山根 秀章 院長の独自取材記事
西東京わたらせクリニック
(西東京市/田無駅)
最終更新日:2026/05/28
西武新宿線田無駅から徒歩2分という好立地にあるのが「西東京わたらせクリニック」。大学卒業後、訪問診療や在宅医療の分野で研鑽を積んだ山根秀章院長が、在宅医療の受け皿の少ない地域のニーズに応えるため2022年に開業した。同院が大切にしているのが、患者の希望に添ったケアと医療の提供。訪問診療において日中のケアを重視している点が同院の特徴だ。医師や看護師、ヘルパーなどによるチーム医療で、患者と家族の不安と負担を軽減するよう日々邁進している。地域の開業医や病院とも連携を取り、患者の不調や急変にも備えている。そんな山根院長に、在宅医療で大切なことなどを中心に話を聞いた。
(取材日2026年3月25日)
島を回り往診する父の姿を見て、在宅医療の道へ
在宅医療に興味を持ち、クリニックを開設した経緯をお聞かせください。

医師だった父が若い頃、山口県でいくつかの島を回りながら患者さんの往診に行っていました。幼かった私は時々父についていき、父が島の人たちと親しく話をしながら診療する姿を見た記憶があります。その時の情景が自分の中に残っていて、医師をめざしました。父の診療する姿への敬慕から在宅医療という道を選んだのだと思います。大学卒業後は消化器内科に入局し、同時にアルバイトで老人ホームなどの施設で往診の仕事を始めました。しかし施設での診療は患者さんの人数をこなすやり方でした。老人ホームは患者さんの診療時間が短く、ご家族とも話せません。父が島で往診していたような、自分の思い描いていた医療とは異なると感じたため、そこを辞して前職の三鷹市の在宅クリニックに移りました。そこで7年間働くうちに、西東京市は在宅医療の受け皿が少なく、困っている人が多いと知り2022年にこの地に開業しました。
開業して4年、変化したことはありますか?
開業当初の目標は、終末期の鎮痛、鎮静や症状のコントロールをしっかりと行い、それによって患者さん本人やご家族の負担を減らしたいというものでした。現在、目標の8〜9割は達成できていると思います。従業員も増え、患者さんを安定的に診られる環境が整いました。医師は私の他に非常勤の医師が5人在籍していますが、今後は常勤の医師も採用の予定です。看護師はこれまで訪問看護ステーションを利用してきたのですが、今年に入って1人採用しました。看護師が入るとやれることが増えるので、現場がパワーアップしました。患者さんの疾患がさまざまであることには変化がなく、神経難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、頸髄損傷など大変な疾患をお持ちの方は多いですね。私は内科全般を診ますが、当院で診られない領域の診療が必要な際には、地域の開業医の先生方が往診に来てくださるので助かっています。
在宅医療の良い点と、やりがいを感じる点はどんなところですか?

患者さん一人ひとりに合わせた治療ができることですね。同じ疾患でも患者さんによって病状も違えば、本人の治療への取り組み方も異なります。患者さんのご自宅を訪問すると外来診療では見えないことがわかります。例えば、処方した薬を服用せずに放置されているのを発見したりするのです。そのような時は、患者さんの意見を聞いて気持ちをくみ取り、医師の立場からどうしても必要な薬だけを飲んでもらうようにお話しすることもあります。医師としてベストな治療ができなくても、患者さん一人ひとりの生活や性格に合わせた治療を組み立て、その時々に適切な医療を提供していくのが在宅医療の特徴です。また外来診療に比べて1人の患者さんに関わっているスタッフの人数が多く、看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなどさまざまな専門分野のメンバーで支え合っているところにも、在宅医療のやりがいを感じます。
夜間の安心には、日中のきちんとしたケアが大切
在宅医療の現場について教えてください。

大変な状態の患者さんに手を差し伸べることが地域医療に貢献することだと思っていますが、当院は患者さんの多くが中等度から重症者です。家族そろって暮らすことの少ない現在、老々介護が多いですね。当院では医療用SNSを使用して、離れて暮らすご家族に患者さんの状態をお知らせしています。在宅医療は24時間365日体制で受けつけているため、夜間の呼び出しが多いと思われがちですが、そうではありません。夜間安心して過ごしていただくために、日中に患者さんの状態の管理を徹底することに重きを置いています。日中の診療で入院が必要だと判断したら、日中のうちに入院できる病院を紹介します。ご家族にも連絡がつきやすく、仕事の後に入院先の病院に行くこともできるので、夜間よりも落ち着いて行動ができます。自宅で抗生剤の点滴治療などの対応も可能ですので、日中にきちんと対応することはご家族の安心にもつながります。
患者さんと接する時に心がけていることは何ですか?
在宅医療か入院か、施設に入るかなどのさまざまな選択の場面で、できるだけ患者さんの希望に添うかたちに持っていくことです。私の医師としての倫理観を押しつけず、患者さん本人やご家族がどうしたいのかを最大限に尊重しています。例えば在宅医療を受けていても歩けなくなったら施設に入所と患者さんが決めていれば、その希望に従うのが適切な判断なのです。結果として当院で診療ができなくなるとしても、その時まで患者さんをサポートするのが私たちの役割だと思います。ご自身で決められない場合には、患者さんのお話を伺いながら私なりの考えを提案させていただくこともあります。また近隣病院との連携は、当院が一方的に入院の受け入れを頼むのではなく「退院後は、在宅で当院が最後まで責任を持って診ます」と先の見通しを伝え、病院側が困ることのないようにしています。
チーム医療について教えてください。

チームの連携は良く、スタッフも仕事に慣れてきて、現場で医師に相談する必要の有無などを判断してくれます。先ほどお話しした医療用のSNSも利用しています。それぞれの立場のスタッフが連携を取っているため私が往診に行かなくて済むケースもあり、そのような時にチームの連携の良さを感じます。誰が担当しても一定の水準のサポートを患者さんに提供できるよう、マニュアルもしっかりと作成している他、毎朝10分間、職員の勉強会を行っています。非常勤の医師には、入職時から当面は現場で私が診察する姿を見てもらうほか、診療方針についての相談や確認を行う時間を朝と夕方に設けています。さらに、新しい治療に関する資料や文献なども回覧し、学べる環境を提供しています。
チーム医療で一人ひとりの不安を受け止める
在宅医療で大切にしていることは何ですか。

患者さんにどうやって良い医療を提供できるかを常に考えています。私たち医療者よりご家族のほうが患者さんと長い時間を過ごしますが、その時間をいかに負担とならないようにするのかが私たちの役割ですね。在宅医療は患者さんやご家族の不安を一手に引き受けるので、私たち医療者には負荷がかかります。しかし医師、看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなどでチームを組んでその不安を分担しているのです。在宅医療は患者さんの生活の場に入っていくため、医師1人ではどうにもなりません。院内であれば、看護師や診療アシスタントに支えられていますし、院外では地域の多職種のみなさんに支えられている部分は大きいですね。
休日の過ごし方についてお聞かせください。
24時間365日オンコール対応をしているため、遠くに行くことはありません。しかし週に3回ジムで筋力トレーニングに励んでいます。体を動かすと切り替えができ、頭がスッキリして良いですよ。トレーニングをすると、体の疲れと頭の疲れが合わさりよく眠れるのです。また、オンコールを受ける医師がいる日には、少しお酒を飲んだりもします。
今後の展望についてお聞かせください。

常勤の医師を雇用し、困っている患者さんを今以上に診ていきたいです。ただ診るのではなくその人の病状に合わせたケアの提供と、スタッフの誰でも同質のケアを提供できるための教育も守っていきたいですね。在宅医療が24時間365日オンコールになっているということは、患者さんが眠っている間も安心を保証する必要があります。呼ばれる呼ばれないにかかわらず思いをはせてもらえる医師に来ていただけたらと思っています。診療の度に「これで良かったのかな」と振り返り、次につなげていける医師が患者さんを見守っていけるのだと思います。患者さんの安心と信頼を得る働きを通して、これからもスタッフ一同で地域医療に貢献してきたいですね。

