武光 智子 院長の独自取材記事
MOKO在宅クリニック
(渋谷区/南新宿駅)
最終更新日:2026/08/10
東京都渋谷区と新宿区の全域をはじめ、その周辺の一部エリアも対象に訪問診療を行っている「MOKO在宅クリニック」。腎臓内科を専門とし、人工透析の現場で腎不全とそれに伴うさまざまな症状と闘う患者に向き合ってきた武光智子院長が、訪問診療という自身にとって新たなフィールドでの開業に挑戦して、まもなく3年を迎える。患者のもとを訪れるたび、本人や家族と活発に対話しながら診療を進める姿勢からは、定期的な訪問を心の通わないルーティンには決してしないという強い意志が感じ取れる。「訪問診療に関わるすべての人が充実した日々を過ごせるようにしたいです」と、熱く話す武光院長に日頃の仕事とそこに込めた思いについてインタビューした。
(取材日2026年7月13日)
病気とどう付き合うかが一番大事と、訪問診療を志す
武光院長は研修医時代に外科を経験してから内科に移ったそうですね。どんなお考えがあったのですか?

私は祖父の代から医師の多い家に生まれました。祖父は消化器外科、父は人工透析のためのシャントを作る外科、兄弟も含め、他にも医師の親戚が何人かいます。当時は身近に外科医が多かったこともあり、医師といえば外科というイメージを持っていました。そこで、まずは母校の北里大学病院で一般外科の研鑽を積んだんです。ただ、将来的には内科に進むつもりでしたので、先に外科でさまざまな手技や全身管理を学び、その経験を土台として内科に取り組むという選択肢を取りました。その後、腎疾患や内分泌疾患を中心に内科の経験を積み、現在の診療につながっています。
その後は腎臓内科を専門として透析治療に従事されていましたが、訪問診療を始めたきっかけは何でしたか?
腎臓内科を選んだ理由の一つは、父が透析シャント手術を行っていたことです。それで私も、腎疾患や内分泌疾患に関する内科の経験を積んだ後、透析を中心に診る道に進みました。しかし、病院勤務で70~90代の透析患者さんたちと向き合ううちに、病気の中には治すことをめざすのではなく、うまくコントロールしながら付き合っていくことが大切なものも多いと実感しました。がんや高血圧症、脂質異常症、リウマチなどもその代表例だと思います。だからこそ私は、病気そのものだけを見るのではなく、その方がどんな生活を送りたいのか、何を大切にしているのかを考えながら診療することを重視しています。患者さんにとっての幸せが何かを考え、その実現を支えることも医療の大切な役割だと思うのです。その思いは、現在の訪問診療にも生かされています。
2023年8月に開業されましたが、当時の印象的なエピソードがあればお聞かせください。

自分の地元で開業したものの、訪問診療の医師としてはこの地域との接点がほとんどなかったため、まずは地域の皆さんに自分自身を知っていただくことが大切だと考えました。開業当初は地域の訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所を一軒一軒訪ね、ケアマネジャーや訪問看護師の方々にごあいさつをして回ったんです。もちろん、開業したばかりで実績もありませんから、最初から患者さんをご紹介いただくことは簡単ではありませんでした。それでも「どんな人間が診療するのか」を知っていただき、信頼関係を築いた上で患者さんをご紹介いただきたいという思いがありました。そうして地道に活動を続ける中で、開業から約2ヵ月後に初めて患者さんをご紹介いただき、当院の訪問診療がスタートしました。
医師として、言うべきことは遠慮なく言う
改めて、武光院長は訪問診療というものをどのように捉えていますか?

訪問診療は、患者さんの生活を全体的に観察するという点で、透析治療と少し似ているなと思っています。通常、透析治療は患者さんが週3回病院に通って受け、併せて採血も月2回程度行われます。それだけ頻繁に体を診る機会があると、病気が本当に早く見つかるんです。「同じ薬を入れているのに貧血が進んでいるのは何か起きているのでは?」「食事に原因があるのでは?」など、小さな異変をすぐに察知できます。これと似たことが訪問診療にも当てはまるんです。定期的に診察と採血を行っているので、何らかの変化があれば、その患者さんのバックグラウンドを踏まえつつ速やかに対応することができます。透析患者さんを診ていた時はさまざまな疾患への対処が求められたので、結果的にさまざまな病気に見当をつける目が養われ、訪問診療の現場でも役立っていると思います。
訪問診療は、1軒1軒かなり時間をかけて行っているそうですね。
それは私たちがずっとしゃべっているからです(笑)。1軒のお宅に30分くらいお邪魔することも珍しくないですね。楽しくお話ししていることもありますが、何気ない会話の中から患者さんやご家族の状況、その時々のお気持ちや考えが見えてくることも多いんです。そうしたことを知りたくていろいろ伺っているうちに、つい時間が長くなってしまいますね。時には厳しい内容をお伝えしなければならないこともあります。ただ、それは患者さんやご家族にとって必要なことだと判断した時です。伝えるべきタイミングを大切にしながら、きちんと理解していただけるよう丁寧に言葉を選んでお話しするよう心がけています。
アシスタントの市川さんはクリニックでどのような業務を担当されているのですか。

彼女は私と一緒に患者さんのお宅や施設へ伺い、診療の現場でアシスタントを務めてくれています。診療中のサポートはもちろん、電話対応やレセプト業務、集金業務など、クリニックの運営に関わる幅広い仕事を担ってくれているんです。実は、ここへ来るまでは医療事務の経験がなかったのですが、必要な知識や業務を一から学び、着実に身につけてくれました。今ではその場の状況をよく見ながら臨機応変に動いてくれていて、本当に助かっています。患者さんやご家族、関係職種の方々への気配りもこまやかですし、私が次に何をしようとしているのかを先回りして考えながらサポートしてくれることも少なくありません。診療とクリニック運営の両面を支えてくれる、頼りになる存在ですね。
患者も家族も医療者も充実した日々を過ごせるように
市川さんがご依頼の電話に対応されているところを拝見しましたが、とても丁寧な印象を受けました。

訪問診療では、患者さんやご家族との最初の接点が電話になることも少なくありません。彼女は、単にご依頼内容を確認するだけでなく、お困り事やご不安な気持ちにも耳を傾けるよう心がけてくれているので助かります。訪問診療は私たちが患者さんのご自宅へ伺う医療ですから、まず信頼関係を築くことが大切です。初回のお電話では患者さんの病状や生活状況、ご家族のご希望など確認すべき事項も多く、どうしても時間がかかりますが、彼女は必要な情報を丁寧に整理しながら聞き取ってくれます。ただ事務的に対応するのではなく、相手のお気持ちに寄り添いながら話を伺ってくれているので、安心して任せられています。
クリニックの今後に関して計画中のことなどはありますか?
開業から3年がたち、おかげさまで多くのご相談をいただけるようになりました。頼ってくださる患者さんやご家族のお力に、今まで以上になれるクリニックをめざして、医療事務兼経理とアシスタントもしくは看護師を新たに迎え入れたいと考えています。患者さんのことを大事に思い、その方に興味を持って、どうすればその方が幸せになれるのか、その方にとって何が幸せなのかを考え、進むべき道を探す姿勢をもって取り組むことをこれからも大切にしていきます。
最後に、今後の抱負をお聞かせください。

私の仕事のモットーは、患者さんもご家族も医療や介護の現場で働く人も、みんなが充実した日々を過ごせるようにすることです。そのために、ケアマネジャーや訪問看護師をはじめ、訪問診療に関わる多職種の方々をつなぐ存在となり、さらに患者さんやご家族と医療・介護の架け橋としての役割を果たしていきたいと考えています。関係者同士が円滑に連携できるよう調整役を担いつつ、患者さんやご家族にとって必要なことは、気持ちに寄り添いながらも丁寧にお伝えし、より良い支援につなげていきたいですね。また、ご家族だけでサポートすることは決して容易ではありません。だからこそ訪問診療をもっと身近に感じていただき、抱え込まずに相談してほしいと思っています。訪問診療は多くの人の協力があって初めて成り立つ医療です。自分の役割をより深く自覚し、患者さんとご家族が安心して過ごせる環境づくりにこれからも取り組んでいきたいです。

