藤井 英子 院長の独自取材記事
漢方心療内科 藤井医院
(京都市左京区/松ヶ崎駅)
最終更新日:2022/10/27

京都市営地下鉄烏丸線・松ヶ崎駅から歩いて12分のところにある「漢方心療内科 藤井医院」。今年90歳を迎えた院長の藤井英子先生が、あらゆる人が生き生きとして人生を歩む手助けになればと、2021年11月に同院をオープンした。精神疾患診療をメインに、漢方薬を用いた治療を得意としており、産婦人科の医師としての経験を生かして更年期障害治療に取り組んでいるほか、7人の子どもを育てた母として女性特有の心の悩みに対しても親身に相談に応じる。「患者さんの笑顔が私の原動力。お役に立てるまで患者さんに寄り添っていたい」と話す藤井院長に、クリニックを始めたきっかけや漢方治療のこと、診察に対する思いについて幅広く語ってもらった。
(取材日2022年4月7日)
自分の経験と知識を地域に還元していく
心療内科だけでなく、病理学や産婦人科と、幅広いご経験をお持ちですね。

幼い時に、父親から「これからの女性は医師か弁護士のような職業をめざしたほうがいいよ」といわれて、医学部に入りました。その後、大学院にも進み、そこでは病理学教室に所属していました。大学院を出た後は産婦人科の医師として勤務し、客員講師まで務めましたが、結婚を機にいったん仕事から離れました。子ども7人にも恵まれ、専業主婦時代は充実していました。ですが、やっぱり医師としての仕事を続けたいと思って、上の子たちが大学に進んだことをきっかけに復帰を決意したんです。これからは脳について勉強したいと思ったのですが、当時は脳神経科が一般的でなかったものですから、精神科を勧められ、1983年京都府立医科大学の精神医学教室に入局しました。その後は、医療法人三幸会の第二北山病院やうずまさクリニックで精神科の医師として長年勤めてきました。
こちらのクリニックでは漢方治療に注力しているとお聞きしました。漢方を始めたきっかけは?
漢方と出合ったのは30年ほど前です。四女が風邪をひいたので、風邪の症状に処方する漢方薬をあげてみたんですが、かえって状態が悪化してしまって。直ちに薬は止めましたが、結果的に肺炎を引き起こしていたことがわかりました。日本では、基本的に医師免許があれば漢方薬を処方できますが、本場中国では漢方を専門的に取り扱う中医師免許があるほど、漢方は奥深いものです。漢方の難しさを知って、勉強を始めなければと思ったことがきっかけです。漢方の処方は難しいですが、合えばしっくりくることも多いんです。私は現在90歳ですが、私の経験や知識で救われる人がおられるのなら死ぬまで医師として地域貢献していきたいと思って、今回クリニックをオープンしました。今までさまざまな治療を行ってきたけれどなかなか改善しなかったような方にも、「良くなりました」と笑顔で報告してもらいたいと願いながら毎日診療しています。
どのような患者さんがお越しでしょうか?

当クリニックは心療内科ですので、統合失調症やうつ病など、さまざまな理由で不安を抱えた人がお越しになられています。最近では、コロナ禍によって不安が大きくなり体調を崩される方も増えてきています。また、当クリニックが漢方を中心とした診療を行っていることから、更年期障害やPMSに関するご相談、基礎疾患で服薬している薬があるために精神科治療薬はできるだけマイルドなお薬を希望される患者さんなどもお越しになっています。また、そのように漢方治療を求めてお越しになる方の大半はインターネットなどで調べて来られます。遠くは滋賀などの他府県からもお越しになります。
未病を防ぎ、健康で生き生きとした人生を提供したい
診療の際、どのようなことに気をつけていますか?

やはり不安があってクリニックにお越しになられていますので、診察では時間をかけてじっくりとお話しするようにしています。患者さんの中には一人暮らしの人も多く、身近に相談できる人がいらっしゃらない場合もありますので、初診は特に長めにお時間を取り、お話の中から少しでも解決方法を見つけられないかと思っています。長年産婦人科で勤めてきた経験や7人の子どもの出産・子育て体験から、女性特有のお悩みも話しやすいと感じていただけると思います。クリニックはアットホームな雰囲気で、診察室では医師と患者さんだけの1対1でお話ししています。友人の部屋に来たような感覚で、お越しいただきたいですね。
漢方薬というと、「飲みにくい」「作用が出るまでに時間がかかる」といったイメージがあります。
漢方薬にも、今はいろいろな種類が出ています。粉薬だけでなく、飲みやすい錠剤タイプもありますし、こむら返りに対する芍薬甘草湯のように、シャープな働き方をするものもあります。漢方では、同じ病気でも、その人の体格や体質で異なった薬を使うこともよくあります。さらに、当院は特に漢方薬治療がメインというわけではなく、西洋薬も幅広く処方しています。「素早く結果が出るものがいい」「じっくりでも自分に合ったものを探したい」など、患者さんの状態やご希望に応じて処方するように心がけています。
診療では、生活習慣についてもお話しするそうですね?

患者さんに「健康寿命を延ばしていってほしい」というのが私の願いです。健康寿命を延ばしていくために必要なことは、病気を防ぐことはもちろん、病気の前段階となる「未病」をなくしていく必要があります。そのため、診察ではお薬を処方するだけでなく、おいしいと思うものを食べたり、よく寝たりといった生活習慣の改善からお話しするようにしています。生活面の改善が、「未病」を減らすことにつながると考えているのです。いつか当クリニックの必要性がなくなるほど、地域の皆さんが健康になればいいなと思っています。当クリニックのホームページではブログを書いており、栄養素についてや日常の運動方法についてなど、健康寿命を延ばすための情報を発信しています。ぜひ読んでいただきたいですね。
自分の体の声に耳を澄ませることが大事
ところで、先生の元気の秘訣は何でしょうか?

健康寿命を延ばすために、食事や運動は大事だとお伝えしましたが、そのほかに社会活動に参加することも必要だと思っています。私は昔からあらゆることに関心が広く、茶道、華道、ヨガ、四柱推命など興味があることに飛び込んで、行動しながら学んできました。いくつになっても脳は成長すると思っていますので、今でも漢方や脳科学についての勉強は欠かしていません。不思議なんですが、映画やテレビは30分ほど観ていると疲れてきてしまいますが、漢方や精神科のセミナーであれば3時間という長時間でもしっかり勉強できると思っています。学びたいという欲を強く持っているところが、元気の源かもしれません。90歳を迎えましたが、今でも勉強の途中だという気持ちで常にいます。
今後の展望について教えてください。
院内にカウンセリング専用ルームを作り、カウンセリングも実施していきたいと考えています。日本では、カウンセリングに対する認識がまだまだ薄く、必要性が軽んじられていますが、診療時間だけでは十分でない方も多いため、カウンセラーとの対話も利用してもらいながら、患者さん自身の方向性や悩みを解決できる環境を整えていきたいと思っています。特に、若い人の就職に関するお悩み、出産や育児を終えた後の再キャリア相談など、あらゆる世代の女性が生き生きと活躍していくための相談に応じていきたいと思っています。また、自分自身もますます仕事に磨きをかけ、先陣を切って女性たちの希望となれたらと思います。
最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

健やかな生活を送るには、体の不調を感じたらクリニックに来ることはもちろんですが、それ以上に、自分の体調に関して常に気を配って、日々の小さな変化を感じ取ることが重要だと思います。世間体など人のことを気にしたり、人にどう見られているか気にしたりする人は多いですが、それよりも自分自身のことを気にかけてあげてほしいのです。漢方医学のことばに「心身一如」とあるように、心と体はつながっています。心が健康でなければ体も健康になりません。どのようなお悩みも一緒に考えていきたいと思います。いつでもご相談にお越しください。