若山 達郎 院長の独自取材記事
蒲田クリニック
(大田区/蒲田駅)
最終更新日:2025/02/20

「蒲田クリニック」は、東京都大田区にある訪問診療専門クリニック。1998年の開設以来、高齢や病気で通院が困難な患者の自宅や施設を訪問して診療・健康管理を行い、住み慣れた環境での療養生活をサポートしてきた。内科や外科、緩和ケア、精神科やリハビリテーション科など多岐にわたる専門分野の医師が在籍し、人工呼吸器の管理やがん末期の緩和ケア、認知症ケアなど幅広く対応。併設の訪問看護ステーションで訪問看護・訪問リハビリテーションも行っており、包括的な医療・看護・介護支援に取り組んでいる。「どのような医療・ケアが望ましいのかを、ご本人・ご家族と一緒に考え模索しながら、ご本人に寄り添う診療をお届けできるよう努めています」と語る若山達郎院長に、訪問診療で受けられる診療の内容や同院の特徴などについて話を聞いた。
(取材日2024年11月29日)
患者と家族の療養生活を支える訪問診療クリニック
まずは、クリニックの特徴を教えてください。

当院は1998年に開設された機能強化型在宅療養支援診療所です。訪問診療専門クリニックとして、高齢や病気のために通院困難な患者さんのご自宅や施設を定期的に訪問し、健康管理を行っています。当院の特徴は、総合内科や循環器内科、緩和ケア内科、神経内科、外科、脳神経外科、心臓血管外科、リハビリテーション科など、さまざまな分野を専門とする医師が在籍し、院内でコンサルテーションが可能な体制を整えていることです。また、看護師や理学療法士・作業療法士のリハビリテーションスタッフ、事務スタッフなども在籍し、多職種連携により質の高い医療の提供をめざしています。さらに、急な体調変化にも365日24時間対応していることも当院の強みであり、この体制を通じて地域医療に貢献していると自負しています。
どのような患者さんが多いのでしょうか?
ご高齢で認知症がベースにあって、さらに高血圧症や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病をお持ちの方が多いですね。また、心臓病を併発している、脳血管障害の後遺症があるといった理由で、日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作が難しくなった患者さんもおられます。同じ大田区内にある大学病院や大規模病院からの紹介患者さんが中心ですが、地域包括支援センターからのご依頼や、知り合いのケアマネジャーさんから直接相談されることもあります。
先生のご経歴と、訪問診療に携わるようになったきっかけを教えてください。

東京大学医学部を卒業後、外科系医局に入局。同大学医学部附属病院を経て、外科の医師として千葉県や東京都内の基幹病院などで研鑽を積みました。東京都立多摩北部医療センターと東京都立荏原病院で副院長を務めた後、以前から興味のあった訪問診療の分野で自分のスキルを生かしたいと思い、2016年に当院に入職し、現在に至ります。外科一筋のキャリアだった私にとって、訪問診療で幅広い分野を総合的に診察することは新鮮で、大きな挑戦でもありました。最初は慣れないことも多かったのですが、診療を続けるうちに、ようやく一人前の訪問診療の医師になれたかなと感じています。外科の知識を生かしながら内科診療にも取り組む訪問診療には、大きなやりがいと面白さを感じています。
訪問看護ステーションを併設、多職種チーム医療を実践
訪問診療ではどのような治療やケアに対応してもらえるのでしょうか?

当院では、がんなどの疼痛緩和で医療用麻薬の持続注入、在宅酸素療法、在宅人工呼吸器療法、在宅中心静脈栄養療法、経管栄養法、気管切開管理、カテーテル管理、点滴・注射管理、褥瘡、創傷処置、お看取りなどの対応が可能です。また、在宅で血液検査、尿検査、細菌検査、胸腹部エコー、心臓エコー、心電図検査はできますが、より精密な検査が必要な場合は、紹介元の病院と連携してCTやMRI、胸部エックス線など画像診断に対応しています。突然の発熱、痛み、呼吸苦、排尿障害、便秘、特にがん患者さんの場合には、痛みや呼吸困難の悪化など、緊急の往診を行い自宅での療養をサポートしていきます。
クリニックには訪問看護ステーションが併設されていますね。
はい。訪問看護ステーションを併設していることで、医師が訪問看護やリハビリが必要だと判断した際に、スムーズに対応できるのが大きなメリットです。例えば、訪問診療中に患者さんが床ずれを起こしていることに気づき、毎日の処置が必要だとわかった場合はすぐに訪問看護の介入を依頼することができます。当院の場合、クリニックと訪問看護ステーションが同じフロアにありますから、スタッフ間の情報共有やコミュニケーションがしやすく、連携がスムーズなのも強みです。毎日顔を合わせている信頼できるスタッフが迅速に対応してくれるのはとても心強く、頼りにしています。
ほかの医療機関や行政との連携はいかがですか?

患者さんの容体が悪化した際は紹介元の病院に連絡して精査・加療をお願いし、入院が必要な場合は入院の手配も行います。当院で診療している医師陣の所属施設とも連携しており、患者さんやご家族が安心して在宅療養できる体制を整えています。また、距離が離れているなど併設の訪問看護ステーションで対応が難しい場合は、ご自宅近くのステーションに依頼しますが、書類だけで済ませず細かい内容については直接電話で連絡を取り合うようにしています。また、地域連携の会にも参加し、医療従事者やケアマネジャーさんと「顔の見える関係」を築くよう努めています。
診療する上で心がけていることを教えてください。
介護するご家族の中には、心身ともに疲れがたまっている方もおられます。中には介護する人・される人がともに65歳以上の、いわゆる「老々介護」のご家庭もありますので、少しでも負担を軽くできるようデイサービスなどの介護サービスをご案内しています。あとは、なるべく住み慣れた地域で最期まで看取ることを考えながら診療しています。ただ、中にはご自宅ではなく入院を希望される場合もありますから、こちらの希望を押しつけるのでなく、ご本人・ご家族のご希望をその都度把握した上で対応しています。そのためにも、日頃からご本人・ご家族と積極的に会話して皆さんの思いを聞き取るよう心がけています。
本人・家族の意思を尊重し、寄り添う医療を届けたい
ご本人・ご家族の気持ちを尊重されているのですね。

そうですね。私たちはこちらの意思や都合を押しつける医療ではなく、ご本人やご家族と相談しながら、地道に進めていく医療をめざしています。また、厚生労働省では、将来自分が意思決定できなくなった際の医療やケアについて意思表示する「事前指示書」の作成を推奨しており、当院でも訪問診療初日に記入をお願いしています。ただ、その時点ではお元気な方が多く、ピンとこない場合や「死にまつわる話をするなんて」と不快に感じる方もおられます。それでも、自らの意思で最期の医療・ケアを選ぶことは、最期まで自分らしく生きるために大切なことです。事前指示書が自分の人生や最期について考えたり、ご家族と話し合ったりするきっかけになればと思っています。
ところで、お忙しいとは思いますが、どのようにリフレッシュされていますか?
私はあまり遊び心がなくて、趣味らしい趣味もないのですが、時間が取れたときは温泉に行きますね。長い休みは取れないので箱根など近場が多いのですが、時々家族と出かけてくつろいでいます。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

当院の医師・看護師をはじめ、理学療法士・作業療法士などのスタッフは、患者さんのために一生懸命対応してくれる、誇れる仲間ばかりです。患者さんは病院や地域包括支援センターからの紹介はもちろん、当院のホームページをご覧になり、直接お問い合わせいただく方もいらっしゃいます。通院が難しくなったとき、ご家族の通院介助の負担が大きくなったと感じたときは、ぜひご相談ください。当院では、どのような医療やケアが望ましいかを、ご本人・ご家族と一緒に考え、模索しながら、寄り添った対応を心がけています。これからも、通院が困難なご高齢の方々が住み慣れた地域で安心して療養できるよう、誠実で適切な医療をお届けしていきたいと思っています。