通院が難しいすべての人のために
生活までも「支える」訪問診療
ナーブ・ケア・クリニック
(横須賀市/県立大学駅)
最終更新日:2025/12/24
- 保険診療
足腰が不自由となってかかりつけ医に通院できなくなり、不安を抱えながら自宅で療養を続ける人がいる。そんな高齢者を前に、「病院に連れていきたいが、大きな負担だ」と悩む家族も多いだろう。終末期のものと考えられがちな訪問診療だが、こうした不安や悩みに応えるための医療体制でもある。横須賀市の「ナーブ・ケア・クリニック」で、脳神経外科診療と並行して訪問診療を実践する久保篤彦は、「訪問診療を行っているクリニックをかかりつけに持つことで、急な発熱や転倒などの不測の事態にも自宅で一次診断を受けられます。大きな安心につながるでしょう」と話す。そんな久保理事長に、病気を「治す」医療に限らず、生活環境の評価や多職種との連携も含めて在宅療養者の生活までも「支える」同院の訪問診療について、詳しく話を聞いた。
(取材日2025年12月9日)
目次
「治す」医療から「支える」医療へ、鍵となるのは訪問診療
- Q訪問診療の対象はどのような方でしょうか。
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A
▲MRIも完備。充実した検査体制
訪問診療というと「終末期に自宅での看取りに向けて利用するもの」という印象をお持ちの方が多いようですが、実際には通院が難しいすべての方が対象になります。脳卒中後で歩行が不安定な方、パーキンソン病や認知症などで外出が大きな負担になる方、急性期治療を受けて退院した直後に体力が戻りきらず通院が続けられない方など、背景はさまざまです。私たち医師が「かかりつけ医」としてご自宅に伺うことで、万一不測の事態が起こっても、「まずは医師に連絡」という流れがつくれ、不要な移動や受診の負担を避けられます。いつもの医師が家に来てくれるという安心感も、ご本人やご家族にとって大きなメリットになるのではないでしょうか。
- Q訪問診療を受ける際の流れを教えてください。
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A
▲訪問診療を進める上で、本人や家族の意思疎通が不可欠
最初の一歩としては、ケアマネジャーやかかりつけ医への相談が一般的です。その際に「どんな診療を希望しているか」を率直に伝えていただくことが大切で、医師との相性や診療方針が合うかどうかを確認する重要な場面になります。ご相談いただいた後は、医師・看護師・相談員と事前に打ち合わせを行い、診療内容や費用、緊急時対応などを細かく確認します。最近では病院からの退院支援の依頼も増えており、地域医療との連携がより強く求められています。人間同士、相性は実際に会ってみないとわからないものですから、依頼先に悩む方には「いくつかの医療機関に問い合わせてみて、合うところを選んでいただいて構いませんよ」とお伝えしています。
- Q具体的にどのような診療が可能ですか?
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A
▲コミュニケーションを大切に、日々診療に励む
訪問診療の大きな目的は、患者さんが抱える基礎疾患を悪化させないことです。心不全や脳卒中後の状態悪化を防ぐための管理、褥瘡やケガの処置、感染症への対応、手術後の創部ケア、栄養指導やリハビリテーションの相談など、病院とほぼ同様の医療を自宅で提供できます。患者さんには生活の自立が難しい方も。生活環境や人柄、ご家庭内の状況まで把握できるのが訪問診療の強みで、「薬や水を飲むのが難しい」「日中独居になる」「家具の配置に転倒リスクがある」といった生活上の問題も一緒に解決することをめざします。求められているのが「治す」医療から「支える」医療へと変わっていく中、訪問診療は非常に大きな役割を担っていると感じます。
- Q訪問診療でも検査を受けることができるのでしょうか。
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A
▲ポータブルの検査装置も用意。クリニック同様の検査が可能
当院ではポータブルタイプの装置を導入しており、エックス線検査、血液検査、エコー、心電図など、幅広い検査を自宅で行えます。転倒して手や足が腫れている場合はエックス線検査で骨折の有無を確認できますし、肺炎などの感染症も検査である程度判断できます。栄養チューブの位置確認といった従来は病院へ行かないとできないことも、これらの装置により、自宅で完結できるようになりました。もちろん、MRIなど自宅で行えない検査はありますが、一次診療として判断する際に必要な多くの検査に対応できます。「まず家で判断し、必要なら病院と連携する」という流れがつくれることは、通院が難しい患者さんにとって大きな安心になるでしょう。
- Q患者さんだけでなく、家族が知っておくべきことはありますか?
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A
▲医師と本人、家族とが目線を合わせて治療に取り組んでいく
ご家族にぜひ知っておいてほしいのは、「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」です。口から栄養が取れなくなった際に点滴を望むか、胃ろうを作りたいか、心肺停止時に心肺蘇生を受けたいかなど、「どこまでの医療を望むのか」を患者さんと家族で事前に話し合っておくことは、とても大切です。衰弱が進むと本人の意思が伝わりにくくなり、ご家族が判断を求められる場面が増えてきます。また、「家で見るなんて無理」と気負うご家族も多いようですが、多職種が連携し、生活面を含めて支えていくことで在宅療養は十分に可能です。後悔のない選択をするためにも、悩んだときは遠慮せず、まずは気軽にご相談いただければと思います。

