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中澤 裕美子 院長の独自取材記事

おしゃべりキッズクリニック

(世田谷区/祖師ヶ谷大蔵駅)

最終更新日:2024/03/18

中澤裕美子院長 おしゃべりキッズクリニック main

さまざまな事情で傷つき、未来を見失ってしまう子どもたちがいる。国立成育医療研究センターで10年、難病の子どもを多く診てきた「おしゃべりキッズクリニック」の中澤裕美子院長は、病気のあるなしや生まれ育った環境にかかわらず、すべての子どもたちが幸せに生きられる社会を作ることを自分の使命として、痛みを抱える親子が再び未来の扉を開けるよう奔走する。小児科の一般診療と並行してさまざまな問題に苦しむ患者と家族の声に耳を傾け、必要に応じて適切な支援へとつなぐ利他の活動の源にあるのは、「すべての子どもが幸せになれるはずなのに、なぜなれないのか」という静かな怒りだ。「頑張らないで、肩の力を抜いて人を頼って」と、優しく温かく、そして強く親子を支える中澤院長に話を聞いた。

(取材日2023年8月18日)

いろんな子がいていい。誰もがみんな、そのままでいい

雲がモチーフのロゴマークが印象的です。

中澤裕美子院長 おしゃべりキッズクリニック1

私の娘が小学6年生の時に描いてくれたものです。絵を描くのが好きで「イラストレーターになりたい」と話していたので、デザインしてみないかと提案してみました。「イラストレーターはクライアントの思いを聞いて形にするんだよ」と話し、クリニックのコンセプトや私の気持ちを伝えたんです。それを彼女なりにかみ砕いて生まれたのが、4つの雲でした。4つの雲は友達を表しており、「いろんな子がいて、それぞれがそのままの自分でいいんだよ」という意味が込められています。

とてもすてきです。違いを否定せず受け入れるということですね。

はい。「おしゃべりキッズクリニック」の名前には、「しゃべりたい時に安心して自分の思いをおしゃべりできる」というコンセプトから、誰もが否定されずに安心して過ごせる社会を、という思いを込めました。おしゃべりが好きな人も苦手な人もいますから、ここに来たらおしゃべりしなくてはいけないということではありません。ただ、話したい時に否定せず聞いてくれる人がいて、同調圧力を気にせず話せる場があるということを伝えたかったのです。病気や予防接種、健診での受診はもちろん、育児がつらい時、発達が気になる時、友達関係や学校などで悩んだ時に思い出してもらえる存在になれたらうれしいです。おしゃべりをしただけで楽になったと帰られる方もいますし、専門的な精査、治療が必要と考えられれば別の医療機関を紹介したり、子育てをサポートする機関につなげたりするケースも。それぞれの親子にとって最も良い明日を、一緒に探していきたいですね。

先生は地域とも連携した子育て支援の活動もされていますね。

中澤裕美子院長 おしゃべりキッズクリニック2

社会福祉協議会や子育てひろば、保育園などとつながり、子育てに関わる講演会やイベントを週に1、2回、いろいろな所で定期的に行っています。病院以外の場所で親御さんとお話をすることで、受診するほどではないが気になる、という相談を受けたり、私自身も、親子を取り巻く環境で今どんな問題が起きているのかを学ぶことができる良い機会になっています。子どもに多い病気やホームケアなどの医学的なものから、夜泣き、発達といった子育てでぶつかりがちな悩みなど、ニーズに応じてさまざまな話をしています。

親子の傷つきを減らし、すべての子に幸せを

医療に加えて、包括的な子育て支援にも注力しようと思われた理由は何でしょうか。

中澤裕美子院長 おしゃべりキッズクリニック3

当院を開院する前は、国立成育医療研究センターに10年間勤務し、難病を患う子どもたちを多く診てきました。その後に6年間院長を務めた小児科クリニックでも、身体的疾患のみならず、社会的、精神的な困難を抱えるたくさんの子どもたちと出会ったことで、たとえ疾患を抱えていても子どもたちが幸せに生き、親が子育てを楽しめる世の中をつくりたいと思うようになったんです。同時に、感染症の治療や健診、予防接種などに対応するだけで良いのかと自問自答するようにもなりました。健康なはずの子どもたちが社会的な要因で傷つき、あるべき未来を失うのは許しがたいこと。家庭、保育園、幼稚園、学校、地域など、子どもを取り巻く多様な社会の問題にも対峙できるクリニックを造りたい、と思うようになりました。

悩みを人に打ち明けられず、親子だけで抱え込んでいるケースは多そうです。

不登校や、発達に不安があることなどは、第三者にはなかなか話しにくいもの。発達障害の場合、いわゆるグレーゾーンで受診のきっかけがつかめないこともあるでしょう。抑えが利かない子どもの行動を親戚にとがめられたり、知らない人に白い目で見られたりしながら、一人で悶々と悩んでいるお母さんも多いんです。しかし、適切なタイミングで医療や療育などのサポートを受けられないことで、発達特性そのものよりも、周囲の誤解により、さらに生きづらくなってしまう可能性があります。例えば、勉強についていけず自己評価が著しく低くなる、周囲の無理解による心ない言葉が問題行動につながる、家庭不和になってしまうなど、二次的な問題を引き起こし、不登校や引きこもり、うつなど、より深刻な課題を抱える場合も。そうした親子の傷つきを減らすために、早期に良いサポートとつながることが大切です。

スタッフさんには、先生の思いをどのように伝えていますか。

中澤裕美子院長 おしゃべりキッズクリニック4

当院にはベテランから若手まで多彩な経歴のスタッフがいますが、採用で一番大事にしているのは「この仕事が本当に好きかどうか」。同じ話でも、そこに思いがあるかどうかで相手への伝わり方は違うと思うからです。子どもへの愛情があれば自然と態度にも現れますよね。幸い、子どもと関わるこの仕事に心からやりがいを感じているスタッフに恵まれ、互いに話し合い、それぞれの個性を発揮しつつ、どうすれば子どもが一番喜び、安心してくれるのかを、各自で考えて対応してくれているので助かっています。また、待ち時間が長くならないよう、できるだけ2診体制にし、アレルギーが専門の医師と看護師、臨床心理士も加わり、より安心して受診できるような診療体制を整えています。

正しく導くことよりも、同じ目線で考えることが重要

先生が医師を志したきっかけを教えてください。

中澤裕美子院長 おしゃべりキッズクリニック5

私は本を読んだり、想像の翼を広げてものを考えることが好きな子どもでした。そのうち、物事の本質がどこにあるのかを考えるようになり、やがて人の生き死にと向き合って学びたいと思うようになったんです。ターミナルケアにも、命の誕生にも興味がありましたが、最終的には初期研修で多くの経験をさせてもらった小児科を選びました。いろいろな子どもの成長や変化が見られる小児科に感動とやりがいを覚え、自分に一番フィットすると感じました。

診療では、どんなことを大切にしていますか。

子どもには皆個性があり、お薬を飲ませるのが大変な子もいれば、いろいろなことに不安を感じやすい子もいます。加えて、ご家庭の事情もさまざまです。悩んでいる親御さんに一般的なアドバイスをするのは簡単ですが、実行するのは親御さんですから、親と子の生活を想像し、ご家庭の実情に沿った具体的な提案を心がけています。薬を飲む回数、錠剤、粉、シロップなど剤型の選択をはじめ、具体的な飲ませ方をお話したり、育児困難感が強い場合には継続的に相談のための外来を行ったり、お子さんの通院のハードルが高い場合は訪問看護師への依頼や子育て支援センターと連携するなどの対応も。ほかにも、感染症の子どもと、予防接種や健診の子どもで入り口を分けて導線を完全に別にしたり、時間予約と順番予約を併用して混雑を緩和したりと、安心して受診できる環境や仕組みづくりにも気を配っています。

最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

中澤裕美子院長 おしゃべりキッズクリニック6

「大人は子どもに正しいことを教えるべき」という考え方は、非常に根強いと感じます。私も3人の子育て中、最初の頃は周りの目や自責の念と戦っていました。でも、ふと、子どもとの関係で一番大事なのは、親が子どもを無条件で好きだと信じられること、子どもが親を安心して好きでいられることだと思うようになりました。子どもに何かしらの不足感を感じて苦しむこと、それこそが課題だと気づいたんです。難しい病気や障害があっても、子どもは素晴らしい輝きを見せてくれます。大事なのは、「普通」を物差しにせず、その子自身の個性を子どもの目線で見て、どれだけその素晴らしさに喜べるか。ただ、実際になんらかの理由で育てにくい、という現実はありますから、そういう時に周りと助け合うのが当たり前、という世の中であってほしい。そのために、今後も子どもと関わるさまざまな職種の方と連携しながら、親と子どもを守る活動を続けていきます。

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