土屋 博基 院長の独自取材記事
横濱元町メンタルクリニック
(横浜市中区/元町・中華街駅)
最終更新日:2024/06/14
元町・中華街駅から徒歩3分の立地にある「横濱元町メンタルクリニック」。院長を務める土屋博基先生は大学病院や地域の精神科病院などで研鑽を積んだ後、2024年5月に同クリニックを開業した。土屋院長がコンセプトに掲げるのは「心のかかりつけ医」。体の病気で近くのクリニックを受診するのと同じように、メンタルの不調時にも気軽に来院して相談してほしいという思いが込められている。「医師と患者との関係性を良好に保つことが大切」と語る土屋院長に、気軽に受診するためのアドバイスや診療で大事にしていることについて聞いた。
(取材日2024年6月3日)
気軽に受診できる「心のかかりつけ医」に
メンタルクリニックに通うことに対して、心理的な距離感を感じている人はまだ多いのではないかと思います。
人が豊かに生きていく上で、一番大事なことはどんなことでしょうか。例えば、お金、知識、愛、健康などが思い浮かぶでしょうか。私は「心身がともに」健康であることだと思います。体の病気であれば、ちょっとした風邪くらいであっても、近くのクリニックに行って診療を受けることは当たり前になっていますよね。けれどもメンタルについては、「自分の心が弱いのがいけないのではないか」と自分を責めてしまって、なかなか精神科のクリニックを受診するところまでいかない人も多いと思います。僕としてはその敷居を下げて、ヘルスケアの一つとして当たり前に精神科のクリニックにかかることができるような世の中にしていきたいんです。その意味で、皆さんにとっての「心のかかりつけ医」をめざしたいと考えています。
確かに、メンタルに関しては「かかりつけ医」という発想がまだあまり浸透していませんね。
そうですね。家の近所にある精神科に通うのは抵抗があるという方も、まだ多くおられます。本当は近隣だからこそすぐに受診できるはずですし、もっとそのハードルを下げて気軽に通えるような環境をつくっていきたいですね。現在はAIがいろいろな分野に浸透していますが、AIだけでは診られない分野の一つが精神科ではないかと思います。このことについて、ある先輩医師が「AIは人生を歩んでいないからね」と言っていたんです。AIでも表面的な診断から治療薬を出すことはできるかもしれないですが、主治医と患者さんとの人間同士の関係性を築くことは人にしかできない。外側からの診断だけでなく、もう少し深いところで、患者さんが実はこんなことで悩んでいるんだということを共有するのは、精神科医だからこそできることなのではないかと思います。
もっと早く受診していれば、という患者さんは多いのでしょうか?
受診までに時間がかかってしまい、悪化した状態から治療をスタートする患者さんを、これまで勤務した病院でも多く見てきました。受診が遅くなると治癒に要する時間も長くなってしまいますし、治療の経過も大きく変わってきます。ですから、悪くなってから来院するのではなく、予防的な感覚でいいと思うんです。診察してもらわなければ、と構えるのではなく、ちょっとつらいから相談しに来てみたとか、あるいは試しにクリニックを見に来たくらいのつもりでも結構です。そうやって気軽に受診をしてみて、何も問題がなければそれでいい。決して、悪いところばかりを見つけるためではなく、今はそのままで大丈夫ですよと専門の医師に言ってもらうだけで、きっとご本人の活力になることもあると思います。
患者と医師が良好な関係を保つことが大切
どのような症状を感じたときに、受診すると良いのでしょうか?
「このような症状があったら受診してほしい」と具体的に限定してしまうと、取りこぼしてしまうものが多くなると思うんです。人が一人ひとり個性が異なるように、症状もつらい感覚も一人ひとり異なると私は考えます。一般的には、うつ状態になる前の症状として、食欲がなくなるとか眠れなくなるという例が挙げられることがあると思うのですが、人によってどのような不調が生じるのかは本当にまちまちですし、精神科の場合、疾患の境界もとても曖昧です。ですから、具体的な症状を列挙してそれに当てはまるかどうかではなく、ご本人の感覚として何かつらさを感じていたり、このままではまずいなと感じたりすることがあれば受診してみてほしいんです。実際に、食欲がなくなったり眠れなくなったりしてからでは遅いかもしれませんし、その一歩手前の、なんとなくの感覚で構いません。当クリニックとしては、そのために門戸をしっかり広げておきます。
診察にあたって、先生が大事にしていることは何でしょうか。
登山に例えてみると、精神科医は患者さんとともに山を登る山岳ガイドだと思うんです。受診がいわば「登山口」で、治療の完了を「山頂」と考えたとき、山頂までの登り方というのはガイドによってさまざまです。つまり、精神科の医師によって方法は違うんですよね。もちろん、キャリアの長い経験豊かなガイドは優秀かもしれませんが、だからといって必ずしも患者さんの満足に結びつくわけではないんです。では何が大事かというと、治療方法うんぬんよりも、医師と患者さんとの関係性なんですね。患者さんと良い関係が保たれていないと、治療がうまくいかないことが多い。若い頃の経験から、そのように感じています。
先生は患者さんとどのような関係をめざしていますか?
山頂をめざすにあたって、僕は先導者として引っ張っていくわけではないんです。医師という肩書きではありますが患者さんを導くのではなくて、一緒に進んでいく伴走者のような存在です。僕は神様のような存在ではありませんし、ちょっと精神医学を知っているというだけのこと。山登りの途中で患者さんが転んだり、泣いたり、時に遠回りをし悩み苦しむこともあるかもしれません。そのような時こそ、僕は患者さんに寄り添い、全力でサポートしていきたいと考えています。
患者と向き合い、寄り添っていきたい
先生はどのようにして精神科医をめざされたのですか?
僕はいろいろな紆余曲折を経て、30歳で大学の医学部に入学しました。医学部を卒業して、どの道のプロフェッショナルになろうかと考えた時に、一つはそれまでの自分の社会経験が患者さんの役に立つのではないかと思ったんです。それから、先ほど医師と患者の関係性が大切という話をしましたが、僕自身がまだまだ未熟な医師だった頃、患者さんと良好な関係を保てたことで、主治医になってほしいと言っていただいたことがあって、今でもその言葉を大切にしているんですよね。そうした経験から精神科医の醍醐味を感じて、現在に至っています。
ご自身のクリニックを開業されてからの手応えはいかがですか?
もともと、残りの人生で自分が何をやらなければいけないか考えたときに開業が頭にあり、自分にとって身近な土地である横浜でこのクリニックを開くことにしました。とはいえ、事前の段階ではそれ以上の大きなビジョンを持っていたわけではないんです。ただ、開業してから患者さんが来院してくださることのありがたさを本当に感じ、自分がめざす精神科医療の集大成、もしくは地域貢献の場として、しっかり患者さんと向き合い、寄り添っていきたいという気持ちが日ごとに増しています。まだこれから、いろいろな苦難があるのかもしれませんが、いろいろな方に関わっていただいて開業して本当に良かったと思っています。
今後の展望をお聞かせください。
クリニックを大きくしたいといったことではなく、お子さんからご高齢の方までトータルで診ることができて、まさに「心のかかりつけ医」という言葉どおりの、地域の中で愛される場所にしたいですね。皆さんが心身ともに健康になれますよう、スタッフ一同温かな雰囲気作りを心がけ、全力でサポートしますので、ぜひ気軽な気持ちで相談しに来ていただければうれしいです。