千村 浩 院長の独自取材記事
代官山やまびこクリニック
(渋谷区/代官山駅)
最終更新日:2026/05/22
代官山駅から徒歩8分、八幡通り沿いの脇道にある建物の3階で診療する「代官山やまびこクリニック」は、児童・思春期精神科、心療内科、精神科、女性漢方内科を標榜している。渋谷駅・恵比寿駅からも徒歩圏内の同院では、自閉スペクトラム症、ADHD(注意欠如・多動症)など発達障害の診断と治療・ケアを行い、5歳頃から成人まで幅広い年代に対応する。公認心理師による心理検査やカウンセリングを実施し、心理検査と合わせて多角的な評価に基づいた診療を提供する。その他にも、子育てに疲れた母親や思春期女性らの心と体の悩みに専門知識を持つ医師が寄り添う女性漢方内科の外来を設けるなど、さまざまなサポートに注力する千村院長にその思いを聞いた。
(取材日2025年8月26日)
発達障害の患者と家族と向き合う児童・思春期精神科
まずはクリニックの特徴を教えてください。

当院は児童・思春期精神科、心療内科、精神科、女性漢方内科のクリニックです。主に自閉スペクトラム症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害やADHD、学習障害といった発達障害の診断と治療・ケアを行っており、発達障害の診断や、読み書き障害の評価、学校や職場の適応に関する課題の理解に役立つ検査が充実している点が強みです。発達障害の診療は15歳ぐらいまでを対象としているクリニックも多いようですが、当院では5歳頃から成人まで、幅広く診療しています。また、ご本人だけでなくご家族へのケアにも力を入れている点も当院の特徴です。
どのような相談が多いのでしょうか?
発達障害にはさまざまな種類があり、複数が重複することもあります。それぞれの困り事は異なりますが、共通していると感じるのは、家庭・学校・職場などでの生活や周囲との人間関係で悩みやつらさを抱えているということ。発達障害の原因は親のしつけや教育の問題、本人の努力不足ではなく、生来の脳機能の障害だと考えられています。当院では、ご本人やご家族の困り事をお聞きして、うまくいかない原因がどこにあるのか、どうすれば良いのかをご本人、ご家族と一緒に考えながら、もつれてしまった糸を少しずつほぐしていく、そのようなイメージで治療を進めています。
特性に気づいたら、早めに受診したほうが良いのでしょうか?

もつれた糸がほどけなくなる前に受診してケアを始めたほうが良いでしょう。発達の特性が理解されずご本人に強いストレスがかかると、例えば、学校の先生や親、上司などから叱責されることで自信をなくし、意欲低下やうつ、不安障害、引きこもりといった精神的な症状や、頭痛や腹痛などの身体症状が出ることも。また小学校高学年から中学生頃からの不登校は、その子の発達障害の傾向に友達や親、先生との関係性、容姿・能力への劣等感、進学・就職の悩みなども加わることが多く、過食嘔吐・リストカット・過量服薬などの自傷行為、暴力、引きこもり、自死など深刻な「二次障害」が起こる可能性もあります。早めに一人ひとりに合った支援を受けること、そして保護者の方がお子さんを信頼し、保護者自身の人生を後回しにしないこともとても重要です。お子さんと程よい距離感を保ち見守れるよう、保護者のケアとサポートも大切にしています。
感覚評価の方法も充実。女性漢方内科の外来も開設
患者さんの特性を理解するための取り組みにも力を入れていらっしゃいますね。

公認心理師による心理検査やカウンセリングも行い、さまざまな視点でご本人とご家族をサポートする体制を整えています。これまで見逃されがちだった感覚の過敏さや鈍感さと発達障害のさまざまな症状や困り事との関わりを評価する感覚プロファイルであるSP、AASPや、ADHDに関連する問題を評価するConners3、読み書きの能力を評価するSTRAW-Rなどを新たに導入し、多角的に評価を行っています。これらを受けていただくことでご自身やご家族が特性を理解しやすくなり、生活の工夫や周囲の配慮につながる点も大きな意義だと思います。
具体的にはどのような治療をされていますか?
ご本人やご家族のお話を伺った上で生活環境の調整や、必要に応じてお薬の服用をご提案しています。薬物療法ではADHDに対する精神刺激薬のほか、不安や不眠などの精神的な症状に対して向精神薬を処方することもあります。また毎月2回、子育てに追われて自分を後回しにし疲れ切っているお母さんや、心身の悩みを持つ思春期や大人の女性のための女性漢方内科の診療を行っているのも当院の特徴です。心と体の両面に寄り添う診療で少しでも安心をご提供できたらと考えて開設しました。漢方薬を利用することで、生活や気持ちの状態に合わせて柔軟に調整できるのが強みで、必要に応じて他の支援と組み合わせながら診療を行っています。
精神科訪問看護との連携にも力を入れているとか。

精神科訪問看護とは、精神疾患のある方や心のケアを必要とする方のご自宅に、看護師や精神科ソーシャルワーカーなどが訪問して生活のサポートを提供するサービスです。当院は精神科領域に特化した訪問看護ステーションと連携し、診察だけでは十分に対応できない方に精神科訪問看護の利用をご提案。定期的なレポートと緊密な連携とで普段の診察ではわからない日常生活の様子を把握し、診療内容を日常生活に反映しやすくすることで、診療に役立てています。
先生はクリニックの診療以外の支援にも力を入れているそうですね。
はい。子どもの成長サポート、母親の学び・癒やしやつながりの場として、クリニック隣にやまびこ村を開き、ペアレントトレーニング、福祉サービス利用相談、音楽と即興演劇、アクセサリー作り、子育てに関する勉強会、マインドフルネス講座などを開催しています。その他、学校など教育機関、児童相談所や保健所などの行政機関、子どもと大人が「バディ」となって関係性を築く活動とも連携しています。また発達障害がある方の就職の悩みには就労移行支援事業所など各社会資源とも連携するなど、大人のサポートにも力を入れています。
「やまびこ」のような双方向のやりとりを大切に
先生は開業前、行政官として働かれていたそうですね。

大学卒業後、現在の厚生労働省に入省し保健医療福祉行政に携わってきました。医学部在学中から精神科領域に興味を持っていて、行政官としても精神保健福祉法の制定や精神障害者保健福祉手帳制度の創設などを担当してきました。その中で、身近に不登校や虐待など子どもたちを取り巻く社会問題にふれる機会が増え、子どもたちの心の問題を診る医療に携わりたいと思うようになりました。行政官を退いて改めて学びを再開し、精神科の専門病院やクリニック勤務を経て当院を開業しました。行政官として国や県、国際機関に勤務した多様な経験から、患者さんやご家族に幅広い視野から人生の伴走者としてさまざまなアドバイスができればと思っています。
クリニック名の「やまびこ」の由来を教えてください。
医師が一方的に治療方針を決めるのではなく、患者さんやご家族とやまびこのように双方向でやりとりする診療をめざしたいという思いを込めました。例えば、薬の服用に抵抗がある方には他の方法をご提案するなど、ご本人やご家族の声に耳を傾け、皆さんの意思を尊重した診療を心がけています。また、双方向のやりとりを成立させるには、患者さんがご自分の特性を理解し、困っていることを言語化して伝えられることも大切です。そのためにも、ご本人が自分の課題を解決しようという意欲を持てるよう働きかけています。
最後に、読者へのメッセージをお聞かせください。

発達障害と診断されることに将来の不安を感じる人も多いのではないかと思います。発達障害があるからそれ以上の成長が望めないわけではなく、適切な治療やケア、周囲の理解やサポートがあれば、すべての人が自分の力を伸ばせます。親御さんは周囲からお子さんを否定されて、自信が揺らいでしまうこともあるかもしれません。しかしすべての人が必ず幸せになれること、その力がご自身にもお子さんにも備わっていることを信じていただきたいですし、信じる力を取り戻せるよう、私も全力を尽くします。地域のサポーターや保健所・児童相談所などの行政機関、学校などと連携し、医療の枠を超えた多様な活動を通じて、発達障害がある方とそのご家族の幸せに貢献していきたいと思っています。

