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窪田 彰 理事長の独自取材記事

錦糸町クボタクリニック

(墨田区/錦糸町駅)

最終更新日:2020/04/01

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錦糸町の駅から徒歩2分、壁にタイルで大きな樹が描かれた緑色の印象的なビルがある。このビルの3階から9階を占めるのが「錦糸町クボタクリニック」だ。理事長の窪田彰先生は東京都立墨東病院時代から錦糸町で精神医療に取り組み、「多機能型精神科診療所」というシステムをつくりあげた。クリニックの中では外来診療だけでなく、デイケアやナイトケアが行われ、歩いて行ける範囲に訪問看護ステーション、就労支援部門など関連の施設が点在する。この「錦糸町モデル」とも呼ばれるシステムは患者が街の中で伸び伸びと暮らしていくことをめざし、今も進化し続けている。常に一歩先を見据え、精神医療の新しいかたちをつくってきた理事長に、これまでのこと、そしてこれからの話を聞いた。
(取材日2018年1月24日)

多職種のスタッフが支援する「多機能型精神科診療所」

こちらは同じ地域に社会復帰のための施設を持つ「多機能型精神科診療所」だそうですね。

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多機能型の反対概念は「単機能型精神科診療所」で、日本の精神科診療所の8割は単機能型です。医師が患者さんを診察して処方箋を書き必要なケアをするというスタイルですね。それに対して当院は、外来診療に加えてデイケア、ナイトケアがあり、訪問看護や就労支援をする部署もある。クリニックの建物の中だけでなく、歩いて行ける範囲にいろいろな機能を備えた施設を併せ持っているのが特徴です。私たちは患者さんがこれらの機能を使いながら、地域で自立して暮らしていくことを支援しています。医師1人が頑張るのではなく、多職種のスタッフとチームを組んで、患者さん一人ひとりに寄り添ったオーダーメイドの治療をめざしています。

最初からこういった多機能型をめざしていたのですか?

いや、そうではないんですよ。私はもともと東京都立墨東病院で精神科救急を立ち上げたときのスタッフの一人でした。今から40年ぐらい前のことで、精神科救急分野の先駆け的な役割を果たしたと言えるでしょう。当時この地域は精神科の診療所やサポート拠点がほとんどなく、救急でやって来る患者さんも退院後の行き場がなくて引きこもってしまった結果、病気が再発してまた救急にやって来るという悪循環がありました。この患者さんたちが救急を使った後、どこかの外来につながって必要なサービスを受けられるようにすれば、何度も入退院を繰り返すことなく幸せに生きられる。それには地域できちんとケアしなければと、退院した患者さんが集う「友の家」や共同作業所をつくってきました。そんなとき転勤の話があり、私が抜けるとサポートする者がいなくなってしまうので、錦糸町に骨を埋める覚悟で開業に踏み切ったわけです。

それがいわゆる「錦糸町モデル」のスタートになったのですね。

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心の病気を持った人たちが地域で伸び伸びと暮らして行けるよう、必要なことをその時々に一つ一つつくってきたら今のようになったということです。こういった精神科地域ケアのシステムが、かつては精神科医療の過疎地だった錦糸町でできれば、日本の他の地域でもできるということになります。そういった一つのモデルを示したいという気持ちでしたね。

「人といることは楽しい」と思えるようにサポート

どういった患者さんが多いのでしょうか。

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統合失調症の患者さんが多いのが当院の特徴で、約半数を占めますが、うつ病やパニック障害の患者さんもおいでになります。最近、東京都立小児総合医療センターの顧問を務めていらした市川宏伸先生が着任され、お子さんや発達障害の患者さんも増えてきました。またこのところ話題になっている認知行動療法についても、心理士やスタッフがきちんと勉強し、時間をかけて対応しています。統合失調症の患者さんの場合、一度良くなってからも、何となく他人が怖いので引きこもってしまうケースが多いんですね。でもそれでは仕事にも行けない。人と怖がらずに付き合えるよう、リハビリテーションが必要です。そこでデイケアやナイトケアでいろいろなメニューを用意し、人といるのは楽しいことだと思っていただけるようサポートしています。パソコン操作やシルバーアクセサリー作りの学べるカリキュラムなど人気がありますね。

就労支援事業も大きな取り組みですね。

名刺交換やあいさつの仕方などビジネスマナーの訓練をした後、企業に実習に行き、そこで採用ということになれば就職実現です。今までなかなか勤められなかった人たちが働けるようになれば、自分に自信がつき、幸福度も高まります。その収入で欲しい物が買え、おいしいものが食べられ、彼氏や彼女もつくれるかもしれません。そういうふうに人生が楽しく広がっていくことが大事ですよね。

多岐にわたる活動にはスタッフも必要になってきます。

できるだけ皆さんの困っていることを支援しようと考えた結果、関係スタッフは現在大勢います。それぞれ複数の職場を経験することで、職員相互の交流を図り、全体が一つのチームなんだという意識を持ってもらえるようにしています。チーム医療の一つの例をお話しすると、例えば外来では、医師の診察の前に臨床心理士や看護師、ソーシャルワーカーが20分ぐらい面接を行います。そうすると患者さんが抱えていることを、医師だけでなく、スタッフと共有でき、いろいろな側面から支援をすることができます。

ところで、先生はどんなきっかけで医師を志されたのですか?

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高校時代の友人が皆医学部志望だったこともあって、一緒に受験して合格しました。でも医学部に入って2年経ち、専門に進むことになったとき、本当に自分は医者になりたいのだろうかと疑問に思うようになりました。そこで1年間休学して世界を回る旅に出たんです。その時ネパールの奥地で、公衆衛生の専門家で巡回診療をしていらした岩村昇先生について回り、医師は面白いなと思えるようになりました。その後アフガニスタン、イラン、トルコ、ヨーロッパを周って帰国したのですが、大学へ戻ってからは本腰を入れて医学の勉強に取り組みました。精神科を選んだのは、人の心は哲学にも通じるところがあり、一番興味深いと思ったからです。

「錦糸町モデル」は第二段階へ

お忙しい毎日ですが、何かご趣味があれば教えてください。

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建築ですね。見るというより自分で建てる。この病院も手がけてくれた設計士さんとはいいコンビで、私がこんなふうにしたいと希望を述べると、より良いものに仕上げてくれます。このクリニックの場合は鉄とガラスと石の組み合わせが建物を面白くしています。階段の両脇の手すりにたたいた鉄を使ったり、正面の壁のタイルをクリニックのために特別に焼いてもらったりして、個性的な建物を工夫しています。いろいろな建物を見るのも好きですよ。

今後の展望をお聞かせください。

これまで取り組んできた「錦糸町モデル」はいわば第一段階。これからは第二段階に入りたいと考えています。第一段階では自分から町や医療機関に来られる方を対象にしていましたが、第二段階ではより重症で自分からは来られない方や引きこもっている方の所へこちらから出向き、街で暮らせるよう支援したり、長い間精神病院に入院したままで帰ってこられない方に退院できるチャンスを提供したいです。しかし、そういったことを民間で行うのは限界があるんです。行政から地域における精神保健業務の委託を受ければ随分やりやすくなりますが、しかし残念なことに、日本にはまだこういったシステムがないのです。

行政や地域と連動したサポート体制が、先生のめざすかたちなのですね。

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ええ。例えば、墨田区から地域の精神保健支援を行う施設として委託を受けた民間クリニックは、半分は公的な役割を負うことになり、その分活動しやすくなるでしょう。退院促進事業で民間クリニックが別の病院へ行って患者さんに「退院しましょう」と言うのは怪しまれても(笑)、行政の委託を受けた機関ならばずっとスムーズにことが進む。こういった活動が実現すれば、地域全体の精神保健の質を高めることにつながっていくはずです。主要先進6ヵ国ではどの国にもこういった地域の精神保健支援を担う機能があり、ないのは日本だけ。精神病院の入院患者も日本だけ極端に多いんです。比較的症状の軽い方が気楽に精神科にかかれるようになったのは良いことですが、これからは精神病院に入院している患者さんが早く退院して、患者さんたちが地域で快適に暮らせるようにしなければなりません。そのために今後も力を尽くしていくつもりです。

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