岩崎 善毅 院長の独自取材記事
エール訪問診療クリニック
(板橋区/中板橋駅)
最終更新日:2026/06/10
2026年4月、中板橋商店街の一角に開業した「エール訪問診療クリニック」。院長の岩崎善毅先生は、「東京都立駒込病院」で30年以上にわたり外科医として手術に取り組み、「イムス東京葛飾総合病院」では副院長も務めた。大きな病院では手術後の患者をそのまま受け持つことができず、再発や最期の場面に寄り添うことがかなわない、そのもどかしさを長年抱え続けた末に選んだのが、訪問診療の道だった。語り口はどこまでも穏やかで、厳しそうな外科医のイメージとは無縁の柔和な人柄が印象的だ。地域の訪問看護ステーションや介護支援センターなど多職種と手を携え、一人でも多くの患者を支えたいと意気込む岩崎院長に、在宅医療への思いをたっぷり語ってもらった。
(取材日2026年5月18日)
患者を最期まで診るために、外科医が選んだ在宅医療
訪問診療の道に進まれたきっかけをお聞かせください。

外科医として「東京都立駒込病院」で30年以上、がんの手術を専門にしてまいりました。その後「イムス東京葛飾総合病院」で外科部長や副院長も務めましたが、大きな病院では手術が終わったあとは患者さんは紹介元の先生にお戻しするのですが、その後の経過中に再発・転移がみられた場合は、腫瘍内科や緩和ケア科といった別のセクションへ移っていくんですね。自分が手術した患者さん、一緒にがんと闘ってきた患者さんですから、最期まで診たいという気持ちがずっとありました。後輩たちも育ってきた頃に、第二の医師人生として緩和ケアなどに寄り添いたいと考え始めたんです。そして、訪問診療を視野に入れるうち、「究極のホスピスは在宅だな」と感じるようになり、「メスを置いたら訪問診療をやりたい」と長い間、心に決めていました。
板橋区で開業されるまでには、どのような道のりがありましたか?
訪問診療の世界に入るにあたり、まず大学の先輩が理事長を務めるクリニックで3年間修行させていただきました。その後、現在の当院の看護師長と2人で大阪に渡り、訪問診療のクリニックの立ち上げを行ったんです。実家が大阪にありましたので土地勘もありましたし、1年かけて軌道に乗せた後、後輩に引き継いで東京に戻ってきました。こちらで開業を決めたのは、知り合いのケアマネジャーさんから板橋区の事情を伺ったことがきっかけです。高島平の団地をはじめ高齢の方が増えている地域でありながら、がんの緩和ケアから看取りまで対応できる訪問クリニックがまだ少ないと聞きました。この地域でなら自分の経験を生かせるのではないかと考え、2026年4月に開業いたしました。
こちらのクリニックの特徴を教えてください。

訪問診療の先生方は内科ご出身の方が多いのですが、私は長く外科医をしてまいりましたので、外科的な手技や処置にも対応できるのが一つの特徴だと思います。がんの緩和ケアや看取りにも積極的に取り組んでおります。対象となるのは、要介護の状態などを総合的に判断して通院が難しいと考えられる方です。地域のケアマネジャーさんからご相談をいただいて伺うケースが多いですね。診療エリアは板橋区を中心に、北区や豊島区、文京区、練馬区など半径およそ16km圏内をカバーしています。訪問の頻度は基本的に月2回ですが、がんの末期など病状の変化が大きい方には週1回伺うこともあり、患者さんお一人お一人の状態に合わせて柔軟に対応するようにしています。
自宅だからこそ引き出せる、患者と家族の本音
訪問診療を始められて、患者さんとの関わり方に変化はありましたか?

大きな病院にいた頃は、外来で一日に何十人もの患者さんを拝見していましたので、お一人お一人とゆっくりお話しする時間がなかなか取れなかったんですね。それが今は、おうちにお邪魔してゆっくりお話しができる。これはもう大きな違いです。患者さんのご家族もいらっしゃる中で、日常の様子やさまざまな情報を得られるというのは、病院にいた頃には経験できなかったことでした。病院ではどうしても患者さんが「よそ行き」になってしまうところがあって、本当はつらかったり痛かったりしても、主治医の前ではなかなか本音を言えないということを感じていました。在宅ではそうした壁がなくなり、ご本人の自然な言葉にふれられるのは、私にとって新しい発見の連続です。
患者さんを支えるご家族に対しては、どのように接していらっしゃいますか?
がんの末期の患者さんを支えるご家族は、看病疲れで疲弊されていることがとても多いんです。なるべくご家族の本音も聞き出して、つらいお気持ちに寄り添えるよう心がけています。夜中に容態が急に変わると、ご家族はどうしてもパニックになりがちですが、私は24時間365日、電話で連絡が受けられる体制にしておりますので「まずはお話を聞かせてください」とお伝えしています。電話でお話ししているうちに落ち着いてこられるかもしれませんよ。また、ご家族の体力が限界に近いときは、一時的に入院してケアを受けられるレスパイト入院の手配もいたします。病状の変化が大きい方には、訪問看護ステーションの看護師さんに毎日訪問していただき、日々の状態を報告してもらう体制も整えています。
在宅でできる治療や処置には、どのようなものがありますか?

外科医の経験を生かして、整形外科的な処置にも対応しています。関節に水がたまっている場合の処置やヒアルロン酸の注入、局所麻酔の注射などといったことがご自宅でできるのは、患者さんにとっても負担が少ないかと思います。安定されている精神科の患者さんのお薬の調整や、認知症の方のケアなども、以前の訪問診療の経験を生かして対応しております。あと、実は巻き爪の対応が得意でして、新潟の燕三条の職人さんに特注で作ってもらった爪切りを愛用しているんです。高齢の方には巻き爪で歩けなくなっている方が意外と多く、新しい処置方法も勉強しながら対応しています。もちろん、専門外のことは近隣の病院の先生方にお願いできるネットワークも持っています。
地域を「一つの病棟」に、安心感を重視したチーム医療
普段の訪問診療は、どのような体制で行われていますか?

「東京都立駒込病院」で同じ病棟にいた看護師長と、気心の知れた二人体制で訪問しています。看護師長は手術室での経験もあり、がんの緩和ケアの現場にも精通していて、とても頼りにしているんです。訪問先では、私が患者さんとお話ししている間に、ご家族から日頃の様子やお困り事を聞き取ってくれます。1人では取りこぼしもありますし、すべてを聞き取るのはなかなか難しいんですね。2人の目と耳で情報を集められるからこそ、見落としが防げるのだと思います。看護師長もふわっとした穏やかな人柄で、患者さんやご家族にも安心していただけるのではないでしょうか。長い付き合いのチームワークで補い合えるのは、当院の訪問診療の大きな強みだと感じています。
今後、地域でどのような医療体制をめざしていますか?
私は長く病院に勤めていましたので、地域を一つの病棟に見立てるイメージで在宅医療を考えています。訪問看護ステーションの看護師さんが病棟の看護師のように日々の状態を把握し、その報告をもとに私が治療方針を決めて伺う。介護支援センターや近隣の病院も含め、皆でチームを組みながら、患者さんお一人お一人に対応していきたいと思っています。板橋区医師会にも入りましたし、地域にはそれぞれ得意な分野をお持ちの先生がいらっしゃいますから、紹介し合える関係を広げていきたいですね。退院前のカンファレンスで、ご家族やケアマネジャーさんと一緒に訪問診療への移行に関する話し合いも行っています。そうした連携を一つ一つ重ねて、多くの患者さんを支えられる体制をつくっていきたいと思っています。
最後に、読者へメッセージをお願いします。

訪問診療という仕組み自体、まだ広く知られているとは言えないのが正直なところです。病院から「訪問診療の先生を紹介しましょうか」と言われても、それが一体何なのかピンとこないという方は少なくありません。ですから「訪問診療って何だろう」「うちの場合でも来てもらえるのかな」という段階からでも大丈夫ですし、気になることがあればまずはご連絡ください。ご家族のご相談にも喜んで乗らせていただきます。そうした一つ一つのやりとりが、訪問診療を知っていただくきっかけになればと思っています。よく「外科の先生は怖い」なんて言われるのですが、私は本当に温厚で穏やかな性格ですので(笑)、安心してお声がけいただければうれしいです。

