嶋田 一郎 院長、嶋田 文子 副院長の独自取材記事
嶋田クリニック
(堺市南区/栂・美木多駅)
最終更新日:2024/11/13

泉北高速鉄道の栂・美木多駅から徒歩5分。複合ビルの2階にある「嶋田クリニック」は、泉北ニュータウンで25年以上にわたって地域医療を支え続けてきたクリニックだ。同院の診療の中心となるのは、神経内科を専門とする嶋田一郎院長と、一般内科を担当する嶋田文子副院長の夫婦による二診制。患者の生活背景や家族構成まで考慮した心のこもった診療スタイルに加え、2人の医師の温かい人柄にも地域住人から厚い信頼が寄せられている。今回はそんな両先生に同席してもらい、同院の診療の特徴や患者への接し方、在宅医療を含めた地域連携への精力的な活動など、夫婦で積み重ねてきた取り組みについてじっくりと聞いてみた。
(取材日2022年9月2日)
夫婦二人三脚の診療で地域のニーズに応える
こちらは内科と神経内科を併科していますね。

【嶋田院長】はい、そのとおりです。基本的には私が主に神経内科の予約の患者さんを担当し、妻の副院長が急な患者さんや高血圧症、糖尿病をはじめとする一般的な内科診療を行っています。もともと医師は私1人だったのですが、神経内科の患者さんが徐々に増えて一般内科に手が回らなくなり、他院に勤めていた妻に頼んで合流してもらったのが始まりです。おかげで診療の幅も広がりましたし、予約が混雑している時も診療が滞らずに済むのは患者さんにとってもメリットになっていると思います。また、通院が困難になった患者さんを対象とした訪問診療も、2人で分担することでなんとか対応させてもらっています。
それぞれが担当する診療の特徴を教えてください。
【嶋田院長】よく精神科と間違えられますが、神経内科は脳や脊髄、末梢神経に関連する疾患が対象で、脳卒中およびその後遺症、パーキンソン病、てんかんなどのほか、片頭痛や認知症などの診療も含まれます。神経内科の診療では患者さんの生活にまで踏み込んだアドバイスが必要なケースが多く、一人ひとりに時間をかけるために予約限定とさせてもらっています。
【文子副院長】私は一般内科が担当で、風邪や腹痛などの急な症状から高血圧症や糖尿病といった生活習慣病、心臓病や肝臓病まで幅広く診ています。診断や処方はもちろんですが、皆さんがそれぞれの通院スタイルで病気とうまく付き合っていけるよう、サポートしていくような存在でありたいと考えています。また、婦人病など女性の患者さんの相談に乗って、適切な受診先をご紹介するのも私の役割ですね。
訪問診療は開院時から行っているそうですが。

【嶋田院長】例えばパーキンソン病や脳卒中の後遺症などで、進行すると動けなくなって通院困難になるケースが多々あるんですね。そうした患者さんのニーズに応える形で、訪問診療は開業時から続けています。当初は手がけるクリニックが少なかったこともあり、在宅の患者さんをぜひ診てほしいと保健所などから依頼されることもよくありました。
【文子副院長】訪問診療からは、大切なことがたくさん学べます。当院は規模の割にスタッフの人数が多いと思いますが、主人の方針で訪問診療に同行したり、患者さんの様子を見に行ったり、ほぼ全員が患者さん宅への訪問を経験しています。それが外来診療にも生かされ、患者さんの生活背景などをイメージした対応がしっかりと身についています。みんな経験豊富で性格も明るく、認知症の患者さんや発達障害のある子も安心して任せられるなど、医師の立場としてはとても頼もしい存在と感謝しています。
1人の患者を軸に、さまざまな職種が思いを集めて
診療では、どのようなことを大切にされていますか?

【嶋田院長】私が医師として駆け出しだった頃、父が病気になったんです。当時はまだ本人への説明に慎重な時代で、担当の先生も暗に私から話してほしいと託した部分があったように思います。結局、真実を伝えることができず、そのまま父は病院で息を引き取りました。もしきちんと伝えていれば、父なりに人生の最期の支度ができたかもしれません。その後悔が私の一つのターニングポイントとなり、病気や症状を診るだけでなく、その人の背景にあるものをトータルに考える習慣が身についたのだと思います。伝えるべきことはしっかりとお伝えし、一緒に悩み、考えながら歩んでいく。それが今の私の診療スタイルです。
院長先生が重視する地域連携とは、どのようなものですか?
【嶋田院長】近年はこの堺市南区も高齢化が進み、医療をはじめ、デイサービスや訪問看護、介護事業など、さまざまな業種・職種の連携によって市民をサポートしていくことの重要性を強く実感します。そうした背景の中で、有志が集まって自然に誕生したのが「三つ葉の会」です。メンバーは医師・訪問看護師・理学療法士・薬剤師・ケアマネジャー・介護福祉士などが中心ですが、ほかにも役所の職員さんや議員さん、時には建築業界の方など、多方面の皆さんが陰から協力してくれています。会長は私が引き受けさせていただき、医療や介護現場での連携はもちろん、職種の垣根を越えて市民向けの講演やシンポジウムを開いたり、実務者同士でディスカッションをしたり、地域の皆さんのために何ができるかをテーマに掲げて活動を続けています。
地域連携の必要性を感じるケースがあればお聞かせください。

【嶋田院長】当院に通っておられた70代のパーキンソン病の女性の例ですが、転倒骨折して病院に入院した上に胃やのどにもにもチューブが入った寝たきり状態となり、家に帰りたいと毎日泣いておられたそうです。とても自宅療養できる状態ではありませんが、その女性の娘さんが私に訴えたのは、「何でもやりますから、母を自宅で看ることはできないでしょうか?」と。こういったケースでも、ご家族の想いに応えたい。多職種が団結し、そのような必死の思いに応えるために尽力するのが地域連携のあるべき姿だと考えております。地域に連携体制をつくり、患者さんの希望に沿った在宅医療が提供できればと思っています。
気軽に相談できるかかりつけ医でありたい
院長先生が医師になったきっかけを教えてください。

【嶋田院長】私は生まれた時に未熟児で、黄疸もあって何日か生死をさまよっていたそうです。「お医者さんに命を救ってもらった」と母からよく聞かされていたせいで、自分も医師になって人を救いたいと考えるようになっていました。内科へ進んだのも、専門的な技術を身につけるだけでなく、幅広い知識と経験によって人を包括的に診るような医師をめざしたからです。大学の医学部で妻と出会い、今はこうして夫婦で医院を営んでいますが、息子が私と同じ神経内科の医師になり、娘も医療関係の仕事に就き、もし自分たちの背中を見て選んでくれたとすれば、親としてはうれしい限りですね。息子とはよく居酒屋で仕事の話をしますし、娘の子どもの具合が悪ければ妻がすぐに飛んで行くなど、今もみんな仲良くしていますよ。
院長先生と副院長先生、お互いに対して一言あれば。
【嶋田院長】妻は副院長として私を支えてくれていますし、尊敬できる医師の一人として頼れる存在です。私には少し厳しいですが、基本的にはおっとりした性格なのでファンの患者さんも多く、最近は特にご高齢の男性に人気があるようですね。医師の仕事をずっと続けながら子育てや家事をこなしてくれたので、心から感謝したいです。
【文子副院長】主人は頼まれれば断れない性格で、他院の先生が持て余すようなことを全部引き受けているような印象があります。また、言い出したら引かない頑固な一面もありますが、そうした強い信念がなければ実現しなかったこともきっとあるでしょう。2年ほど前に体を壊して手術を受けた際に、多くの皆さんから温かいお言葉をいただけたのも主人の人柄あってのことと思います。今後はあまり無理をせず、少し自分の体もいたわってほしいですね。
最後に、地域の皆さんへ向けたメッセージをお願いします。

【嶋田院長】この地域で長く皆さんの健康を支えていきたい。それが私たちの願いです。断片的に診るのではなく、その人やご家族も含めた生活全体のフォローを意識しているつもりです。ご家族の健康に関することや介護保険の手続きなども、遠慮なくご相談いただければお役に立てるかもしれません。また、地域連携の人脈を生かせば、きっと何かにつなげていくことができるでしょう。どんなことでも気軽に相談できるかかりつけ医として、今後も皆さんに寄り添っていければ幸いです。