細田 亮 院長、菅原 安章 先生の独自取材記事
はもれびクリニック
(鎌ケ谷市/初富駅)
最終更新日:2024/11/20

新京成線・初富駅徒歩5分の場所に、在宅医療を専門に行う「はもれびクリニック」の事務所がある。前身は、同じく在宅診療を行う「くぬぎ山ファミリークリニック」。2021年11月の移転を機に医院名もリニューアルし、法人グループ内の各施設とも連携してサービスの充実に努めている。今回話を聞いたのは、優しく丁寧な語り口ながらも、話しているだけで元気がもらえそうな細田亮(ほそだ・とおる)院長と、院長の右腕としてクリニックの運営を支え、法人内で連携する介護老人保健施設の施設長としても活躍する菅原安章(すがはら・やすあき)先生。患者自身へのケアのみならず患者の家族、さらに地域全体へと視野を広げるクリニックの理念や取り組みについて、詳しく話を聞いた。
(取材日2024年7月8日)
患者と家族との信頼関係が安心を生む
事務所をリニューアルされて以降の取り組みについてお聞かせください。

【細田院長】おかげさまで訪問するご家庭も増え、スタッフの数も増えたこともあって現在の場所に移転し、イベントのできる広いフリースペースと事務所スペースの両方を確保した「はもれびクリニック」ができあがりました。同じ法人グループ内には介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅もあり、必要に応じて連携して患者さんの紹介も行っています。特に近年は、それら施設間で医療者と介護員が相互の仕事をより理解し合うことを意識して取り組んでいます。
【菅原先生】また、当院が所属する法人と市や医師会で協力して開催しているイベントの中で、無料の公開講座も行っています。そうした場に足を運んでいただくところから、在宅医療について知ってもらう機会になるといいですね。
在宅医療を専門としたクリニックですが、患者さんのご自宅に訪問する上で気を使う点も多いのでは?
【細田院長】ご自宅では、患者さんやご家族の素の部分が見られるとともに、理解するためのチャンスがたくさん詰まっていて、人となりがよくわかります。例えば、初回の訪問では看護師が血圧などのバイタルをチェックしている間に、ご家族とお話しさせていただくのですが、話をしながら、遠慮していないか、ご家族の関係性はどうなのか、本音を出していただいているのか、そういったことも見ています。医療スタッフの前では気を使って、本音は違うのに大丈夫とおっしゃる方は少なくありません。私たちはできるだけ、身近な関係性をつくろうと日々工夫しているので、困っていること、不安に思っていること、できる限り話してほしいですね。ご家族の愚痴なんかも大歓迎です。患者さんやご家族に「こんなによく話せるお医者さんも看護師さんもなかなかいないよ」と思っていただけるとうれしいです。安心して医療を受けていただくためにも、信頼関係は大切です。
どんな患者さんが多いのですか?

【細田院長】ご高齢の方をご自宅で介護・看護される場合にお手伝いすることが多いですね。ほかにも当院では、自宅療養されているがん患者さんや難病の患者さんも積極的に受け入れています。間口が広く、さまざまな在宅医療に対応可能ですが、私たちのクリニックの方針は、患者さんの「疾患」を診るというより、患者さん「その人」を丁寧に診させていただくこと。そして患者さんご本人はもちろん、そのご家族へのケアも考え、さらにその先には地域全体のことも考えられるように、と発展的に視野を広げていくことを心がけています。
より良い人生の幕引きのために
どのような症状や段階で在宅医療を依頼すればいいのか、迷われている方も多いと思います。

【細田院長】がんの診断を受けた方や骨折で歩けなくなった方など、在宅医療を利用されている方の状況は多様ですが、まずは介護そのものについてまだ具体的にわからないというところから、相談に来ていただいて大丈夫です。患者さんのご家族で、どこに相談したらいいかわからない方や、介護を続けて限界が来るまで月日が流れてしまった方など、さまざまな状況の方がおられると思います。親身にお話を伺ってご提案させていただきますので、ぜひお越しいただければうれしいですね。
【菅原先生】もともと、細田院長は血液内科、私は消化器内科を専門としていますが、内科では不定愁訴と呼ばれる、はっきり原因がわからない体調不良のご相談をいただくことも多いものです。私たちはそうした症状を診ることにも慣れていますので、相談の窓口になりやすいと思います。
在宅医療では患者さんの看取りに関わることも多いと思います。
【細田院長】人生の最期の時を迎えるにあたりご本人もご家族も、できるだけ悔いなく残された時間を過ごす、やり残すことが極力ないように、そういうマネジメントができたらいいと思っています。最期だからこそ我慢してほしくない、思ったことは伝えて、会いたい人には会ってほしい。「思い残すことなく」というのは正直難しいかもしれませんが、ご家族にとっても全力で看護をやりきった、十分尽くしたと思えるようサポートしたいと考えています。私自身は大切なご家族のお看取りに関わらせていただけることに深く感謝しています。
菅原先生のお考えもお聞かせください。

【菅原先生】一生懸命生きてきた中で、つらい時も輝ける時もあったと思います。今は認知症を患っていたり問題のほうが多いのかもしれません。でもネガティブな部分だけ見るのではなく、長い人生の中の輝きの部分も意識して、実りある人生で良かったねと、そんな最期を迎えられるようにしたいですね。現在は看取り自体の考え方も変わってきています。以前なら高齢の方で回復が見込めなくても入院して、気管挿管をはじめあらゆる手を尽くすことが良いとされていました。しかし今は考え方も多様化し、患者さんご自身やご家族の意思も尊重され、「その人らしい最期」に対する世の中のコンセンサスも得られてきているように思います。もっとその議論が成熟していくといいですよね。長く終末期医療に携わっていると、理論的に説明できないこともありますが、そんな部分も大切にしながら、丁寧に患者さんやご家族と向き合っていきたいと思います。
3世代での介護・看取りを提唱
細田院長は病院勤務から在宅診療に入られたそうですね。

【細田院長】私は病院で血液内科の医師をしていました。ある意味で残念なことに血液内科の疾患の多くは完治するものではなく、再発を警戒する必要があったりして一生にわたるお付き合いをすることが多いんです。それだけ患者さんと医師の関わりも深い。そんな診療スタイルの延長が今の在宅診療なので、私自身は違和感がないというか、疾患や臓器だけを診るのではなく、患者さん自身を丸ごと診たい、心の不安も相談してほしいという人間なので、今のほうが私なりの理想の医療に近い感じがしています。まさに天職ですね。医師という職業も自分に向いていると思っていましたが、在宅医療はもっとしっくりきています。
クリニックの特徴の一つとして宗教師の存在があります。
【細田院長】臨床の場における宗教師によるケアはまだまだ未開拓の分野でもあるので、当院でも試行錯誤しているところです。患者さんが生きていく上でどうしようもないところにアプローチしてもらっているので、今後ももっと質を高めていきたいと考えています。例えば、認知症は進んでいないが足腰が弱くなってしまったので施設に入ったけれど、入居者は重度の認知症の方が多くコミュニケーションが取れない、今すぐ生命の危機にひんしているわけではなく意識ははっきりしているが難病のせいで声を発したり動くことができない、そんな患者さん方は日々葛藤を抱えておられることが多いものです。そのような時に宗教師が丁寧に伴走することが必要だと思います。
今後の展望をお聞かせください。

【細田院長】現在の日本は超高齢社会にあって、在宅医療の需要が増えていますが、その分さまざまなノウハウが蓄積されています。今後、日本に続き超高齢社会を迎える国々がたくさん出てくると思います。そんな時、日本の在宅医療のマインドが役に立つはずです。当院の「正しさ以上に優しさを」というキャッチコピーにあるように、感謝の思いや尊敬の念を持って介護や医療に取り組む姿勢を海外の人にも伝えていきたいですね。またもっと介護や看取りの現場に若い人が関わってほしいとも思います。祖父母世代を親世代とともに孫世代が看取る、その経験が孫世代が親世代を看取る時の貴重な経験になるでしょう。そんな経験のリレーがあると、もっとゆとりをもって取り組むことができると思うのです。