鷲尾 隆太 院長の独自取材記事
わしおこども医院
(神戸市中央区/みなとじま駅)
最終更新日:2025/04/04

三宮からポートライナーに乗って海を越え、みなとじま駅から橋を渡ると見えてくる「わしおこども医院」。ここは、神戸市沖のポートアイランドにある小児科クリニックだ。やわらかな笑顔が印象的な鷲尾隆太院長は、5年前にクリニックを開業。小児科の診療とともに、病児保育施設の開設や子ども専用の訪問診療などにも精力的に取り組んできた。その心の内には、子どもたちやその親、家族への並々ならぬ思いがあるのだという。「お子さんのことで不安があればいつでもご相談ください。そして子育てを目いっぱい楽しんでいただけたら」と語る院長に、自身の診療モットーを聞いた。
(取材日2025年2月27日)
できることは何でもする。子も親も支える小児医療を
まずはクリニックのコンセプトを教えていただけますか?

当院では「子どもたちのためにできることは何でもしよう」という気持ちを大事にしており、スタッフたちにもそのことを常に呼びかけてきました。例えば、クリニックへの電話は携帯電話に転送するようにしていて、休日であっても親御さんからの電話が24時間つながるようにしています。また、親御さんからお悩みを聞かせていただく際、一緒にお子さんの状態や写真を見ながらお話しできるようアプリも導入しました。こうしたことを通して、誰もが子育てのしやすい環境をつくりたいと考えているんです。また、このポートアイランドで暮らす子どもたちのために、地域を盛り上げたいという思いもありました。
診療の際に大切にされていることは何でしょうか?
一貫してお子さん目線、ご家族目線でありたいということですね。例えば、「鼻水が出る」「夜泣きが大変」といった状況は、受診をするかどうか迷われるかもしれません。ですが、その子の親御さんは、どんなに些細なことでも真剣に悩んでおられますし、そのお気持ちを真摯に受け止めたいと考えているんです。ですから、「こんなことで受診してもいいのかな」と考えず、不安なことがあればいつでもご相談いただきたいですね。また、当院は小児科ではありますが、そのご家族のケアも大切にしています。例えば、お子さんのことで日々不安を抱えていると、お母さんもお父さんも子育てを楽しめないですよね。もし、そうした不安を取り除くことができれば、毎日がもっと楽しくなるんじゃないかと思うんです。親御さんやご家族と一緒に、お子さんの成長を見守るクリニック。それが僕たちの理想です。
医療の提供だけでなく、子育て支援にも視野を広げているのですね。

ええ。小児科の疾患は、ワクチンの普及などにより少しずつ減ってきているのが実情です。でも、だからといって小児科の医師があぐらをかいていてはいけないと思うんです。育児にまつわる困り事は、なにも病気のことだけではありませんし、成長や発達の不安と向き合うこともこれからの小児医療の大きな役割と考えています。それに、お子さんが成長する速さというのは一人ひとり違いますが、「笑えるようになった」「イヤイヤができるようになった」など、一歩ずつ着実に成長発達しています。たとえ、ちょっとしたことであっても、一つ一つの変化を親御さんとともに感じたい。お子さんの成長をご家族に喜んでいただくこと、それこそが僕たちの喜びであり、やりがいなんです。そうした思いから、当院では月に2回ほどクリニックの開放日を設け、お子さんの成長にまつわるご不安に広く応じてきました。
開放日にはどのようなことをされているのですか?
例えば「体重が増えているか心配」「離乳食が進まない」「少し多動かもしれない」など主訴以外のことは、診察中だと相談しにくいですよね。「受診するほどではないのだけど」と、一人で抱えていらっしゃるお母さんも少なくないはずです。開放日には、こうした病名のつかない悩み事にお答えできたら、と考えています。例えばお子さんの体重を心配される方がいれば、体重測定をして順調に増えているかをお伝えしますし、離乳食の初めの一口目をあげるのが不安という方がいれば、当院で一緒に食べさせることもできますよ。発達のご相談にもじっくり時間をかけて応じますし、母乳の量に悩まれる方には母乳測定もしています。その他、クリスマス会など季節ごとのイベントも開催してきました。同じ月齢のお子さんのいるお母さん方が、お悩みを共有できる交流の場になったらいいな、と。開放日は予約不要ですので、気軽にふらっといらしてください。
訪問診療や病児保育に対応し、親子の暮らしに安心を
受診しやすい雰囲気づくりのために、工夫されていることはありますか?

院内で四季を感じて楽しんでもらえるよう、季節を取り入れた壁絵を看護師が作ってくれています。他にも、お子さんや親御さんたちにとって思い出となるような出来事を大切にしてきました。例えば、お子さんの誕生日にお祝いとしてメダルをお渡しするほか、初めて予防接種を受ける日には記念の写真をプレゼントしています。皆さんと一緒に喜びを分かち合うことができたらうれしいですね。もちろん受診をすれば、注射などお子さんが嫌がることもあります。でも、「来てみたら意外と楽しい所だな」と感じてもらえるよう工夫してきました。
子ども専門の訪問診療もされているとか。その経緯を教えてください。
僕は前職で、疾患のあるお子さんや、ご自宅で過ごすお子さんのための施設で働いていました。その施設で訪問診療を始めることになり、ずっとご自宅で過ごされている子どもたちのこと、医療的ケアが必要な子どもたちのことを知ったのです。その時、初めてお子さんを対象とした訪問診療の必要性を感じ、同院でも導入することにしました。外来の場ですと、その子の一部の側面しか見ることができず、わからないこともあると思うんです。「診察室では泣いているけれど家ではそんな笑顔を見せるんだ」といったこともそうですね。それに、お子さんだけでなくご家族もサポートするためには、やはり訪問診療が必要と考えました。
病児保育も立ち上げられたそうですね。

はい。これも子育て支援の一環です。今は共働き世帯が増えているので、働くお母さんやお父さんの力になりたいと考えました。たとえお子さんが風邪をひいていても、熱を出していても、どうしても仕事を休めない日だってありますよね。そんなとき、お子さんを安心して預けられる場所が必要なのではないか、と。特にここは島ですから、島の中で暮らしていらっしゃる方も利用しやすいよう、当院から徒歩5分の場所に病児保育所を立ち上げました。それが「病児保育ぽっかぽか」です。
親子のかけがえのない日々を、大切にしてほしい
今後の展望も聞かせてください。

当院や「病児保育ぽっかぽか」は「医療法人さんと会」の施設なのですが、この法人で一貫して子育て支援をしていきたいと考えています。病気のときには、クリニックや病児保育所がある。医療的ケア児のお子さんには訪問診療や訪問看護もあるといった形ですね。お母さんやご家族が抱える子育てにまつわる不安を、この法人内ですべてカバーできたらいいな、というのが僕の夢です。皆さんに「ここに任せれば大丈夫だ」と思ってもらえたらうれしいですね。
昨年から新しい取り組みも始められたとか。
はい。医療的ケアの必要なお子さんがご自宅で安心して生活するためには、訪問診療や訪問看護が必要ですが、そのご家族やきょうだい児へのケアも大切なのではないか、と。そこで昨年から始めたのが、医療的ケア児やそのご家族を対象にした夏祭りです。どうしてもバギーだとお祭りのような所には行きづらいものですよね。感染も心配という声もありますが、同じような環境の子どもたちで集まるのなら不安も軽くなるはずですし、ごきょうだいも楽しめるのではないかと考えたのです。去年は、三宮の小学校だった場所の一室をお借りして行いましたが、今年もぜひ開催したいと考えています。
最後に、地域の子どもたちやご家族へメッセージをください。

子育てをされていると悩みは尽きませんし、時には不安に襲われる日もあると思います。でも、お子さんの成長を実感したとき、笑顔を見たとき、気持ちが通じ合えたときに、大きな喜びを感じることができる。それこそが子育ての醍醐味なのではと思うんです。お子さんと一緒に過ごすかけがえのない日々を、そして今しか味わえない幸せをぜひ皆さんに堪能していただきたいな、と考えています。そのためのサポートを担うのが僕たちの役目です。少しでも気になられていることがあれば、何でもご相談ください。どうかお一人で抱えず、気軽に受診していただけたらと思います。