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井上 博司 院長の独自取材記事

井上クリニック

(大阪市平野区/喜連瓜破駅)

最終更新日:2021/10/12

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大阪メトロ谷町線喜連瓜破駅から南西へ歩いて12分。府営住宅を通り抜けた一画にある「井上クリニック」は、地域に根差して30年続く内科の診療所。開業時から在宅医療にも力を入れており、在宅療養支援診療所として、さらには敷地内に居宅介護支援事業所を併設した地域支援の拠点の一つとして、医療と介護の両面から全力で患者をサポートし続けている。院長の井上博司先生は地元・平野区の出身。地域への思いはもちろんのこと、在宅医療に対する情熱も人一倍強い。そんな井上院長に、患者への思いや医師としての取り組みなど、「医療と介護の融合」をめざす同院ならではの話をじっくり聞いてみた。

(取材日2019年8月1日)

地域のかかりつけ医、在宅医療の拠点をめざして

待合室にはいろんな手作り作品が飾ってありますね。

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ペーパークラフトや俳句を詠んだ短冊、絵画や写真作品など、全部患者さんからいただいたものです。くださった方全員が90歳以上で、中には100歳を超えた方もいらっしゃいます。手作業は認知症の予防になることをお伝えすると、皆さん積極的に作って持ってきてくれますので、待合室に飾らせていただいています。見ていると、とても温かい気持ちになりますね。ですから私たちもホワイトボードを壁に下げて、季節ごとのトピックスや気をつけてほしいメッセージをスタッフの手書きで掲示するようにしました。皆さん目を留めて読んでいただけているようです。

この場所で開業した理由を教えてください。

私は近畿大学医学部で肝臓や消化器、糖尿内分泌内科を学び、それを主体とした内科診療を長らく行ってきました。その間ずっと地域医療に興味がありましたから、それならば自分の生まれ育った地域で貢献していきたいと思い、この平野区で開業することにしたのです。今年の5月で30周年になりましたが、その間にこの辺りもずいぶんと変わり、以前から住んでおられる方が80代、90代と全体的に高齢化しています。子どもや若い人は減っていて、私が校医を担当している中学校は1学年で3クラス程度になりました。

どのような患者さんを診療していますか?

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60代ぐらいまでは高血圧や高脂血症、糖尿病といった生活習慣病が中心ですが、日本消化器病学会消化器病専門医、日本肝臓学会肝臓専門医の資格を生かした診療も行っています。さらに高齢化社会を背景に認知症の症例も増えてきています。それと、当院は在宅医療も行っていますから、がんの末期の患者さんを診るケースが最近は非常に増えてきました。末期がんや認知症で生活すらままならなかったり、家族がいなくて一人で療養できない環境にあったり、そのような方を中心に診ているのが現在の在宅診療での状況です。

併設されている介護関連施設について教えてください。

2000年から居宅介護支援事業所と訪問介護ステーションの2つの事業所を診療所内に併設し、総勢で20人程度の介護職員が働いています。居宅介護支援事業所はケアマネジャーによるケアプラン業務で、その方をどのように介護するのか、何が必要なのかをマネジメントする非常に重要なポストです。訪問介護ステーションはホームヘルパー業務で、常勤のヘルパーと登録ヘルパーがそれぞれご自宅まで赴いて訪問介護を行っています。対象となるのは当院の患者さんだけではなく、別の事業所からの依頼も積極的に受けつけています。こうした地域包括ケアと呼ばれる地域一帯となった連携が、在宅医療では非常に重要です。

患者の生活があって初めて医療が提供できる

在宅医療で肝心なことは何ですか?

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まず、介護のバックアップが非常に重要だということです。私が在宅医療を始めた頃、患者さんのご自宅へ行ってみると、在宅療養以前に生活そのものがままならない方が大勢いらっしゃったんですね。これではどんなに治療を施しても生活が成り立ちづらく、介護保険制度の施行を機にケアマネジャーを置き、患者さんの生活面を整えることから始めました。そこからやっと医療がスタートするわけです。また、こういう下町の在宅医療では常に患者さんの目線で考えることが何より重要です。医療人の考える最善の医療が、患者さんの考える最善の医療とは限らないんですね。大きな病院だと先進の医療機器を駆使して先端の医療を提供することが使命だと思いますが、私たちの地域医療は“最先端”ではなくいわゆる“最前線”。患者さんの話によく耳を傾け、生活状況や経済状態などを加味しながら落としどころを決めていくことも大きな役割だといえるでしょう。

院内に介護関連施設を併設するメリットを教えてください。

医療と介護の連携というのは、実はなかなか難しいです。医師は介護のプロフェッショナルではないし、介護の人間は医療や医師の仕事のプロフェッショナルでもないです。お互いにしょっちゅう顔を合わせ、現場に同行してお互いを理解するということを繰り返していく必要があります。そういう意味では、医療と介護が常に密着して連携できることは大きなメリットだと思います。そばに介護職員がいるのでいつも顔を合わせて報告や指示、情報交換ができますし、必要であればすぐに会議を行うこともできます。

地域連携に関してはどのように進んでいますか?

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最近は訪問看護師や訪問薬剤師の方々との仕事も増え、いろんな事業所や地域包括ケアセンターの職員さんとご一緒するなど、皆さんのご尽力もあって地域連携の幅はかなり広がってきています。さらに、当院は在宅医療に関しては24時間・365日対応が可能ですが、それも訪問看護師やケアマネジャーなどの協力がなければ実現できないことです。それでもまだまだ課題は多く、在宅医療はこれからが勝負だと思っています。また、在宅医療には地域性があり、その地域によって求められるサービスの質が異なります。肝心な時の機敏なレスポンスも大切ですし、患者さんのご自宅まで実際に足を運んで、その家の空気を吸って初めて診療ができるわけですから、なるべく地元の先生方にご協力をいただき、地域の中でサービスが充足・完結できるよう連携していくことが大切ではないかと思います。

誰もが利用しやすい環境づくりを地域一体で

院長が医師をめざすようになったきっかけは何ですか?

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私は平野区の出身で、先祖代々の生粋の平野区民です。両親は古くからある商店街の中で小さな呉服店を営んでいて、医療とはまったく関係がありませんでした。ただ、非常に仲の良かった友人が医療の道に進むことの影響はあったと思います。また、祖母が体が悪く、よく往診を受けていましたが、先生が黒い鞄をパカッと開けると聴診器とか注射器が入っていて、それがすごく印象に残っています。私が在宅医療に携わっているのは、そのイメージの影響かもしれませんね。ちなみに父は90歳を超えていますが、今も元気で呉服店の店頭に座っていますよ。そうしていないと落ち着かないらしいです。

院長のご趣味やご家族のことを教えてください。

学生時代は鉄道マニアで、時刻表を片手に計画を立てて切符を買い、友人と一緒に全国を乗り回っていました。今はもっぱらクラシック音楽とオーディオが趣味で、仕事を終えて家に帰ってから音楽を聴くのを楽しみにしています。昔はドイツ、オーストリア系のクラシックが好きでしたが、最近はイギリスのとある近代作曲家がお気に入りですね。ちなみに、現在は家内と2人暮らしです。息子は私と同じ消化器内科の医師、娘は薬剤師となってそれぞれ独立しています。将来、一緒に仕事ができたらと、ちょっぴり期待していますが、今はそれぞれのやりたいように見守っていきたいと思います。

最後に、読者へ向けたメッセージをお願いします。

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ここでは年に数回、健康教室というものを開催し、医療と介護をテーマに栄養士さんを呼んで糖尿病や肥満の食事療法について話したり、実際にお弁当を宅配してもらって試食をしたり、さまざまなイベントを行っています。その中で感じるのは地域の人々が“最前線”の地域医療や在宅医療、介護サービスをまだまだうまく利用できずに、適切な医療を受けられずに苦しんでいたり、間違った理解をしたりしている現状です。そういう人をなんとかしたいというのが、現在の私たちの課題ですね。医師は難しいことばかり言うイメージが一般の方にはあるので、まずそれを払拭しなければなりません。なるべく利用しやすい雰囲気や、利用して良かったと言われる医療や介護を、スタッフ一同めざしていますので、決して一人で悩んだりせずに、困ったことがあれば、ぜひ気軽に相談していただければと思います。

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