十九浦 宏明 院長の独自取材記事
あかり在宅クリニック
(江戸川区/葛西駅)
最終更新日:2024/06/12
江戸川区を中心に、江東区や千葉県浦安市、市川市などを対象に在宅医療を行う「あかり在宅クリニック」。2021年4月に開業し、地域に住まう患者の「自宅で安心して暮らしたい」という思いをかなえるために、自宅や施設に訪問して診療を行っている。内科・呼吸器内科・緩和医療を専門とし、がんや内科疾患、また認知症や寝たきり、泌尿器疾患まで幅広く対応する十九浦宏明(つくうら・ひろあき)院長は、同院においてスタッフの存在が欠かせないという。「在宅医療は医療面だけではなく、患者さんの生活全体を支えることが重要です。よって介護の現場を知っているスタッフは大きな力となります」と話す十九浦院長。チーム医療を担うスタッフのことや、在宅医療への思いなどについて聞いた。
(取材日2024年3月21日)
患者の生活を幅広く支える在宅医療
なぜここに在宅医療のクリニックを開業しようと思ったのですか?
6年前から江戸川区に住んでいることが、この場所を選んだ大きな理由です。自らが住んでいるこの地域に医療で貢献したいと考え、開業を決めました。在宅医療中心で開業しようと思ったのは、病院勤務をしていた時に訪問診療を手伝う機会があり、高齢化が進む社会の中で必要性を強く感じたからです。また、それまで医療機関の中でしか働いてこなかったので、患者さんのご自宅に伺うのが新鮮で、ご家族や生活の雰囲気がわかる環境で診察することに居心地の良さも感じました。医療と生活は密着しているんだなと強く思い、在宅医療に惹かれたんです。
医療と生活が密着しているとは、具体的にどのようなことですか。
ご自宅で療養されている方は、ご自身の力だけでは生活するのが難しく、誰かの手を借りなければ生活できないんですね。外来診療では医療的な面だけのサポートで終わりますが、在宅医療では医療的な面だけでなくその方の生活全般まで広くサポートする必要があります。また、医療機関には医療機関の厳しいルールがありますが、在宅医療ではそれぞれおうちのルールや習慣があるでしょう。そんなご家庭の中に入らせていただいて診察する中で、より良い生活を送れるようにするにはどうしたら良いか、ご本人やご家族、さらに多職種のスタッフとともに一緒に考えていくことに、在宅医療の醍醐味(だいごみ)といいますか、やりがいを感じています。
先生のご経歴について教えてください。
愛知医科大学医学部を卒業後、大学病院や地域の中核病院に勤務しました。内科、呼吸器内科、緩和医療を主に専門としています。緩和ケア病棟にも勤務して、訪問診療の経験も積みました。在宅医療を行うクリニックでの勤務を経て、2021年4月に当院を開業しました。
開業当初は、市川市にある面野医院の分院だったと伺いました。
はい。面野医院の面野寛院長が理事を務める医療法人の分院としてのスタートでした。2023年8月に事業譲渡を受けて独立しました。独立の理由としては、より江戸川区に密着した在宅医療を行いたかったからです。おかげさまで開業以来、患者さんやスタッフの数も増えて、規模が大きくなりました。今後、さらに江戸川区に密着して在宅医療を行っていくためには、もっと迅速に意思決定ができる体制にしたほうが良いのではないかと話し合いました。面野医院は市川市の南行徳地区にあり、距離的に近いといえば近いのですが、何か物事を決める時にすぐに決定できて、フットワーク軽く動ける体制にしていこうと考えた末に独立を決めました。ただ、現在でも面野医院とは密接な連携を取っていて、月に2回面野院長が診察に来られていますし、夜間の緊急時には協力しながら一緒に対応しています。
専門的なスタッフがチームで対応
クリニックの特徴を教えてください。
江戸川区を中心に、一部の江東区や浦安市、市川市などを訪問エリアとして、定期的な訪問診療や病状が急変した患者さんに対しての往診など、基本的な在宅医療を行っています。緊急時には24時間365日、当院へ相談できる体制を整えています。認知症の方、寝たきりの方、呼吸器疾患や循環器疾患、神経難病などを患う方といった多岐にわたる患者さんを担当させていただいていますが、がんの終末期医療にも対応していることは当院の特徴の一つです。緩和医療を専門としていますので、つらい症状が多いがんの終末期の患者さんに、ご自宅でなるべく長く、できれば最期まで過ごせるように治療やケアを行っています。在宅酸素療法や高カロリー輸液などさまざまな管理にも対応しています。また最近は、障害のある若い世代の患者さんも増えてきています。
スタッフさんはどんな方たちですか?
社会福祉士の資格を持ち、ケアマネジャー経験もある相談員や訪問看護の経験がある看護師など多くのスタッフが在籍しています。患者さんを取り巻く、介護スタッフの方々の気持ちも把握してくれるため、医療でのサポートがしやすい現場の環境をつくってくれます。また、他の在宅医療を行う医療機関では医師や看護師が自ら運転するケースも多いのですが、当院にはドライバーが常勤で在籍し、この地域に多い細い道も安全運転に努めながら対応してくれます。その分、われわれは自分の役割に専念できるんです。患者さんのために一生懸命取り組んでくれるスタッフばかりで、とても助けられています。2024年1月には、スタッフをよりこまやかに管理できるように日本看護協会緩和ケア認定看護師の資格を持つ看護師を副院長にしました。看護師が副院長のクリニックは珍しいかもしれませんね。
診療の際、何を心がけていますか。
限られた時間の中でも多くのコミュニケーションを取るように努めています。その際、なるべく患者さんご自身の声を聞いています。ご家族やホームヘルパーさんからのお話も重要ですが、患者さんが何を求めているのかを大切にしたいんです。何かアドバイスや提案をする時も決して押しつけるのではなく、納得していただいているか、本当に受け入れてもらっているか、患者さんの表情やしぐさなどもよく見ながらお話ししています。在宅医療は外来診療とは違って、患者さんの生活環境の中で行います。医師が特別な存在になるのではなく、普段の生活に溶け込むような、ほどほどの距離感で接したいと考えています。
在宅医療は地域の多職種連携も大切ですね。
ええ。在宅医療は医師だけではなく、多職種との連携が非常に重要です。それは当院のスタッフ間に限らず、地域でも同じです。地域の訪問看護師さん、ケアマネジャーさん、ホームヘルパーさんたちともミーティングやカンファレンスを行うなどして、常に連絡を取り合っています。医療の専門的な言葉を介護を担当してくれる方が理解しやすいように言い換えたり、介護についてこちらから聞いたり、あるいはお互いに質問し合ったりすることもしばしばです。介護職の役割や苦労を医療側が理解したり、医療側と介護側が患者さん、利用者さんのために同じ目線で協力することが在宅医療では非常に重要なんですね。
在宅医療に対する悩みや疑問も気軽に相談できる
なぜ医師をめざされたのですか?
私は母親が開業医でしたので、小さい頃からクリニックに遊びに行って、働く姿を見ていました。そんな環境の中で、自然と医師という職業って素晴らしいなと思うようになりました。私が育っていく過程の要所要所で、母からも医師になるよう勧められていたんですよ。
休日はどのようにお過ごしですか?
子どもと遊ぶことが多いですね。子どもは3人いて、まだ小さいので休みの日はなるべく一緒に過ごすようにしています。患者さんに何かあった時には、患者さんのご自宅へ伺わなければいけない可能性もあるため、遠くに行くのではなく、近くの公園に出かけたりスーパーに買い物に行ったりすることが多いです。そういうちょっとしたお出かけも、一緒にいられる時間として大事にしています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
ありがたいことに地域の病院などから紹介があり、患者さんの数も増えてきています。開業して4年目になりますが、これからも今までどおりに、地道に一人ひとりの患者さんと真摯に向き合い、質の高い在宅医療をめざして提供します。これまで対応エリアは、江戸川区の中でも比較的限られていましたので、今後はもう少しエリアを広げて、小岩などの北の地区まで訪問したいと考えています。在宅療養で生活が心配な方や、ご自宅で病気を患うご家族を介護されている方は、お一人で抱え込むことなく、ぜひご連絡を。当院には、地域の方の相談の電話を受けるスタッフもいますので、お気軽にお声を聞かせてください。