁堀駅)
最終更新日:2025/07/14

広島電鉄本線八丁堀停留場・立町停留場から徒歩3分、広島・八丁堀地区で30年以上開業している「京口門クリニック」。田原一優(たはら・かずまさ)院長が先代の院長から継承し、2025年で10周年を迎えた。主な診療科目は心療内科と精神科。官公庁やオフィスビル、百貨店などが建ち並ぶエリアにある。田原院長は、20年以上消化器内科医師として勤務した後、もともと志していた精神科に転身。内科の医師でもあることから、心と体のどちらに不調の要因があるのかを患者の話や症状から見極め、身体的な疾患と診断した場合も責任をもって対処している。柔和な広島弁で患者の心に語りかける田原院長に、これまでの歩みや精神科医としてのモットー、診療において心がけていることなどを聞いた。
(取材日2024年3月15日/記事更新日2025年2月19日)
心と体の両面から診る。消化器内科での経験が強み
先生は内科から医師としてのキャリアをスタートされたそうですね。

そうです。広島大学医学部を卒業し、内科と精神科のどちらに進もうかと迷っていました。研修先の淀川キリスト教病院の精神科部長より、まず内科医を勧められました。2年間内科の医師として技術を磨いた後、主に消化器内視鏡検査を行う河村病院で内科医として22年間経験を積みました。多くの胃カメラ、大腸内視鏡検査、さらに超音波検査に携わり、患者さんを診てきました。しかし、徐々に「このまま内科医を続けていて後悔することはないだろうか」と自問自答するようになり、機は熟したと判断し転科に踏み切ったのです。
慣れ親しんだ領域からの転科というのは、相当思い切った挑戦だったのでは?
50歳になっていましたので、チャレンジでした。決断した時は、内科医時代の同僚たちから随分心配されました。でも以前、先の淀川キリスト教病院の精神科部長から、「内科から精神科への転科は比較的難しくない」と聞いていたので決断しました。求職して精神科医療を専門としている草津病院に採用されたのですが、私はうつ病以外の精神疾患の診療経験がほとんどなかったので、初めのうちは他の先生の補佐をしていました。400床を超える大きな病院でしたのでいろんな症例の患者さんやそのご家族に出会うことができ、とても勉強になりました。今では、内科医時代の先生方より、心療内科関連について相談されます。転科できたのは、多くの先生方のご指導のおかげだと感謝しています。
精神科医としての実績を積まれた後、こちらのクリニックを引き継がれたのですね。

草津病院(現・こころホスピタル草津)では、10年間あらゆる精神科疾患の診療に携わり、精神科医として日々成長させていただきました。しかし、入院するほどではないが、日々の生活に息苦しさを抱えた方々との関わりにも興味を持ち始めていました。そんな矢先、私の内科医時代に先代の院長から内科病棟で、うつ病の患者さんを受け入れていたご縁もあり、後を継いでもらえないかというお話をいただきました。そうして、2015年4月に当クリニックを継承しました。
継承して10周年を迎え、患者に役立つ工夫を導入
田原先生がこちらを継承されて、2025年で10周年を迎えられたそうですね。

はい、おかげさまで私が継承してから10周年を迎えました。患者さんに安心して通院していただくためにさまざまな工夫をしております。電子カルテを導入したこともその一環です。待ち時間短縮を目的とした完全予約制もその一つです。最近では、セミセルフレジ、おいしい水等も好評です。
こちらのクリニックの特徴を教えてください。
当クリニックは街の中心部にあり、交通の便が良いことから、会社員、主婦、学生といった幅広い層の患者さんが来院されます。遠方からも来院されます。仕事が忙しくて気分が落ち込んだり、家族や友人との人間関係で悩んだりして、うつの症状が現れて来院される方が多いです。治療としては、症状次第で休職を勧めます。会社員の方の場合は、その後、職場復帰支援プログラムを受けていただくケースがあります。また、真面目な頑張り屋の方ほど、無理をしてしまい、動悸や息苦しさなどの不安発作が出てしまうパニック障害の方も多く見られます。他には、統合失調症や発達障害の患者さんも多いです。近年では、発達障害は子どもだけの問題ではなく、大人になってから生きづらさを感じ、発達障害ではないかと受診される方も増えています。
精神科は、先生によって薬の処方方針が特に異なる印象があるのですが、先生はどのようにお考えですか。

勤務医時代に薬の処方はなるべく最小限にする単剤治療という方針を取っていたので、当クリニックも同様にできるだけ薬の種類を減らして処方しています。個人的には、向精神薬を数多く用いるほど症状が楽になるとは限らないと思っていますし、飲み合わせの問題も出てきますので、多剤大量処方は避ける方針を取っています。ただ、転院されて来られた患者さんが複数の薬を飲んでおられた場合は、患者さんが不安になられるので無理に減らすのではなく、相談しながら減薬を考えるようにしています。患者さんの声を大切にした処方を心がけています。また、薬が嫌な患者さんには漢方薬も扱っています。
患者の話を丁寧に聞き、信頼関係を築いた上で診断する
診療においてどんなことを心がけておられますか。

とにかくしっかりお話を伺うのが私の方針です。私は昔から患者さんとお話しするのがとても好きです。当クリニックでは初診の患者さんであれば、最初に看護師が20分間ほど問診し、続けて私がじっくりと約1時間かけてお話を伺うようにしています。昔、同僚の先生から「田原先生は聞き上手ですよね」「人から話を聞くのが本当にお好きなんですね」と言われ、うれしかったです。仕事の内容はもちろんのこと職場の人間関係や人数など細部にわたって質問することで患者さんの置かれている状況を具体的に把握しようと努めています。主婦の方なら、家族構成、仕事、趣味など、このように丁寧な聞き取りを通して患者さんとの信頼関係を築くことを重視しています。
精神科の診療において、内科のご経験が生きていると感じておられますか。
内科医時代に培った経験はまったく無駄ではなかったと確信しています。メンタル面では特に問題がない内科の患者さんにも接してきたことで、精神科の患者さんの様子を見て「少し落ち込んでいるみたいだな」など、心の小さなSOSに気づきやすいように感じます。例えば、腹痛が続く患者さんが、相談に来られた場合、もともと消化器内科医でしたから、その観点から胃カメラでの確認などアドバイスすることができます。また、身体的な病気の早期発見へ導いたこともあります。両面からの視点で診ることができますので、ぜひ相談に来ていただきたいですね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

ある著名な精神科医の先生が提唱しておられる「うつ病にならないための7つのストップ」という、うつ病を予防するための心構えがあり、私も共感して、普段の診察や講演などで紹介しています。そういった普段の心の持ちようや暮らし方を工夫することは大切です。しかし、それだけではなく、早い段階で周りにSOSを出すことが何より大切です。日本人は、周りの人に迷惑をかけたくない気持ちから、なかなか助けを求められないという傾向があります。どうか我慢せずに勇気を出し、早めに周囲に助けを求めてください。必要であれば、心療内科を受診していただきたいと思います。大切なのは決して一人で我慢しないことです。