泉水 信一郎 所長の独自取材記事
西荻窪診療所
(杉並区/西荻窪駅)
最終更新日:2026/04/15
西荻窪駅より徒歩8分ほどの住宅街の中にある「西荻窪診療所」。現在は社会医療法人社団健友会のグル―プ内のクリニックだが、1950年開業という長い歴史を持ち、長年近隣の住民たちの健康をサポートし続けてきた。2025年8月より所長として着任した泉水信一郎先生は、「ホームドクター」として、臓器や専門性にとらわれず、患者の全身や心のありよう含め総合的に診断する。単なる「医療」では救いきれない、「社会」「制度」「介護」「コミュニティー」といった包括的なつながりを大切にした医療の提供に尽力する泉水所長に、日々の診療のことから今後の展望まで話を聞いた。
(取材日2026年3月9日)
その人がその人らしく過ごせることを大切に
外来診療と在宅医療の両方に対応されているのですね。

はい。平日は、午前中を外来、午後に訪問診療を基本とし、その他の時間は法人の診療所と病院と協力して24時間体制を作っています。当院の特徴の一つは、外来に通っていた患者さんが、年齢や体調の変化で通院が難しくなった場合でも、そのまま訪問診療につながって診療を続けることができることです。患者さんにとっても、環境が変わっても、同じ医師や看護師が継続的に関わることが安心感につながるのではないでしょうか。また、診療所の建物の中にケアマネジャーや訪問看護のステーションもあり、訪問診療に関わるさまざまなサービスが同じ場所で連携できる体制になっています。訪問医療では多くの職種が関わりますが、同じ建物内にそろっていることで、情報共有や連携がとてもスムーズに進むのが強みですね。
ホームドクターとして総合的な診療を行っているそうですね。医療に携わる中での原体験を教えてください。
学生の頃、小児病棟で絵本の読み聞かせをするボランティアを6年ほど続けていました。その関係で、学生ボランティアとして毎年小児がんの子どもたちのサマーキャンプに参加させていただいていました。その中で病棟ボランティアでも長年関わっていた白血病の子どもがいたのですが、当時は座ることも難しいほど体調が悪く、夏を越えるのは難しいかもしれないと言われていました。それでも本人が「キャンプに行きたい」と希望し、医師や看護師も付き添って参加することになったんです。すると、同じ病棟の子どもたちと遊ぶうちに少しずつ元気を取り戻し、キャンプの終わりには座れるほどまで回復しました。学生ながら子どもは子どもらしくすることの大事さに気づかされ、その経験から、子どもに限らず病気だけを見るのではなく、その人がその人らしく過ごせることを大切にしたいと思うようになりました。
ホームドクターをめざされたきっかけを教えてください。

たまたま公衆衛生の先生の会議の手伝いをさせてもらう機会があったんです。その時に指導してくださっていた先生から、「君はどんな医師になりたいの?」と聞かれたんですね。自分としては小児科に進みたい気持ちはありつつ、できれば子どもだけではなく大人も診たいし、急性期の医療にも関わりたい。それに加えて、緩和ケアのように人生の最期まで関わる医療もやってみたいという考えていました。その時はっきり言葉にできたわけではないのですが、そんな話をしたら、「そういう医療なら家庭医療という分野があるよ」と教えてくださって。そこで、当時、家庭医療学の権威の一人の先生に家庭医療を学ぶ機会をいただきました。それが、家庭医療という分野を知るきっかけでしたね。
「何を話しても大丈夫です」と伝える
診療において大切にしていることを教えてください。

病気を「治す」ことだけではなくて、その人を「支える」こともとても大事だと思っています。初診の患者さんには、まず「何を話しても大丈夫ですよ」と伝わるように気をつけています。患者さん自身が言いにくいと感じていることの中に、実はとても大事な情報が隠れていることも多いんですよね。だからこそ、患者さんが主人公になって話せるような診療を心がけています。それから、患者さんの主訴だけを見るのではなくて、その背景にある生活のことや、ご家族のことなども含めて聞き逃さないようにしています。よく「目的がわかれば道順も変わる」と言いますが、それと同じで、その方が何を大事にしているのか、どんな背景があるのかがわかると、医療としての関わり方も自然と変わってくると思うんです。
外来ではどのような診療が受けられますか?
一般内科中心ですが、「この症状をどこに相談したらいいのかわからない」と悩む方の診療にも対応しています。実際に、整形外科などいろいろなクリニックにかかったけれど良くならないと相談にいらっしゃる方もいます。以前、手足のしびれを訴える患者さんの相談を受けました。脳神経外科や整形外科では特に異常がないと言われていたそうですが、お話をよく聞いてみると、菜食主義の方でした。そのことから、栄養の偏りが神経症状の原因と考え、聞き取りや生活習慣のアドバイスなどを行いました。時に、生活背景まで含めて考えると原因が見えてくることもあります。外来の患者さんの年齢層は比較的幅広いですが、やはり高齢の方が多く、80代後半から90代の方も少なくありません。この地域に住んでいる方の年齢構成が、そのまま来院される患者さんの層に表れているように感じます。
曜日により専門の先生もいらっしゃると聞きました。

当院では曜日ごとに専門科の先生にも来てもらっています。例えば火曜日は内分泌の医師、木曜日は循環器の医師、金曜日の午後は腎臓内科の医師が診療しています。私を含め普段は総合診療として幅広く診ていますが、必要に応じて専門的な相談ができる体制が整っています。もちろん、それぞれがその分野だけを診るというわけではなく、全体を診ながら連携しています。特に訪問診療では心不全の患者さんも多く、循環器往診の体制も整えており、定期的に連携しています。診療所でできることはしっかり対応しつつ、より専門的な治療が必要な場合には病院ともつながりながら診療しています。睡眠時無呼吸症候群については在宅で行える簡易検査があるので、検査から治療まで対応しています。発熱患者さんは、空間隔離を実施できるようにしており、安心して外来にかかれる体制を作っています。
地域の人同士がつながる場所へ
医療設備について教えてください。

検査設備としては、エックス線検査装置があり、骨密度の測定も行っています。超音波検査にも対応していて、腹部、心臓、頸部やその他も一通り検査することができます。ただ、設備があるからといって、すべての検査を当院で完結させるわけではありません。患者さんの状態やご希望に合わせ、より詳しい検査が必要な場合にはそれぞれの医療機関を紹介することもあります。診療所でできることはきちんと行いながら、必要に応じて専門医療機関とも連携していく。そのようにして、患者さんにとって無理のない医療を提供できるよう心がけています。
在宅医療の特徴は?
定期訪問は月曜日から金曜日の午後を中心に体制を組んでいます。24時間対応の体制を取っていますが、夜間の電話対応は看護師さんが中心になって行ってくれています。患者さんやご家族から連絡があったときに、まずしっかり話を聞いて対応してくれるので、「困った時に連絡できる」という安心感につながっていると思います。訪問診療では、一人ひとりのことを考えられることもあり、クリスマスカードや誕生日カードをスタッフが作成しお渡しし、訪問や介護サービスなどで提供が困難な介護用品や寝具なども地域協力して届けたりなど、スタッフが患者さんのことを思って自然に動いてくれているんですよね。そういう姿を見ていると、スタッフの存在の大きさを改めて感じます。みんなの気持ちがあってこそ、この診療所が成り立っていると思います。
今後の展望についてお聞かせください。

診療をしっかり続けていくことを前提に、地域の中でできることも大切にしたいと思っています。健康相談のイベントを開いたり、院内で手芸のサークルや麻雀の会を開いたりして、地域の方が集まれる場にもなっています。診療所は医療を担う場であると同時に、地域にとって一番身近な場所の一つでもあると思うんです。最近よくいわれるフレイル予防でも大切なのは、人とのつながりですよね。医療だけでなく何でも気軽に相談できて、人と人がつがるよりどころのような場所でありたいと考えています。「西荻窪診療所に来ると安心する」と感じてもらえるような診療所を、スタッフとともにつくっていきたいです。

