小堀 俊一 院長の独自取材記事
大森西メンタルクリニック
(大田区/梅屋敷駅)
最終更新日:2024/12/04

2001年の開院以来、地域の精神科クリニックとして人々の心の健康を支えてきた「大森西メンタルクリニック」。院長の小堀俊一先生は大田区の出身で、大森にキャンパスのある東邦大学医学部を卒業。2001年に東邦大学医療センター大森病院の向かいに現在のクリニックを構えた。精神科の医師として30年以上のキャリアを持つ小堀先生の専門は臨床精神医学と産業精神医学。同院においては、働き方改革が推進される以前より勤労者の心のケアを行ってきた。今回、小堀院長に医師をめざしたきっかけや、最近増えた高齢者からのニーズ、診療の際に心がけていることなどたっぷり話を聞いた。
(取材日2024年9月6日)
生まれ育った街に開院し、地域の人々の心のケアに尽力
まず、小堀先生はなぜ医師をめざすようになったのですか?

初めから「医師になりたい」というより「精神科の医師になりたい」という思いが強かったですね。というのも、私は読書が好きで、特に精神科の医師であり、作家としても活躍していた方々の書く小説を中学生の時から読んでいました。その影響で、まず精神科の医師という仕事に興味を持つようになったんですね。また、私は人と話をすることが好きで、会話の中で相手が何を感じているかをくみ取りながらコミュニケーションを交わすことに面白さを感じていました。そうした自分の性格も精神科の医師として生かせるのではないかと思ったのもあります。そして、生まれ育った、大好きなこの街にある、東邦大学医学部へ進学しました。
大学卒業後から開院までのご経歴をお聞かせください。
卒業後は、東邦大学の精神神経学講座へ入局しました。当時は社会復帰が難しいとされていた統合失調症について、患者さんが社会生活を送る上で指標となるものを生み出したいという思いで大学院へ進学し、研究に取り組みました。その後、“メンタルヘルス”という言葉が使われ始めた頃ですが、東京労災病院に赴任して勤労者の心の健康管理に力を入れていくようになり、一般病床で精神科の治療をするにあたって、当初はスタッフの理解や協力を得るのに苦労したことを覚えています。また、東京産業保健推進センターの立ち上げにも協力したりしながら、産業精神保健分野の移り変わりを見てきました。東京労災病院では副部長を経て部長を務め、勤労者医療というかたちで専門的に労働者の健康を診ており、特に長時間労働や業務上のストレス、対人関係のストレスなどを原因とした疾患に対して、開院後も引き続き治療を行っています。
この地域の特徴、患者層などについて教えてください。

大田区は新しいマンションが建設されて若い世帯が急増したこともあり、当院にも、いわゆる働く世代の人が多く来院されます。年代によって悩みは違っても、うつ病などの症状は年齢関係なく現れますので、20~60代と幅広い年代の患者さんに受診いただいています。うつ病の認知が広く進み、以前に比べて精神科の受診のハードルも下がったため、来院者数は増えています。「苦しい」と口に出せる人が増えたということは、治療の機会を得られる方も増えるということですから、ある意味ではいいことだと思いますね。最近は家族に促されるというより、自覚症状を持って来院される方がほとんどです。また、最近は、地域の70、80代の高齢の方が不安や抑うつなどでお困りになって受診されることが多くなっていますので、これまでより一層地元に密着した精神科医療のクリニックになれているのではないかと思います。
勤労者のハラスメント、高齢者の不安障害にも対応
診療はどのように行われますか?

以前は残業が月に100時間を超えるなど、かなり過酷な労働環境に置かれている患者さんが多くいました。この場合は症状のチェックに加え、労働時間数、残業時間数など業務上の負荷項目を確認し、過剰労働があると判断すれば、ご本人の了解を得てご家族から会社へフィードバックしていただくようにご説明するなど、治療・アドバイスを行いながら、過重労働が軽減できるようにアプローチします。しかし、最近は長時間労働は少なくなり、職場の人間関係などで悩まれる方が増えています。いわゆる“カスタマーハラスメント”や“パワーハラスメント”などです。いずれにしても、来院の目安としては、悩みが一晩中、頭の中をぐるぐると回るようことが1週間続くようでしたら、疾患の可能性があるので受診をお勧めいたします。
高齢者の診療はどのように行われるのでしょうか?
例えば、高齢の方の不安障害については、お話を伺うことに重点を置いて診療を進めます。ご家族と一緒に受診していただき、日常生活の確認をして、生活上のアドバイスを行ったりします。検査については、初診時にうつ病や不安障害の検査をしますが、診療を進める中で行う決まった検査はありません。薬については、症状があるからとすぐに薬を出すのではなく、症状を分析して日常生活との関連を吟味し、必要があれば処方するというスタンスです。診療の際に患者さんがマイナス思考に陥らないようにするのも大切です。
うつ病の患者さんのご家族へのアドバイスなどありましたらお聞かせください。

うつ病はエネルギーが低下している状態なので、あれこれやろうとすると余計にエネルギーを消耗してしまいます。ダムに水をためるように、エネルギーを消耗させないことが治療では大事になります。よく、気分転換に旅行しようとするご家族がいらっしゃいますが、それはかえって症状を悪化させることもあるので避けていただきたいですね。最初の10日間は一日中何もしないで、好きにゴロゴロ寝かせるようにお伝えしています。休養は早期回復の鍵です。また、ご飯を作らせないように指示しています。献立を考えることはすごく労力のいることなので、ご飯を調達されるようにお話しします。だいたいの場合、10日ほどたてばご本人も自分のしたいことがしたくなり、動きを見せるようになると思います。
医師と患者が話し合いながら治療を決め、改善をめざす
患者さんと接する際に心がけていることはありますか?

素直に患者さんの言葉に耳を傾けることです。誤診を防ぐためにも、お答えいただける範囲内でできるだけの情報収集を行います。また「この薬は即効性が期待できるけれど、太ることがある」、「この薬は太ることはないけれど、即効性は期待できない」などと、患者さんにお困りのないよう物事を明解にお伝えするように心がけています。患者さんから「はっきりと物を言ってくれる先生」という声をよくいただきますね。診療では、シェアードデシジョンメイキング(Shared Decision Making)を大切にしています。患者さんに治療方針をいくつか提示して、相談しながら患者さんに合った治療方法を決めていきます。そして改善が見られたら、その段階の症状に合わせて相談して次の方向を決定する、ということを繰り返していきます。
治療でめざすゴールはどのようなかたちになるのでしょうか?
基本的にはどんな症状でも、通院することで回復が期待できるようになります。ゴールは医師が決めるものではなく、患者さんの生活観によっても異なりますので、診療ではご意向を確認し、そのゴールに向けてどの段階でどういう治療をし、どのような状態が予想されるか、といった見込みをお話しします。それは、ゴールに向けて患者さんに少しずつ心の準備をしていただく意味もあります。そして、お薬の量もだんだんと減り、診療を終えても問題ないと判断すれば、患者さんに「治療を終了していいですか」とお尋ねします。そこで「はい」とご納得いただけたら、達成感を感じますね。治療を終えて、患者さんが元気になった様子を拝見することができればホッとしますし、私もとてもうれしい気持ちになります。
今後の展望、読者へのメッセージをお願いします。

これまでのように、お互いに顔の見える関係性を大事にしながら、今の診療をしっかり続けていきたいと思っていますので、お悩みがあれば抱え込まずにご相談ください。当院には長く一緒に働き、診療内容を熟知した看護師・臨床心理士がいますので、彼女たちにもお気軽にお声がけください。患者さんにとってご相談いただきやすい環境を整えております。お困り事がメンタルだけの問題でない場合は、適切な医師・医療機関を紹介しており、当院だけでなく地域全体でサポートする体制となっています。