御厨 彰義 院長の独自取材記事
在宅クリニック らぽーる
(北九州市戸畑区/戸畑駅)
最終更新日:2026/08/31
在宅医療に情熱を注ぐ一人の医師がいる。心臓血管外科で約15年研鑽を積んだ後、さらなる道を模索する中、患者が「住み慣れた場所で自分らしく過ごせる」在宅医療に新たな可能性を見出したという、御厨彰義(みくりや・あきよし)先生だ。2024年に訪問診療を主体とした「在宅クリニック らぽーる」を開院。北九州市内を訪問エリアとする同院は、重症・軽症を問わず通院困難な幅広い患者を対象としている。一人ひとりの思いに寄り添い、温かな心で応える御厨院長。終末期やがんの緩和ケアでは、患者が充実した時間を過ごせることを重視し、自宅での急変にも24時間365日対応する。訪問看護師、ケアマネジャー、薬局、ホームヘルパーなどと連携し、一人の患者を支えていく。そんな同院の訪問診療について詳しく聞いた。
(取材日2026年6月23日)
心臓血管外科での15年を経て、訪問診療の道へ
もともとは心臓血管外科がご専門だったそうですね。

ええ、大学卒業後、約15年間、大学病院や基幹病院を中心に心臓血管外科の分野でキャリアを重ねました。新しい治療が次々と出てくる中、それを極めていくことにもやりがいを感じてはいたのですが、残りの人生は他の世界も見てみたいという気持ちが芽生えたんですよね。そこで、救急や精神科、皮膚科、眼科など、非常勤でとにかくいろんな分野を経験させてもらいました。その一つに訪問診療もあったのですが、この分野はこれまでのキャリアをより生かせると感じましたし、何よりありがたいことに、患者さんや関わるスタッフの方たちから感謝されることが想像以上に多かったんですね。非常勤として1ヵ月ほど携わらせていただく中で、そのクリニックから院長を務めてくれないかと依頼されました。必要としてくださる方がたくさんいることと、私自身訪問診療の楽しさや可能性を感じていましたので、お引き受けしたんです。
その後、別の施設の訪問診療センターの立ち上げにも携わられたと伺いました。
ええ。救急病院に勤めていた時に、大分県にある施設の事務長さんとお話しする機会がありました。その地域はまだ訪問診療があまり広がっていないエリアで、一人暮らしの高齢者が倒れてしまうと発見が遅れてしまい、脱水症状など危険な状態で搬送されることが多かったそうです。介護保険制度を適切に利用していたら、防げた可能性のある事態です。医師や訪問看護師が介入することで、地域の高齢者の安心感や生活の質を向上させたい。だから、訪問診療センターの新設に力を貸してほしいと、事務長さんから頼まれたんです。ゼロベースからの構築でしたので悩みましたが、地域貢献もできると思い、当時任されていたクリニックの院長職を辞めて立ち上げに専念することにしたんです。
地域によって、訪問診療に関する認知度や環境にずいぶんと差があるのですね。

環境が整っていない地域だったため、スタッフでさえ、定期的かつ計画的に訪問する「訪問診療」と、患者さんやご家族の求めに応じて急きょ向かう「往診」の違いをよく理解できていないような状態でした。在宅医療を必要とする方に情報すら届いていない問題もありました。そのため、まずは土台づくりから進めました。私の役目は一区切りついたところで、2024年4月に当院を開業しました。心臓血管外科で働いていた小倉記念病院の看護師の一人が、北九州市で訪問看護師として活躍していたことも、ここでの開業を決めた理由の一つです。訪問診療のニーズは高まっているものの、地域によって認知度や診療内容にかなり差がありますので、土地勘のある仲間がいたのは心強いものがありました。
住み慣れた自宅での療養を諦めないでほしい
どのような患者さんからのご依頼が多いのですか?

特殊な疾患の方以外は高齢者からのご依頼が多く、白血病を含めたがんなどの疾患をお持ちの方のターミナルケアも多数お受けしています。一般的に2週間に1度の訪問がスタンダードな訪問診療だと思いますが、当院では病状によっては毎週お伺いします。また、通常の在宅医療では敬遠されがちな外科的な処置や輸血、腹膜透析、腎ろうや膀胱ろうのカテーテル交換・管理なども、これまでの経験がありますので、必要な際は安全に十分配慮した上で実施しています。胸水や腹水を抜くことも可能です。
そのようなことまで在宅で行えるのですね。
在宅医療は限られたことしかできないと思っていらっしゃる方が非常に多いと思います。しかし、医療機関内で行っている処置とほぼ同等のことが行えますし、ご自宅であっても良質な医療を提供することが可能なんです。とはいえ、実施するか否かは医師のスキルや考え方でも異なるでしょう。当院では患者さんご本人やご家族と相談の上、外科的な処置も行っています。病院の連携室などからの外科処置が必要な患者さんの訪問診療の相談や依頼がだんだんと増えてきました。在宅医療では対応が難しいと捉えられていた重症患者さんも、「御厨先生にならお願いできる」と思っていただけるようになったのなら、素直にうれしく思います。
難しいだろうと自己判断せずに相談することが大切ですね。

当院に限らず、私のようなスタンスで訪問診療を行っている先生はたくさんいると思います。どんな病態であっても、在宅医療を希望される方やそのご家族は決して諦めないでください。また、行政のサービスや介護保険事業など、受けられる支援があることを知らずに困難な日々を過ごしている方もまだたくさんいらっしゃいますが、ご相談いただければ適した窓口におつなぎいたします。神経難病や人工呼吸器を装着されていた患者さんの診療経験もありますし、重症患者さんも安心してお任せいただければと思います。
多職種連携で、一人ひとりの患者を支えていく
難しい病態の方も対応されている理由を教えていただけますか?

必要な処置ができれば、患者さんがご自宅に戻れるからです。例えば毎週輸血をしている方がご自宅に戻れたとして、すぐに再入院を余儀なくされると、ご家族は病院にいたほうが安心だと思いますよね。しかし、患者さんご本人はおうちに帰りたい場合、ご自宅で処置が可能になれば、患者さんの願いがかないます。その上、医師や薬剤師、ケアマネジャーといった医療・福祉従事者による多職種連携で患者さんを支えられたら、ご家族のご不安・ご負担の軽減にもつながると感じています。
一人暮らしの高齢者も訪問診療を受けられるのでしょうか?
はい。病状によっては医療保険の適用になったり、介護申請を行うことで受けられたりするサービスもあります。そのような支援を活用することで、一人暮らしの末期がんの患者さんであっても、ご自宅で療養することが可能です。また、ご家族が、もし患者さんが旅立たれる瞬間に立ち会えなかったらとご不安になるケースもあるでしょう。24時間そばにいるのは不可能ですし、仕事を辞めてまで介護をするのは難しい。なので、いつもと同じ生活をされて構いませんよとお伝えしています。お見送りができなかったとしても、患者さんが慣れ親しんだおうちで、いつもと変わらない生活を送りながら最期の時間を過ごして旅立つことは、きっと幸福なことでしょうとお話しします。「こうでなければ」と決めつけないよう意識を変えていくことが、在宅医療のハードルを下げることにもつながると考えています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

元気な時こそ、人生の最終段階で受ける医療やケアなどについて、ご家族と話していただきたいなと思います。ざっくばらんに話す中で、訪問診療の選択肢があるよと話題にしていただけるとうれしいです。当院は年齢や疾患の程度は問わず、患者さんを受け入れています。対象となるのは通院が難しい方ですが、病状の重さは問いません。重症の方は誰が見ても訪問診療が必要だとわかります。一方で軽症の方の場合、「この程度で在宅医療を頼むのは贅沢なのでは」とためらってしまう方もいるのです。例えば、見た目は元気でも認知症で一人での通院が難しい。薬をもらうため何とか歩いて通えても、かなり時間がかかる。老老介護で介護をする側も、通院する余力がない。こうした方も対象です。つまり、在宅医療には介護者のレスパイト的な役割もあります。病状は軽くても、その方の環境によっては当たり前に利用できるサービスです。躊躇されずに何でもご相談ください。

