木原 祥子 理事長の独自取材記事
en婦人科クリニック
(福岡市中央区/六本松駅)
最終更新日:2024/11/28

再開発が進む六本松エリアで2019年11月に開院した「en婦人科クリニック」。クリニック名には木原祥子理事長の専門である内分泌学の「endocrinology」 と、人と人とのつながりの「縁」、みんな「円く」いきますようにという思いと願いが込められている。これまで産婦人科全般の診療を行い、手術も多数執刀してきた理事長。これらの研鑽を生かし、体外受精も含む不妊治療を軸に、自身も陸上競技の経験があることから女性アスリートの無月経や骨粗しょう症など、健康を前提にした競技人生を送るための専門的な診療にも対応する。結婚や初産年齢は上がり続け、平均の初産年齢が30歳を超える今、妊娠が期待しやすい時期を逃してしまうケースも少なくない。2児の母でもある理事長に、診療内容などについて詳しく聞いた。
(取材日2023年1月10日/情報更新日2024年11月11日)
経験豊富な技術、専門知識、女性医師であることが強み
勤務医時代は手術なども多数経験されたそうですね。

婦人科の魅力は、初診から診断、治療までの一連の流れをすべて担当できること。勤務医時代には子宮筋腫や卵巣嚢腫の手術で多数執刀し、不妊治療を行い、妊娠後は分娩まで診ることもできました。当時西日本で多数の分娩を取り扱う病院にも勤務したことがあり、多くの知識と経験を得ることができました。それを今、存分に生かすことができていると実感しています。そして何より、患者さんに「また来てね」と声をかけられるのは、産婦人科だけにある大きな魅力だと考えています。
この場所を選んだ理由、院内のこだわりをお聞かせください。
再開発されているエリアで、住みやすく利便性が高い点が決め手でした。大学の進学先を建築学科とも悩んだほど建築にも興味があり、院内の設計については、不動産の物件情報を拡大コピーしたものに手描きで間取りを考えて、それを建築士の方に図面にしてもらいました。受付カウンターを立面・平面の3方向で手描きして家具屋さんに作ってもらったり、自分で選んだ建築資材・家具・照明をもとに業者の方と何度も打ち合わせたりと、クリニックづくりはとても楽しかったです。また当院は不妊治療の方が多く、2人目不妊の方もおられますので、他の患者さんと動線が交わらず、その場で受付と会計ができるキッズスペースを設けています。
スタッフが女性メインな点も、安心して受診できるポイントですね。

卵子や胚を扱う培養士には男性スタッフが1人おり、胚や卵子・精子に関する説明などは男性が行うこともありますが、その他のスタッフは全員女性です。診療を行う上で私が一番大切だと考えていることは、受診しやすく、話がしやすく、説明がわかりやすく、診断が確かで、適切な技術を持って治療ができること。その中でも女性スタッフが多い安心感は重要な要素だと思います。自身が不妊治療経験を持つスタッフもいて、親身でわかりやすく説明してくれ、私自身も彼女たちの存在をとても心強く感じています。
不妊治療は夫婦の治療。早めの来院を心がけてほしい
こちらでは不妊治療を中心に診療を行っているそうですね。

不妊治療は、経過によってはステップアップが必要になっていく場合もあります。当院では、不妊症のスクリーニング検査から、一般不妊治療、人工授精、体外受精まで行っています。不妊はどうしても女性の治療と考えられがちで、そういう認識の旦那さんも多いのですが、不妊の原因が男性にある、女性にある、両方にあるケースは、おおまかに3分の1ずつ考えられます。大事なのは「不妊は夫婦二人ともの問題である」としっかり認識すること。男性不妊についても、精巣から手術で精子を採取しなければならないほどの所見でなければ、当院での治療で対応することができます。
不妊治療は、年齢を重ねるほど治療が難しくなるとも聞きました。
月経周期が合っていれば妊娠できると思っている方も少なくありません。しかし、卵子は生まれた後に新しく作ることはできません。年齢を重ねるにつれて卵子も老化していくんです。そのため、概ね30代半ばから妊娠率は右肩下がりに低下し、流産率は年齢とともに上昇します。この、卵子は老化するものであるという知識を持つ人が多くないことも大きな課題だと感じていて、中高生のうちに男女とも勉強して認識しておく必要があるのでは、と危機感を抱くことも多いです。
ブライダルチェックを受ける方も多いとか。

最近は、結婚が決まってからブライダルチェックを受ける方が増えてきました。そして、「ブライダルチェックで異常なし」だから「妊娠できる」と思っている方もおられます。しかし、ブライダルチェックは「妊娠できるかどうか」を調べるものではありません。異常があるよりもないほうが良いですが、不妊についてはそれで安心できるわけではないことを心にとめてもらいたいと思います。また不妊治療のために病院に行くまで、「自分で1~2年は頑張ってみよう」という方がおられますが、年齢が高い場合は特に、その1~2年はもったいないです。不妊の検査だけでも最低1周期、つまり1ヵ月ほどかかりますが、日程が合わなければ数ヵ月かかり、そこからやっと治療の道筋を考えることになります。不妊治療は時間との戦いとも言えますから、まずは妊娠するためのスタートラインに立つという目的で婦人科を訪れる、その行動が大事だと思います。
治療がうまく進まない場合もあると思います。
通常、1周期で1個しか排卵されません。年齢とともに「良い卵子」はどんどん減っていくため、一回の治療ではうまくいかないことが多いのが不妊治療です。うまくいかない場合はステップアップが必要になることもあります。なんとか患者さんに前向きになってほしいと思いますし、私たちもできるだけプラスに捉えられるように工夫もしています。思い詰めているよりも、たまにリラックスできる期間を設けているとふいに自然に妊娠するという、不思議なこともこれまで経験してきました。ゆったりした気持ちやリフレッシュできる時間を持ちつつ、繰り返しになりますが、できるだけ早いうちに検査や相談に行くことが大切です。
陸上競技の経験から女性アスリートのための診療に注力
女性アスリートを対象にした診療を行っているのも、こちらのクリニックの大きな特徴ですね。

私が学生時代に陸上競技をしていた経験があることから、女性アスリートと無月経、骨粗しょう症に関する問題は、ずいぶん前からどうにかしなくてはと思っていました。本当は無月経になってから受診されるのではなくて、保護者や指導者が正しい知識を持ち、練習メニューや栄養の管理をして、選手が深刻な状態にならないように取り組んでほしいというのが一番の願いです。今現在も、持久系や審美系などの種目をやっている方で、すでに受診が必要な方はたくさんいるはずなんです。当院もアスリートの診療を行っていることをお知らせする看板を掲げていますが、最も必要な10代~20代前半で受診される方は残念ながらあまりおられません。情報社会ではあるものの、それだけまだこの問題に関する正しい情報が周知されていないのだと実感しています。
海外と日本ではその関心に大きな差があるようですね。
海外では指導者が女子選手の月経周期まで把握し、ピルなどのホルモン剤を使用した体調管理を行うのは当たり前のこと。極端なエネルギー不足の状態が続くと、生存のためには生殖機能を削ぎ落とさなければならず、卵巣の機能が停止し、エネルギー不足と合わさって骨粗しょう症を引き起こす可能性も考えられます。そうして骨折を繰り返して選手生命を絶たれる方もいますし、極端な低体重が競技上望ましいという誤った認識から摂食障害や不妊症になってしまうケースもあります。「スポーツをやっていて無月経や月経不順があるけど、誰に相談したらいいかわからない」という方はぜひ、人生におけるQOLを維持し、長くスポーツと付き合っていくための最初の相談窓口として、当院を活用してほしいと切実に思います。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

不妊治療は「妊娠すること」がゴールではありません。大人になるまで責任を持って育てることが本当のゴールです。患者さんにはまず自分自身が元気で長生きすることを一番に考えてほしいですね。婦人科は受診のハードルが高いと思われがちですが、当院は患者さんに来て良かったと思っていただけるクリニックづくりに取り組んでいます。年齢が高い方、年齢関係なく半年以上妊娠できなかった場合は、検査で不妊の原因が見つかることもありますので、早めに受診することをお勧めします。
自由診療費用の目安
自由診療とは■体外受精
【採卵】初回 / 10万円
※体外受精は、患者さんによって追加でかかる費用が異なります。
採卵だけでなく、顕微授精、培養料、凍結保管料など、症例によって異なりますが、別途、下記の費用が追加となります。
【顕微授精】5万円〜
【培養料】12万円〜
【胚移植】5万円
【凍結保管料(胚凍結される場合)】4万円
■ブライダルチェック 3万円〜4万円(検査項目による)
料金については、クリニックのホームページにも記載しておりますので、そちらもご確認ください。