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松波 馨士 院長の独自取材記事

まつなみ医院

(米子市/富士見町駅)

最終更新日:2022/08/26

松波馨士院長 まつなみ医院 main

米子市に2022年7月、在宅医療や緩和ケアを専門とする「まつなみ医院」が開業した。院長の松波馨士(まつなみ・けいじ)先生は、鳥取大学医学部附属病院で長年、呼吸器内科をはじめとする内科の総合診療から、地域医療や在宅医療、救命救急、緩和ケアまで、幅広く研鑽を積んできた人物。特に、緩和ケアへの見識が深く、身体や心だけではなく多方面からの「患者の苦痛」の分析や、「苦痛の予防」の観点を重要視したアプローチを行う。同時に、在宅医療の担い手としての思いも強い。今や病院での診療レベルにまで向上しているという在宅医療に対して、「在宅医療は『自分に合った医療を受けるための手段』であり、前向きな選択肢であると知ってほしい」と話す。そんな松波先生に、医院のことや、緩和ケア、在宅医療についてなど、詳しく聞いた。

(取材日2022年7月25日)

がん治療から救急災害医療まで幅広い診療を経験

先生が医師になられた理由をお聞かせください。

松波馨士院長 まつなみ医院1

中学高校の時に、緩和ケアに関する本を読んだのがきっかけですね。それは後に映画化されるほど話題を集めた本で、その当時に自分の意思に関わらず病院で管をたくさんつけられて亡くなっていく「スパゲッティ症候群」と称される患者さんが多かったことや、延命医療を是とする社会への疑問を投げかける内容でした。その本を通じて、患者さんの苦痛を和らげるケアの方法があることを知って「自分も医師になってそんな診療がしたい」と考えたのです。

そこから呼吸器内科を専門に選ばれたのはどうしてですか?

緩和ケアに携わりたいとの思いから医療の道へ進んだわけですが、私の医学部生時代にはまだ緩和ケアに関する講座がなく、教えてくれる先生もいなかったんです。そうした中で、呼吸器内科を専門に選んだのは、患者さんが抱える苦痛が大きく、緩和ケアとの親和性の高さを感じたから。医師と患者さんとの距離が近い点も魅力でしたね。入局当時に先輩から「とにかくずっと患者さんに寄り添いなさい」という指導を受けたほどで、呼吸器内科での診療を通して「医師としてあるべき姿」を学んだように思います。

開業されるまでにはどんなご経験をされたのですか?

松波馨士院長 まつなみ医院2

鳥取大学を中心に、さまざまな経験を積ませていただきました。大学院では、苦痛の少ない肺がん治療の研究に携わらせていただいたのですが、実際にがん治療を経験したことで「つらくても1日でも長く生きたい」と願う患者さんの気持ちにふれ、お一人お一人の想いを尊重することの大切さを改めて知ることができました。救急災害科への赴任では、一分一秒を争う状況の患者さんに対して迅速かつ的確に判断するすべや、緊急時の処置や動き方を知ることができました。そして、鳥取大学の地域医療学講座や日野病院、開業前に勤務した在宅ケアクリニック米子では、地域医療や在宅医療の現場を知ることができました。病院の医療しか知らなかった自分にとって、「患者さんやご家族にとっては日々の生活や介護の問題のほうが深刻なんだ」と実感したり、「思いのほか『医師と話すのは苦手』と感じている人が多いんだ」と知ったりと、本当に気づきの連続でしたね。

米子医療センターでは緩和ケア内科の医長を務められたそうですね。

はい。当時は臨床に携わりつつ、全国の勉強会に出席して各地の先進的な緩和ケアを学び、それをセンターの患者さんへ還元していくという日々でした。以前にもがん治療などで緩和ケアに関わることはありましたが、専門的に学ぶにつれて感じたのは、緩和ケアのスキルは世の中に知られているようで、まだ本当に知っている人は少ないということ。「本当の意味で患者さんの苦痛を取り除くことをめざすにはどうすればいいのか」「終末期医療での最後の手立てだけではなく、治療の中でもっと『身近な選択肢』として提示できる体制にできないか」と考える中で、地域で実際に緩和ケアを広めて実践していく専門家が必要だと感じたのです。そこで、ここで得たスキルを実践していく場をつくるために、開業を決意した次第です。

専門性の高い緩和ケアを提供

次に、この度、開院された「まつなみ医院」のことを教えてください。

松波馨士院長 まつなみ医院3

当院は在宅医療に特化したクリニックです。在宅医療とは、医師や看護師が患者さんのご自宅へ定期的に訪問して診察や医療を行う診療形態のことです。「在宅医療」というと、終末期医療、いわゆる「看取り」のイメージがまだ強いかもしれませんが、今は病院から在宅に移行して、生きがいを持ちながら長く生活されている方もたくさんいらっしゃいます。実は「在宅でできないことはない」という言葉もあり、私は自宅や介護施設でも病院と同等の診療を行うことが可能だと考えているんですよ。

どんな場合に在宅医療を利用できますか?

対象となるのは通院が困難な方や認知症で外出が難しい方です。当院では、米子市や日吉津村にお住まいの方に対して在宅医療が提供できます。基本的にはご自宅または施設へ定期訪問を行い診療するほか、病状が急変した場合などにも24時間365日対応できるよう体制を整えています。診療内容としては、薬を処方したり必要に応じて点滴や注射を行ったりするのはもちろん、胃ろうチューブ、気管切開チューブ、尿バルーン、人工肛門など医療器具の交換や、床ずれの処置、呼吸管理まで広く行うことができます。血液や尿の検査、エコー検査、心電図検査の機器も常備していますし、私の専門である呼吸器内科をはじめ総合的な診療を提供することも可能です。現在当院には私のほかに看護師2人、事務2人が在籍していて、基本は3人体制で訪問させていただきます。

ご専門の緩和ケアについても詳しくお聞きしたいです。

松波馨士院長 まつなみ医院4

一般的には痛みなどの「身体的苦痛」、不安・不眠などの「精神的苦痛」を取ることが緩和ケアだと理解している人が多いですが、実はそれ以外にも、病気になって収入が減った、自宅に帰りたいのに帰してもらえないなどの「社会的苦痛」、その患者さんの信条や一番大事にしていることを妨害されたときに出る「スピリチュアルペイン」にも目を向ける必要があります。この4つの痛みにアプローチした緩和ケアこそが、本当の緩和ケアだと考えています。また、従来の緩和ケアでは「痛みが出たら医療用麻薬を出す」ということが行われてきましたが、専門家の立場からすると、それでは不十分です。痛みを予想してその「苦痛の予防」を行うことが肝心。当院ではそれを実践していきたいと考えています。この地域で緩和ケアの専門知識を持つ医師はまだ少ないので、将来的にスタッフや体制が整ったら、クリニックで緩和ケアの外来診療受け入れも始められたらと思っています。

患者や家族の想いにひたむきに寄り添う

先生の診療方針を教えてください。

松波馨士院長 まつなみ医院5

教科書的な治療ではなく、患者さんが大事にしていること、つまりスピリチュアリティーを尊重して診療を行うことです。その方のお気持ちをしっかりと把握したいので、初診ではお1人あたり1時間くらいかけてお話を伺うことも。中には医師には心を打ち明けずに看護師らスタッフに相談する方や、その逆もありますから、チームでバックアップすることを大切にしています。私は在宅医療で一番重要なのは患者さんやご家族を安心させることだと考えていて、当院にはその想いの強いスタッフが集まってくれました。もちろん、「やっぱり病院がいい」となったらすぐに切り替えることも可能ですから、まずはお気軽にご相談いただきたいですね。

大学病院やほかのクリニックとの連携も強いと伺いました。

長年在籍していた大学病院とは今も深いつながりがあります。先進的な医療の知識を得ることは重要ですから、今後もしっかりと連携を取っていきたいですね。また米子で同じように緩和ケアに取り組んでいる先生方と交流する機会も設けています。当院2階には広い会議室がありますから、新型コロナウイルスの流行が落ち着いたらそこでカンファレンスも開きたいと考えています。

最後に今後の展望をお願いします。

松波馨士院長 まつなみ医院6

今後は医師を含めスタッフの人数を増やし、よりたくさんの患者さんに対応できるようにしていきたいです。人によっては、病院よりも在宅で過ごしたほうが長く、自分らしい生活を送ることができる場合もあります。今までは在宅医療というと、亡くなるために家に戻るようなイメージを持つ人もいたかと思いますが、前向きに治療を続けて、いい人生を送っていただくために、ぜひ在宅医療を選択肢として考えていただきたいです。

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