降矢 英成 院長の独自取材記事
赤坂溜池クリニック
(港区/溜池山王駅)
最終更新日:2024/10/17

職場や家庭、学校での人間関係に疲れたり、大切な人を失ったりしたとき、私たちの心身にはさまざまな異変が現れることがある。精神的、心理的症状はもちろん、身体的症状が重なることで、治療が非常に難しくなるケースもあるだろう。そうした心身の不調に対し、ホリスティック医学の観点も用いた診療を提供しているのが「赤坂溜池クリニック」の降矢英成院長だ。溜池交差点に面し、地下鉄の駅からもアクセス至便な同院には、近隣オフィスで働く人はもちろん、遠方からも多くの患者が訪れるという。「病気を治すのはあくまで患者さん自身。それをさまざまな面からサポートするのが私たち医師の役割です」と話す降矢院長に、ホリスティック医学の視点を重視した同院の診療やそこにかける思いなど、詳しく聞いた。
(取材日2024年9月4日)
ホリスティックの観点から、身体と心を丸ごと診療
まずはクリニックの概要を教えてください。

1997年に開院した当院は、精神科、心療内科、内科を標榜。心身に不調を抱えた患者さんを全人的に診る、ホリスティック医学の観点を用いた診療を30年近く提供し続けています。医学生時代、「体の病気は心のストレスから起こる」という考えに衝撃を受けたことから、心身医学を学ぼうと決意し、ホリスティック医学の考え方を取り入れてがんの診療を行っている帯津三敬病院で学びました。身体だけでなく、心や環境までも含めて、全体的に人間の本質を捉える診療は、当時がんの終末期分野での実践こそあれ、クリニックレベルで提供する拠点はほぼない状態でした。しかし、主に身体や臓器に注目する従来の西洋医学では解決できない不調を抱える方は、当時から多くいらっしゃいました。そうした方々への、なんとかしなければという思いが原点です。現在も、都心のオフィス街からはもちろん、近県からも多数の方が来院されています。
そもそも「ホリスティック医学」とはどのようなものなのでしょうか。
ホリスティック(Holistic)という言葉は、「全体」「関連」「つながり」「バランス」という意味を包含するギリシャ語の「ホロス(holos)」が語源で、そこから派生した言葉にwhole(全体)、heal(癒やす)、health(健康)、holy(聖なる)などがあります。身体だけでなく、心や環境の面も含めて捉える包括的な視点で人間を丸ごと診るのがホリスティック医学の考え方です。現れた症状だけを診て治そうとする対症療法ではなく、すべてのつながりの中から本質的な原因を突き止めていき、その方に合うアプローチをしていく原因療法に通ずる考え方と言ってもいいかもしれません。
そうした考え方による診療とは、具体的にどのようなものですか。

一般的な診療と大きく違うのは、病理観です。病気が起こった際、西洋医学では身体、時には特定の臓器に主に着目しますが、ホリスティックでは身体、心、環境などの各側面からアプローチします。実は人間の本質をボディー、マインドといった側面から捉えるこうした考え方は、東西を問わず古来から存在しており、そうした世界中に古来からある考え方や視点も診療に取り入れています。例えば、チベットやインドに伝わる医学、中医学などもベースに取り入れていますね。また、心や体に悪影響を及ぼす要因を3つの煩悩とする「貪瞋痴」(とん・じん・ち)や、死を旅立ちと捉えて次の生までに「中有」があるとする死生観など、患者さんがご自身と不調を捉えて乗り越えるヒントになる考え方も多くあるのです。
薬への依存を避け、対話での根本的な問題解決をめざす
実際の診療はどのように行われますか。

保険診療が基本の当院では、診療時間はそれぞれ10分程度に限られます。その中で患者さんとの対話を通して、不調の原因に迫り、解決の糸口を探ります。初診では、詳しい症状とともに他科受診や食事、睡眠などの状況などを伺い、簡単な心理テストをもとに話を進めます。必要に応じて、薬を処方します。ただし、対話や薬に依存してしまうケースもあるので注意が必要です。病気を治すのはあくまで患者さんの持つ自然治癒力であり、それを援助するのが医師の役割と私は考えています。患者さんがご自身の不調の原因に気づき、それを乗り越えるヒントを見つけるお手伝いのために、時には仏教思想も取り入れながらお話をします。また、心理療法や食事指導、運動指導なども患者さんの希望も伺いながら行います。
精神的な病では、特に薬への依存が気になります。
もちろん、一時的に症状を緩和するための薬も有用です。しかし、根本にある心の問題を放置したまま投薬のみを続けることは、決して本来の意味での治療とは言えません。患者さんの中には、薬だけに限らず、何かに執着し続けることによってさらに症状を悪化させ、苦しみにつながっているケースも少なくありません。生への執着は死への不安になりますし、人との関係に頼ると、いざ問題が起きた際に大きな喪失から不調を来してしまいます。そうした執着を手放し、与えられた環境での自己を受け入れるためには認識を変える必要があり、それには全人的な診療を受けることや考え方の転換などが大切なのです。当院は「卒業をめざすクリニック」です。もちろん、無理に卒業させることはありませんが、ものの見方を変えていくことで、薬からの卒業をめざせることもあると考えています。
執着を手放すことが大切なのですね。

この世に生きていれば、決して思いどおりになることばかりではありません。大切な人を失うこともあれば、人間関係に失敗したり、仕事や受験でめざす結果が出せなかったりすることもあるでしょう。日本は災害も多い国ですから、環境を含めて思いどおりにならないことは多々あります。そんなままならない浮世において、自分の思いにこだわりすぎることは、決して得策とは言えません。そうした中で、心身の不調はピンチであるとともに、生きていく上で大切な気づきを得る大きなチャンスとも言えます。実際、がんやうつ病を患ったことで、人生が変わったという方も多くいます。
生き方を変える機会でもある闘病を多角的視点から支援
近年、本も出版されたそうですね。

ホリスティック医学に興味をもつ人の手引きになればと、2023年に「究極のホリスティック医学」という本を出しました。ホリスティック医学の考え方は、国内の医療シーンにおいていまだ十分に取り入れられているとは言えない状況です。しかし、30年近くにわたり実践してきた中で、私自身確かな手応えを感じているのも事実です。そこで、世界中から集め、現在私が取り入れているホリスティック医学の考え方をまとめて紹介しています。先にお話ししたチベット医学などにふれています。また、近年話題となっているHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)に向けた本も手がけました。現代社会とのアンマッチを乗り越えて生きるためのさまざまな工夫を紹介しています。
コロナ禍を経て感じられたことはありますか。
コロナ禍は病気そのものだけでなく、人々に自分の生活を見つめ直す機会にもなったと感じています。感染症が流行した社会の変貌で、先行きの見えない不安を抱えてお困りになった方が多かったと思いますが、その一方でオンラインシステムの普及で場所や時間を問わずつながりを持ちやすくなったり、新しい働き方ができるようになりました。また、コロナ禍で飲み会や会食が制限されたため、これまで悩みを他人に話すことで解消してきた人がストレスを抱えやすくなったケースもあると思いますが、見方を変えれば自分自身の問題に一人で向き合う機会を得たともいえます。悪いところにだけ目を向け続けるのではなく、良かったと思える点も見出していきたいですね。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

皆さんが病気を気づきの機会とし、不調を乗り越えることで自己実現へとつなげるお手伝いを続けていければと考えています。経済や社会の状況が決して良い方向へ向かっているとは言えない中、強い不安を感じていらっしゃる方もいるでしょう。また、頭痛や胃腸症状、不眠などの症状が続き、一般的な内科診療ではなかなか快方に向かわない方の中には、心に原因を抱えていらっしゃるケースがあります。お気軽にご相談いただければと思います。