山本 有厳 部長の独自取材記事
山本医院
(海部郡蟹江町/近鉄蟹江駅)
最終更新日:2023/02/16
長きにわたり地域に根づいてきた「山本医院」。現在は内科、小児科、循環器内科のクリニックとして患者のニーズに幅広く対応する。山本有機(ありき)院長の息子の山本有厳(ありつよ)先生は、患者の人生の最期まで寄り添いたいと在宅医療を志して、病院の老年内科にて高齢者のさまざまな疾患に携わり、筋力や身体機能の衰えにより介護が必要な患者の診療も行ってきた。訪問診療の経験も積み、地元蟹江に貢献したいと2020年、同院に「訪問診療部」を立ち上げ、訪問診療部長に就任。以来、訪問診療を中心に活動している。「患者さんやご家族が住み慣れた自宅で安心して過ごせるようになれば」と意欲を語る有厳先生に、在宅医療にかける思いを聞いた。
(取材日2021年9月1日)
自身の経験を機に、高齢者を診る老年内科の道へ
医院の歴史についてお聞かせください。
当院は、昭和時代に私の祖父が開院しました。先祖をたどると江戸時代から、この蟹江町の近くの村で医療に従事していたようです。祖父は私が小さい頃に亡くなり、その後、5代目か6代目になる父が後を継ぎ、現在に至ります。祖父は小児科が専門で、父は循環器内科が専門。地域の患者さんのニーズに応じて幅広く診療を行ってきており、父は往診にもよく出かけていました。子どもの頃は往診についていったこともありましたね。家族旅行では患者さんからの連絡で、父だけ先に帰ったことも。訪問診療や看取りの文化が当院には根づいてきたと感じます。ご高齢の方からは祖父や父の話を聞くこともあり、うれしいですね。
先生はなぜ老年内科を専門にされたのですか?
きっかけの一つは、高校生の頃に祖母が病院で亡くなったことです。脳卒中だったと思うのですが、たくさんの管につながれて、突然手の届かないところへ行ってしまった、もっと穏やかに家で亡くなることもできたのではないかという思いが残りました。祖母も眼科の医師だったのですが、のんびりしていた時代だったのでしょう、診療所にはいつも高齢の方々が集い、おしゃべりしていた記憶があります。そんなことも私の原風景となっているのかもしれませんね。病院に勤務してからは、高齢の方が病院以外の選択肢がないまま亡くなる場面に接し、「ご本人は本当はどのような最期を望まれていたのか」「誰のための医療なのか」と強く自問自答しました。こうした思いが根源となり、患者さんが望み、安心できる医療を届けたいと在宅医療を志し、高齢者医療を専門とする老年内科へ入局しました。
老年内科とはどのような科なのでしょうか?
私が勤務したのは、名古屋大学医学部附属病院と国立長寿医療研究センターの老年内科です。同科は一つの病気にだけ着目するものではありません。高齢の方はがんや認知症、神経難病、整形外科疾患、泌尿器科疾患など複数の病気を抱え、認知機能や身体機能が衰えていることが多いので、すべてを包括して全身管理を行っていきます。さらに介護や療養の環境も考慮し、他分野の方々と連携をとって、人生の最期の段階までできる限り本人の意思を尊重するケアや治療を続けます。老年内科での経験は今の自分の基礎となっていますね。訪問診療の経験も積み、2020年4月に当院へ。同年8月、当院は在宅療養支援診療所の施設基準を満たし、私は訪問診療部の部長に就任。蟹江町を中心に訪問診療を開始しました。
負担や不安に配慮し、患者の時間を大切にした医療を
そもそも訪問診療とは?
訪問診療とは、突発的に依頼を受けて伺う往診とは違い、病気や認知身体機能、介護療養環境を踏まえてご本人とご家族の意向を確認して診療計画を立て、2週間に1回など定期的にご自宅や施設に伺い、健康管理を続けるものです。対象となるのは、病気や障害、歩行困難などで単独での通院が困難な方、ご家族が遠方で独居あるいはご夫婦で暮らしている高齢の方、また、長時間座った姿勢を保つことが困難だったり認知症のために待つことが難しかったりと、外来の待ち時間が大変という方などになります。訪問診療はご本人に寄り添うことはもちろんですが、私の中では「孤独をなくしたい」というテーマもあって、患者さんを支える人も孤独にならないようにと思っています。介護も仕事も子育ても、すべて1人で抱えて頑張ってしまう人もいらっしゃるので、そんな人の負担が少しでも減るようにもしたいです。
現在、先生はどのような方を訪問されているのですか?
単独での通院が困難な事情を持つ方のほか、末期がんの方、認知症の方がそれぞれ2割ほど、パーキンソン病やALSなど難病の方が1~2割ほどでしょうか。年齢は80代以上で、100歳を超えた方もおられます。2020年8月から2021年8月までの間には130人の方を担当させていただきました。在宅医療の良さは、住み慣れた部屋で見慣れた景色を見て、着慣れたパジャマを着て過ごす、というところにもあると思います。また以前、時々ご友人が訪ねてこられると気持ちが前向きになられる方もいらっしゃいました。
先生が心がけておられることはどのようなことですか?
患者さんの中でも、がん末期の方は人生の時間が限られています。その大切な時間をどのように穏やかに過ごしていただくか、不安をどのように和らげて安心していただくか、ということを心がけています。逆の立場だったら私も自分の時間を大切にしたいと思うからです。また認知症の方には、その方を否定するような発言をしないようにしています。認知症の方の意思を確認するのは難しいのですが、できるだけ尊重していきたいです。もともと私はお年寄りと話すのが好きで、患者さんの笑顔に自分がとても癒やされているんですよ(笑)。一緒に過ごすうちに、患者さんやご家族が自分の家族のように感じられてきます。
多職種と連携し、子どもも高齢者も安心できる町に
やりがいを感じるときはどんなときですか?
最初は訪問診療を不安がられていた患者さんやご家族が、訪問を重ねるごとに穏やかな表情になり、笑顔を見せてくださるようになることに喜びとやりがいを感じます。「先生が来ると本人の気持ちが明るくなるし、私たち家族も安心です」「先生がいてくれてよかった」などのお言葉をいただくと本当にうれしくて、また頑張ろうという気持ちになりますね。お看取りを希望されていた方でも、薬を変えたりして根気よく治療を続けた結果、状況の改善につながったときも、諦めないでよかったとうれしくなります。在宅医療は医師がメインではなく患者さんが中心で、その方の価値観や生き方を尊重しつつ、どのように過ごすのが一番いいかを介護の分野など多職種と連携し一緒に考えていきます。そんなこともやりがいの一つですね。
多職種連携も重要なのですね。
はい。医師の力はほんの少し。訪問看護師、薬剤師、理学療法士、ケアマネジャー、地域包括支援センターなど多くの人の連携により100の力に近づくのです。情報共有や積極的なコミュニケーションを大事にしており、オンラインでの対話や「つながろまい蟹江」などICT(情報通信技術)も活用しています。患者さんの病状や薬のことはもちろん、食事内容やエアコンの温度、ベッドの硬さについて話し合うこともありますよ。チームにおいて皆が自身の仕事に誇りを持ち、対等な立場で意見を出し合える雰囲気づくりをとても大切にしていて、私にも遠慮なく直接電話やメールをしてほしいと思っています。風通しが良く、スタッフが働きやすいことが、ひいては患者さんへの医療の質を高めることにつながっていくのではないでしょうか。
訪問診療部長に就任されてからの1年を振り返り、今後の展望についてお聞かせください。
これまでご依頼いただいた方は基本的に断らないようにしてきました。特に、がん末期の方は残された時間が大事になりますので、連絡をいただいたら当日、遅くとも翌日には対応するようにしています。当院の看護師は30~40年勤務で、一緒に伺うと患者さんとも顔見知りで安心されるというのも当院の強みです。最近では近隣のクリニックからのご紹介で、大切な患者さんを任せていただくことも増えてきました。引き続き、より在宅医療の質を高められるよう研鑽を続けるとともに、今後は自分の経験を次の世代に伝えることにも力を入れたいです。さらに将来的には病児保育や充実した幼児教育など子育て支援も行いたいですね。子どもから子育て世代、お年寄りまで誰もが安心して暮らせる町づくりに貢献したいと思っています。