福嶋 敬愛 院長の独自取材記事
福嶋クリニック
(福岡市南区/別府駅)
最終更新日:2025/05/08

福岡市地下鉄七隈線・別府駅より徒歩約8分の、住宅街の一角にある「福嶋クリニック」。同院は2023年10月に福岡市南区大橋で開業したが、糸島や西区エリアをカバーするために半年ほどで現在地に移転した。同院の診療の柱は訪問診療。外来では一般内科やワクチン接種などを行っている。院長の福嶋敬愛(ふくしま・たかなる)先生は、大学病院の外科や地域の医療機関で20年以上研鑽を積んだ後、在宅医療に重きを置いた同院の開業に至った。「ただ診療するだけでなく、患者さんや医療従事者すべての人とのコミュニケーションを大切にしています」と、語る福嶋院長に、患者との接し方や訪問診療に対する考え方などについて詳しく聞いてみた。
(取材日2025年3月25日)
実は共通点が多い「外科」と「在宅医療」
先生のこれまでのご経験や開業の経緯について伺います。

私は久留米大学出身で、卒業後は久留米大学病院の外科で約10年間、手術やがん治療、救急医療に携わってきました。脳神経外科以外のすべてに関わってきたと思います。そして、佐賀の順天堂病院では院長も経験し、重症呼吸器疾患や神経難病といった重症の患者さんも多く診てきました。その後、福岡市内の診療所で在宅医療をしたり、大阪で一般内科の診療や美容の相談に対応したりとさまざまな経験を積みました。そして、大阪から戻り、さらに2つの診療所で在宅医療について学びながら開業準備を進め、2023年に開業することになりました。
先生のご専門について詳しくお聞かせください。
私はもともと外科出身で、大腸がんや肛門の疾患を専門にしていました。あとは乳腺外科の患者さんもたくさん診てきました。私の父も外科の医師で、最初は脳の研究をしたいと思っていました。ですが、ある時免疫を司る重要な臓器である腸に魅力を感じ、その道に進むことに決めたんです。結果として、外科を専門にして良かったと思います。診療する範囲が広く、さまざまな知識を得ながら経験を積めたからです。専門性を持ちつつ、救急医療も経験しましたし、その都度臨機応変に判断しながら対応してきました。また、さまざまな職種でチームを組み、診断・手術・術後の管理やその後のフォローアップをしていく外科に非常にやりがいを感じていました。
そこからなぜ訪問診療に特化しようと思われたのでしょうか?

外科での経験が訪問診療に生かせると思ったからです。手術はただ悪い所を摘出したり治療したりするだけではなく、全身状態を把握しながら行わなければなりません。その「全身を診る」という点が、訪問診療に必要なことなんです。在宅医療の患者さんの症状は千差万別で、ある特定の分野だけを診療できれば良いというものではないと思っています。状況を見ながら患者さんが今後どうなっていき、どのような治療が必要か、予測しながらケアをしていくのは外科も訪問診療も同じです。そして、医師は病気を診断し治療しますが、患者さんが安らかに最期を迎えられるように導くことも重要な役目だと感じています。そこにやりがいを見出すことがとても大切なことだと気づきました。
「現場の声は神の声」、何げない会話が診療のヒントに
在宅医療とはどのようなものなのか、基本的なところを教えてください。

在宅医療とは、常に介護が必要だったり、認知症などで通院できない方に対して、私たちがご自宅や施設に出向き、適切な治療を行うことを指します。対象者は必ずしも高齢の方だけではなく、ときどき若い方もいらっしゃいますよ。患者さんによって病気や症状はさまざまで、基本的にはどんな方でも診ています。月に1~2回訪問し、診療時間は平均すると1人当たり15~20分くらいです。早い方は10分でだったり、緊急性が高い方は2時間だったりと、それも患者さんによって全然違います。例えば、患者さんが骨折をして一時的に介護度が高くなり在宅医療にかかり、その後外来に移ることもあり得ます。ですから、介護度が高く通院不可能な方のみが在宅医療の対象というわけではないんです。いずれにせよ、患者さんの状況に応じて柔軟に対応できるのが「在宅医療」になります。
患者さんとのコミュニケーションで大切にしていることは何ですか?
笑顔であいさつをするなど、当たり前のことを大切にするようにしています。人は第一印象ですべてが決まるといっても過言ではありませんから。私が実際に患者さんのもとを訪問するのは月に1~2回です。そのため、普段の様子は患者さんご自身やご家族、施設の方たちの言葉をヒントにしています。そうしないと、検査にしても診療にしてもどこから手をつけて良いかわかりません。だからこそ、普段から何でも話しやすい雰囲気をつくることを心がけています。「話しやすい」というのは患者さんにとって重要なことですし、私たちにとっても患者さんや周り方の声はさまざまな情報を得る「神の声」だと思っています。そしてこちらからはきちんと説明をして、できる範囲でベストを尽くし、すべてにおいて誠実な対応を心がけています。
訪問診療ならではの難しさはどんなところですか?

高齢になるほど、複数の疾患を持つ方が増えます。体調不良や体の異変があるとき、どう診断してどのような対処をするかが難しいです。例えば足の浮腫にしてもさまざな要因が考えられますから。訪問診療で使う機器では検査項目に限界がありますから、患者さんが希望されれば大きな病院にすぐご紹介します。ただ、病院に行きたくないという患者さんもいらっしゃるため、その場合はこちらで治療を開始することになります。ですから、私たち医師は勉強して知識を得ることはもちろん、それ以上に多くの経験を積んで「感性」を養っていく必要があると思います。そうすることで、在宅医療での臨機応変な対応が可能になるんです。そういった意味では、私がこれまで経験してきた外科の救急治療などは「瞬時の判断」を磨く良い機会だったと思っています。すべての経験が今に生かされています。
地域住民が気軽に相談しやすい「窓口」をめざす
チーム医療に対するお考えをお聞かせください。

患者さんに接するのと同じように、医師同士や多職種の方たちとのコミュニケーションも大切にしています。紹介状一つにしても、自分の見解をしっかり書き、バトンタッチする相手が少しでも診療しやすくなるよう意識しています。そして、普段私たちはチームで動いていますから、患者さんへの対応は全員が印象良く、何でも共有しやすい環境になるよう私の方針をお伝えしています。全員同じベクトルでやらないと、円滑に進まないからです。ちなみに24時間365日、患者さんからの連絡には対応しています。私に直接連絡が来ることもあれば、看護師や非常勤の医師を経由することもありますが、いずれにせよ誰かが対応しますのでご安心ください。
訪問診療以外ではどんな診療をされているのですか?
外来では一般内科などを診ています。風邪や糖尿病、高血圧の方がいらっしゃったり、ワクチン接種で来院されたりもします。エイジングケアの相談も受けつけています。あとは腰痛などの痛みがある方や更年期障害の方など。ちなみに、外来は完全予約制で土日祝日は休みになっています。私たちが訪問診療に出かけている際は、事務のスタッフがクリニックにおりますので、予約やお問い合わせの対応は可能です。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

大きな展望を抱くというよりも、目の前の患者さんにしっかり向き合うことを重要視しています。毎日の積み重ねが大切ですから。そして地域のコミュニティーにしっかり溶け込み、このエリアにお住まいの方に何かあれば、当院が窓口になって対応したいと考えています。将来的に利便性の良い場所に移転したり、検査機器を充実させたりして、もっと在宅医療が必要な患者さんのお役に立てたら良いなと思っています。高齢化社会が進む中、私たちもできる限り患者さんのご要望にお応えしていきます。何かお困りのことがあればいつでもご相談ください。ときどき全然仕事とは関係ないご相談もいただきます。どうぞお気軽にお声がけください。