石田 隆雄 院長の独自取材記事
久光クリニック
(足立区/六町駅)
最終更新日:2025/05/23

六町駅から徒歩3分とアクセスの良い「久光クリニック」。在宅医療と外来診療の両方を担っており、2000年の開業以来、地域貢献と心のつながりを大切にする医療をめざしてきた。石田隆雄院長は総勢20人を超える医師やスタッフたちと力を合わせ、患者一人ひとりに寄り添う温かな診療スタイルを心がけている。「患者さんが幸せな毎日を過ごすこと。それを一番に考えています」と語る石田院長。自然体で日々患者と向き合い、院長となってはや10年が過ぎた。気さくで飾らぬ人柄の石田院長に、今の思いを聞いた。
(取材日2025年3月26日)
外来診療も在宅医療も、地域のかかりつけ医の役目
こちらでは、どのような体制でどのような診療をされているのですか?

現在は常勤医を中心に5人の医師で訪問診療や24時間体制の緊急往診、看取り、オンライン診療、外来診療に対応しています。スタッフも含めると総勢20人ほどです。当院の建物は1階が外来診療スペースで2階がスタッフルーム。車いすの方や高齢の方も通いやすいよう、全面バリアフリーにしています。スタッフルームにもこだわりがあって、あえて固定席にせずに各自が毎日自由に席を決めているんですよ。いろんなスタッフと交流することでコミュニケーションが生まれたり、連携が高まっていると感じます。
先生はどのような経緯で院長になられたのですか?
鳥取大学卒業後に滋賀県で研修医期間を過ごし、次に国立国際医療研究センター病院の総合診療科で勤務した後、当院に入職しました。私自身は大阪の出身なのですが、当院の創業者が私の叔父で、そのつながりもあってのことです。院長を任されたのは2014年4月のこと。街のクリニックで勤務するにはまだ早いのではと迷う気持ちもありましたが、団塊の世代が後期高齢者になる時代を迎えるにあたり、一刻も早くかかりつけ医としての診療所での勤務や、終末期医療を含めた在宅医療に取り組む必要があると考えました。それ以来ずっと現場で日々働きながら、実地で勉強を重ねています。
在宅医療にも目を向けている理由は何でしょう?

外来診療から在宅医療・看取りまで、地域のクリニックにできることは基本的に何でもやる必要があると考えているからです。例えば高齢で一人暮らしの患者さんでも家に帰されるケースがあります。その場合、当院が関係機関と連携して自宅で診ることもできますし、施設入所や小規模多機能型居宅介護の制度などを活用する形で、当院の医師が自宅や施設に訪問して診療や看取りを行うことも可能です。老衰などが原因で通院できなくなるケースに加えて、最近は大規模病院でも治療の難しい末期患者さんを退院させる傾向があります。地域のかかりつけ医としては外来診療だけでなく在宅医療も手がけ、高齢者や末期患者などの看取りも含め患者さんを最期まで見届けるというのが当たり前になりつつあります。今は、外来診療だけをやっていればよいという時代ではなくなったんですね。外来診療と在宅医療、どちらかだけに比重を置くのはアンバランスなようにも思えます。
幸せな最期を迎えられるよう本人・家族の心情に配慮
先生が在宅医療を提供する際に、心がけていることをお聞かせください。

在宅医療は以前より浸透した印象がありますが、いまだに最期を自宅で過ごすことに抵抗のある患者さんやご家族がいることも事実です。患者さん本人が在宅医療を希望しても、ご家族が漠然とした不安を抱えて反対することもあります。そんな方に在宅医療について理解していただけるよう、説明するのも私たちの役目です。また、在宅医療は提供する医師によって患者さんの満足度が大きく異なると思っています。大学病院の外来診療であれば、「有名な先生」や「大きな病院」ということで患者さんは安心できるかもしれませんが、在宅医療はそうはいきません。医師個人の力量が問われます。これは医学的な力量という意味だけでなく、患者さんやご家族とのコミュニケーションの取り方や、生活背景・経済状況などを考慮したアドバイスも含めてです。すべての点において、患者さんに満足していただける医師でありたいと思っています。
看取りにも対応しているとのことですが、看取りを行う上で大切なことは何だとお考えですか?
どうすればその方が穏やかに、少しでも楽しい経験をして最期を迎えられるかを考えることです。たとえ一口でもおいしく食べたり、少しでも気持ち良く入浴したりと、最期まで心地良く過ごしてもらうのも大切なことだと考えています。実際、ご自宅で患者さんの最期を看取られるご家族は、必ずしもみんなが悲しみに暮れているわけではありません。「やりきった」という達成感があって、体を拭いてあげながら思い出話にほほ笑むこともあります。また、この地域には独居の高齢者も少なくありません。身寄りがなく、末期がんで余命数ヵ月の人や、認知症やアルコール依存症などで乱れた生活をしている人もいます。こういう場合はご家族なしで、介護に携わったヘルパーさんたちとお見送りすることになりますが、亡くなった方を含めてみんなが少しでも高い満足度をもって看取りができるよう努めています。
患者さんとのコミュニケーションで、特に気をつけていることは何でしょう?

患者さんの話を可能な限り聞くことです。医学的な正解を押しつけるのではなく、ご希望や不安なことをできるだけ聞き取るようにしています。例えば不定愁訴で、漠然とした体の不調を訴える方も多いのですが、具体的に有効性の見込める治療法が見つかりにくいことも。こういう場合は「それは病気ではないから」と突き放すのではなく、共感し一緒に対応を考えること、笑顔でお話を聞くことを心がけています。若い時にはあまり気にならなかったちょっとした痛みなどでも、高齢になるとそれを気にして悪循環に陥ることもありますから、不安を取り除くことが必要なのです。
患者に向き合いはや10年。これからも自然体の診療を
地域のケアマネジャーや訪問看護ステーションとの連携についてはいかがでしょうか。

インターネットのクラウドサービスを使って、ケアマネジャーや訪問看護スタッフ、薬剤師の方々とカルテを共有しています。院内でも外出先でも、診療内容や検査結果、撮影画像などの情報を見られるシステムです。実際、医療と介護の連携がうまくいっていないケースは多々あり、入院中の治療内容と、クリニックでの診察結果、ケアマネジャーの事務所が持っている情報はそれぞれ別に保管されていることが多いです。互いの情報を得ようとすると文書や電話でやりとりしなければなりませんが、相手にうまく伝わらないこともしばしば。患者さんのことを把握しやすくするためには情報を開示し、お互いの関係をもっとフラットにすべきだと思って、以前からこのシステムを活用しています。
院長として10年以上在宅医療に携わり、今改めて思うことがあればお聞かせください。
在宅医療を受けるのも、ご高齢になって最期の日を迎えるのも、特別なことではないと思っています。私たちはいずれ等しく最期の日を迎えますし、患者さんにはそれまで少しでも楽しく過ごしてほしいだけなんです。通院ができないことに対して悲観的に見る方もいますが、そんなことはありません。認知機能の衰えなどは否めませんが、私が伺うと世間話を聞かせてくださったりと皆さんお元気です。あるいは在宅医療に対して「何より素晴らしい選択だ」と解釈する方もいるのですが、在宅医療もいくつかの選択肢のうちの一つ。その方やご家族にとってはこの形がベストだったであろうというに過ぎません。そんなことを考えながら目の前の患者さんに日々向き合い、気がつけば10年以上たちました。これからも同じように患者さんに向き合っていくのだと思います。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

当院は在宅医療と外来診療を車の両軸と捉えており、どちらか一方だけの診療ではかかりつけ医としてバランスを欠くことになると考えています。在宅医療にかかるには至らない中間的な状態の患者さん、例えば「外来診療で診ているが、夜間に急に症状が悪化しやすい方」や、「通院は困難だが在宅医療をするほどでもない方」も増加傾向にありますね。当院では通院が困難な患者さんに向けた無料送迎やオンライン診療にも対応。地域のかかりつけ医として、在宅医療も外来診療も「総合診療」だと思って取り組んでいます。どんなことでもまずは気軽にご相談ください。