森 武男 院長の独自取材記事
ホームドクターこつこつクリニック
(江戸川区/葛西駅)
最終更新日:2023/10/11
2023年9月開業の「ホームドクターこつこつクリニック」は在宅医療専門クリニックだ。訪問エリアは江戸川区にあるクリニックの半径16km圏内で、葛飾区、江東区、浦安市、市川市が含まれる。森武男院長は、救急医療や地方病院で幅広い整形外科の垣根を超えた幅広い疾患に対応した経験も持ち、患者を全人的に診る主治医力を高めることにも力を注いできた。やわらかな語り口と優しい笑顔で、患者とその家族と日々向き合っている森院長に話を聞いた。
(取材日2023年9月14日)
患者も意識できていない「本当に必要な医療」を提供
かわいらしいクリニック名ですね。
私がこれまで整形外科診療に長く携わっていたこと、今後は訪問診療で定期的に、まめに患者さんにお会いしに行こう、この2つの意味を込め「こつこつ」と名づけました。訪問診療は、もともと私の父が内科とリハビリテーションの診療所を開業しており、訪問診療も行っていたので、手伝っていたんです。リハビリと聞けば整形外科を思い浮かべる方が多いでしょうが、神経内科や脳外科の疾患でもリハビリが重要になってきます。父のクリニックでは通所のリハビリを行っていましたが、通院できない方も結構いらっしゃるんですよね。そこでもう30年以上前になりますが、患者さんのもとに出向いてリハビリをしようと考え、今でいうところの訪問リハビリを始めたのです。当時は介護保険の制度もまだなく、訪問リハビリという概念もない中でのことで大変だったと思います。そんな父の背中を見て育ったことも、今につながっています。
訪問診療はとてもニーズが高まってきていますね。
訪問診療というと、内科、精神科、緩和ケアなどのニーズが高いイメージですが、医療ニーズとしては整形外科に通われている方も少なくありません。また、整形外科の患者さんのお悩みの多くは生活の質に直結するものなので、整形外科診療に長く専門的に携わってきた私のような医師が取り組む意義は大きいと思っています。当院の業務を説明すると、患者さんが今困っているという場面で、整形外科の専門的な知識や経験を生かし、治療計画を立てます。手術が必要となる場合は、術後に必要となるであろうリハビリについても考え、手術を依頼する病院にお渡しする主治医意見書や、リハビリを行う理学療法士さんに向けた指示書も作成します。こうした書類も、患者さんごとに必要なことは何かを見極めながら具体的にわかりやすく作成するよう心がけていますね。実際の診療だけでなく、患者さんがより良い医療やケアを受けるためのサポートも重要な役割だと考えています。
主治医としての適切な指示が効果的なリハビリや生活の質の向上にダイレクトに影響するのですね。
基本的な内科疾患の診療にプラスして、患者さんにとって今必要なことや今後必要になることを見通して、関係各所に具体的な指示ができることは私たちの強みだと思います。患者さんやご家族がお困りの点や求めていらっしゃることに対して、ぴったりマッチングできるようなきめ細かい医療を提案・提供し、連携する病院や医療従事者に私たちの考えを共有する。そのためには、患者さんがうまく伝えられない課題や要望、時として患者さん自身も意識していなかった問題点を察することができなければいけません。私たちが目標とする医療は、言われたことを提供する医療ではありません。患者さんが考えていること、生活環境、趣味などから必要なことをくみ取って提供できる医療です。その結果として地域の方々に選んでいただけるような訪問診療所となってまいります。
礼節の上に成り立つ訪問診療
訪問診療を行う上で気をつけていることなどありますか?
まずは人として、あいさつと礼儀は大切です。そんなこと、と思われるかもしれませんが、礼節をわきまえていない人間に命に関わる医療を委ねることはできないでしょう。また診療の現場ではさまざまな医療器具を用います。今は使い捨てのものも増えていますが、そういったものを散らかさないようにすることにも気をつけます。そして一番重要なのが患者さんご本人やご家族とのコミュニケーションですね。案外、病気とは関係のない雑談から重要な要望や必要なことがわかったりするものなのです。医学的なところは医療に携わる者として、ある意味できて当然だと思っているので、どれだけ信頼していただけるか、なんでも言っていただける関係になれるか、というところに重きを置いています。
多職種が関わる訪問診療ではコミュニケーションが難しい面もあるのでは?
訪問診療は私たちだけでなく、必要に応じてケアマネジャーさんや理学療法士さん、介護士さん、そしてご家族などたくさんの方が関わります。そこでは、同じ患者さんを良い方向へ導く仲間だというスタンスが大切だと思います。またご本人以外のキーパーソンが誰なのかを把握することも重要ですね。ですので、まずはしっかりとお話を伺います。そうすると隠れていた問題が出てきたりしますし、私たちも同じ気持ちでいることを感じていただけると良い関係が築けたりします。例えば、認知症の患者さんと私たちが仲良くできていると、見ているご家族も安心できると思うんです。私はかつて小児患者さんにも多く関わりましたが、お子さんと仲良くなると自然と親御さん方とも良い関係になれるんです。患者さんやご家族とのコミュニケーションは結構得意なほうですね。
ポータブルのエックス線装置など機器も充実しています。
さまざまな機器をお持ちして整形外科の専門知識を持つ医師が訪問するということも、当院の特徴です。外傷や骨の様子を診断し評価できますからね。胸部エックス線についてはAIも搭載していて、見逃しを減らすことにも役立っています。高齢の方は誤嚥による肺炎が多く、問題になっていますので、早期に発見し治療できるよう尽力しています。また生活の質向上に直結するブロック注射、関節内注射などにも対応しています。
「こつこつ流」を大切に、着実かつ丁寧な診療を
これまでのさまざまな経験が、今の診療に生かされているようですね。
幸運にもそうですね。小児科ではお子さんとも仲良くなれましたし、救急科の外来も経験しました。大学病院では膝より下のフットアンドアンクルという部分をリーダーとして診ていました。大学病院ですから難症例の患者さんも紹介されてこられます。大学病院というところはたいていの場合、さらに先の医療機関に紹介することはありませんから、いわゆる最後の砦と言ってもいいでしょう。そんな緊張感とプレッシャーの中での診療は、やりがいも大きいものでした。捻挫後遺症の靱帯再建、変形性足関節症の人工関節手術を始め、偏平足、先天性疾患のほか、糖尿病性足壊疽(えそ)や重症虚血肢などのフットケアはもちろん、整形外科ではレアな巻き爪や褥瘡(床ずれ)まで広く経験してきました。特に寝たきりの高齢者に多い褥瘡は、かかとなどにも多く発生しますので、今まさに現場で役立っています。他にも出身大学以外の大学で手術の指導もしています。
その他、今に診療に生かされている経験はありますか?
一番は父のもとで経験を積んだことでしょうか。全人的、患者さんを人として診て主治医力を高めることは、ずっと継続して意識しています。地方病院に勤務していた時代には専門の先生方の多くが非常勤という状況で、幅広い疾患に対応していました。また脳梗塞からの片まひや言葉が出にくい失語症の方、難病からお体に障害のある方など、幅広くさまざまな患者さんに対応してきました。そういった経験の集大成が、今回の診療につながっていると思っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
一番大切なことは患者さんにとって害となることはしない、ということ。お薬も処置も、患者さんにとって利益になる面が大きいから行われるのです。また、患者さんの希望をくんだケアや看取り方は、それぞれの患者さんごとにつくり上げるものだと思っています。私が整形外科を専門に選んだのは、患者さんから話を聞いて直接触れながら診断へと結びつける診療姿勢に感銘を受けたからです。私は整形外科という診療科は、生活に一番近いところにあると思っています。今後は生活の質を維持・向上をめざしながら生涯診させていただく、「こつこつ流」の訪問診療を広げていければと思っており、医療従事者向けのセミナーや講演活動も行っていく予定です。幅広い状況の患者さんに適した医療をこつこつと着実に、丁寧に提供させていただきます。ぜひご相談ください。