子どもの思いと真摯に向き合う
思春期早発症・思春期遅発症
なみファミリークリニック
(品川区/旗の台駅)
最終更新日:2023/06/19
- 保険診療
第二次性徴発来が正しく起こらない思春期の異常として、思春期早発症と思春期遅発症がある。原因は多様で特に男子は女子に比べて症状がわかりにくく、見過ごされてしまう恐れも。成長過程の多感な時期に周囲との性成熟や心理発達の差異に悩み、それを契機に不登校などの心理社会的問題を抱えてしまうこともある。特に思春期遅発症は、病因により将来的に不妊に関連してくる可能性もあり、専門家による注意深い経過観察と診断が必要となる。これらの疾患の遺伝子異常について20年以上、第一線で研究と診療を続けてきた「なみファミリークリニック」の佐藤直子院長は、親や学校が子どもの日々の成長や変化に気づくことも大切だと語る。丁寧で温かな雰囲気が魅力の佐藤院長に、疾患の基本的な知識、そして治療の心構えなどについて詳しく話を聞いた。
(取材日2023年5月9日/更新日2023年6月19日)
目次
年相応の性成熟が見られない思春期早発症・思春期遅発症。早めの診断で健やかな成長へつなげていく
- Q思春期早発症・思春期遅発症とはどのような病気ですか?
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A
各々の疾患に診断基準があり、思春期早発症では7歳半より前の乳房腫大、10歳半以前の初経開始など、第二次性徴が通常よりも早く始まります。思春期遅発症では女子では14歳以降に乳房発育が見られない、男子では15歳以降に精巣増大がないことで判断されます。他に成長過程で低身長を示すことがあります。特に思春期遅発症では、男女ともに病因によっては将来的に不妊症に関係してくることもあり、注意深い経過観察が必要になります。症状も多様で、診断基準に合致する場合もあれば、月経不順などありふれた症状で判断しにくい場合もあるため、親御さんや学校がお子さんの日々の成長にきちんと目を配っておくことが早期発見につながります。
- Q治療しないままだと、どのような影響が考えられますか?
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A
両疾患ともに必ずしも治療が必要ではないため、成長の速度、性成熟の進行の見極めが大切です。身長や性成熟の経過観察をするとともに、学校生活への考慮も重要です。例えば思春期早発症の患者さんで初潮が小学校低学年で来た場合、成長を考慮するだけでなく、お子さんが初潮を理解し、生理の処理などに適切に対応できるかどうかなどが、治療導入の判断に重要となります。周囲との成長のペースの違いから、不登校などの心理社会的な問題を生じる可能性もあり、お子さんの心と体の周囲とのギャップに対する戸惑いと不安を解消するために、親御さん、担任の先生、養護の先生と連携をとりながら、しっかりとフォローしていくことが大切です。
- Q受診のタイミングはいつがいいのでしょうか?
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A
思春期早発症、思春期遅発症の両疾患に共通して言えることは、診断基準を参考にし、年相応とはペースの異なる性成熟がみられた場合には思春期の相談を受けつけている医療機関を受診いただきたいと考えています。思春期早発症、思春期遅発症は、一般小児科医で相談されるケースが比較的多い疾患ですが、実は経過観察のみでいいのか、治療を必要とするものなのか、見極めが難しい疾患です。専門外で相談を受けられた際には、小児内分泌の医師にご紹介いただきたいと考えています。特に注意すべきは、思春期早発症の男子において脳腫瘍などが原因となっているケースですので、その際にはできるだけ早めに専門医療機関への受診をお勧めいたします。
- Q思春期発来異常について現在も研究を続けているそうですね。
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A
国立小児病院小児医療センター(現・国立成育医療研究センター)では、カルマン(Kallmann)症候群などの先天性疾患の遺伝子解析を行う研究室の立ち上げに携わりました。その後はアメリカのエモリー大学などを経て、現在も当院での診療と並行し、小児内分泌分野の一つである思春期発来異常に関わる先天性疾患の遺伝学・臨床と研究を続けています。特に研究開始当初は日本の先天性疾患の遺伝子研究の黎明期にあたり、20年以上前からこれらの研究を続けていることは、日々の診療において疾患の原因へ理論的にアプローチする上でも非常に役に立っています。研究の魅力を教えてくださった先生方には深く感謝しております。
- Q成長や発達の分野と向き合い続けて感じることを教えてください。
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A
患者さんとご家族との対話を大切にしています。思春期は子どもから大人への成長過程であり、自分で病気と向き合い治療継続する力を身につける大切な時期でもあります。初診時には親主導の治療でも「最善の治療をしたい」と親御さんを説得し、本人が主導で治療に取り組み、精神的に成熟していく姿を目の当たりにしたとき、この仕事をして良かったとうれしく思います。また、20年以上診療を継続する中で、進学・結婚・出産などについて相談に来る方にお会いしますと、患者さんと信頼関係を築けたことにやりがいを感じます。ご家族の協力ももちろん、患者さん本人が自覚的に治療に臨めるよう全力でサポートすることが私たちの役目だと考えます。