仕事、ストレスや葛藤が原因となる
心因性のうつ病
パークサイド日比谷クリニック
(千代田区/日比谷駅)
最終更新日:2021/10/12
- 保険診療
うつ病には、もともと持って生まれた脳に関わる内因性のうつ病と、一般的に仕事や対人関係、経済的なストレスや家族の問題などで病む心因性のうつ病がある。職域におけるストレス性疾患に関する研究を行う 「パークサイド日比谷クリニック」の立川秀樹院長は、これまで職場ストレスをきっかけとする心因性のうつ病患者を数多く診療してきた。「人はストレスや葛藤を感じると防衛反応として交感神経が高まり、副交感神経が抑制されます。ストレスが長く続くと、ある時を境に穏やかな環境の中でも交感神経が高まる「過覚醒」という状態になります」と語る。この過覚醒の見極めが、うつ病診断の鍵だ。心因性うつ病のメカニズムと症状、治療のタイミングなどを詳しく聞いた。
(取材日2019年7月10日)
目次
ストレスを受け過覚醒となったらうつ状態の初期症状。心身が疲弊し病んでいく悪循環に陥る前の受診が大切
- Qなぜストレスが心因性のうつ病を招くのですか?
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A
人はストレスや葛藤を抱えると、それらに対する防衛反応として交感神経が優位になり、副交感神経が抑制されます。ストレスに出合うと、それを乗り切ろうとして交感神経が高まり、血圧を上げ、血糖値を高めるなど戦闘モードに入ろうとするわけです。一方、リラックスしたり、内臓を働かせたりする副交感神経は、ストレスで交感神経が高まるとその働きが抑制されます。一過性のストレスならすぐに交感神経は収まりますが、慢性的なストレスにさらされていると、穏やかな環境の中にいても交感神経が収まらなくなるんですね。この状態を「過覚醒」といい、私はこの過覚醒がうつ病のメインであると考えています。
- Q過覚醒の状態になるとどんな症状が出ますか?
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A
具体的には、まず口が渇きます。それから、背中の僧帽筋は交感神経が支配しているので、力が入ることで肩凝りや頭痛につながります。その他、動悸、そわそわ感、めまい、ふらつきなどの症状が出ることもあります。また、副交感神経は、食欲や消化、眠りにも関係するので、ストレスがあると食欲不振や便秘、下痢など内臓の機能障害が起こり得ますし、不眠を訴えて来院される方はとても多いですね。免疫機能や生殖機能の低下もあり、これが過覚醒という状態の全体像になります。過覚醒が続くと、感覚が鋭敏になるため、痛みを感じやすい、疲労感が強い、上司の評価や表情、自分の体調の悪さなどに非常に敏感になるといったことも挙げられます。
- Qそのような症状は、うつ病の初期と考えたほうが良いのですか?
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A
心身の過労があっても、見かけ上はほぼ変わりません。もともとストレス反応には消耗性と興奮性の2つの要素があり、全体的に消耗が進んでいても一方で興奮が高まっているので、表面上の意欲や気分は変わらないのです。しかし、この状態が続いて過覚醒になると、うつ状態の初期である自律神経症状が生じ、意欲の急激な低下と抑うつ機能の低下による物悲しさやつらさが表れることがあります。この時点では、過覚醒を抑える治療や環境を少し変えることでリカバーできる可能性が高いですが、頭が働かないといった作業効率の低下や思考抑制など、脳レベルになった場合には抗うつ薬を使います。
- Qうつ病を防ぐ上手なストレスケアの方法を教えてください。
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A
自律神経は「目に見えない臓器」と考えてケアし、交感神経が過剰にならないよううまくコントロールして、過覚醒を起こさせないようにすると良いでしょう。例えば「何となく表情が硬い」「食欲が減った」「笑顔がなくなった」などをチェックするペースメーカー役を、家族や友達につくること。気分転換を図る「スイッチング」という方法も効果が期待できます。職場からまっすぐ帰宅すれば、職場のオーラを保ち続けることになるので、途中でどこかに立ち寄るのもいいですね。他にも、なるべく新しいことを同時に行わないこと、マッサージなどの受容的な癒やし、ランニングなどの能動的な癒やしを数個用意することも大切です。
- Qどのタイミングで受診を考えるべきですか?
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A
過覚醒の状態で受診すれば何とかなる可能性があります。眠れない、疲れが取れないという体の状態は、過覚醒の始まり、つまり病気への入り口。ストレスを受け、疲労が覚醒で見えなくなっている状態から、心身が疲弊し病んでいくという悪循環に陥る前に受診することが大切です。早期の段階なら、薬を使わず過覚醒を抑える治療をしたり、交感神経の働きを落として内臓の機能を上げる薬を使ったりすることで、休職せず、抗うつ薬を使わず、回復が期待できることがあります。ご自身で自律神経レベルの違和感を感じた時点で受診してください。