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富永 智一 院長の独自取材記事

小金井ファミリークリニック

(小金井市/武蔵小金井駅)

最終更新日:2023/06/16

富永智一院長 小金井ファミリークリニック main

武蔵小金井駅南口から徒歩約5分の「小金井ファミリークリニック」は、富永智一院長が2019年に開院した家庭医療のクリニック。患者の一生に寄り添う診療をモットーに、赤ちゃんから高齢者までと幅広い患者に対し、科を問わない総合診療の医療を提供している。病気はもちろん、それに関わる多様な問題の解消をめざすのが特徴だ。白を基調とした明るい院内は、バリアフリー仕様。小児用待合室やベビーベッドも備えられ、歩行に困難を抱える人や子連れでの受診も容易だ。忙しい診療の合間に、まだあまり知られていない家庭医療や地域への思いを富永院長に聞いた。

(取材日2023年3月29日)

患者の生活に寄り添い、問題解決の糸口を探る医療

貴院の特徴を教えてください。

富永智一院長 小金井ファミリークリニック1

ここで40年近く診療されていた先生が閉院される際にお声がけいただき、地域の方からも通院先に困るようになったとの声が聞かれたことから、2019年4月に受け継ぐ形で開院したクリニックです。専門である「家庭医療」を実践する拠点として、地域に根差し、生まれてからお亡くなりになるまで、ともに歩む医療を提供しています。カナダでの臨床実習中に先生からよく聞いた表現ですが、家庭医療に携わる医師は例えるなら「プリースト(司祭)」。長く住んで地域のことをよく知り、人々の困り事や悩みを聞いて、体調の悪い人には必要な薬を調合して提供する昔の司祭のように、患者さんの生活そのものに関わって導いていく存在をめざしています。

一般的な医師とは何が異なるのですか。

家庭医療を行う医師を表す能力として「ACCCC」があります。近隣性(Access to Care)、継続性(Continuity of Care)、包括性(Comprehensive Care)、調整(Coordination of Care)、状況・背景に応じたケア(Contextual Care)の頭文字を取ったもので、家庭医療の医師は物理的・心理的な距離を取ることなく継続的に患者に接し、包括的な診療を行います。これには、患者の背景や取り巻く家庭環境、地域の状況を含めて俯瞰的な視点で考え、地域の医療リソースを活用しながらより良い道を探ることも含まれます。長く地域に根差していると、どんな医師でも患者さんの方からちょっとした相談を受けることがあります。家族の介護や相続のこと、どんどん幅広くなるご相談を受け止め、地域の行政や医療・介護従事者らと協働しながら解決へと導くのが家庭医療の医師です。

具体的にはどのように診療されますか。

富永智一院長 小金井ファミリークリニック2

家庭医は「疾患」だけではなく「家族全体」を診ます。例えば「膝が痛い」と来院された方では、膝の状態を診て病名をつけ、必要な治療を提供するのが通常でしょう。家庭医療ではそれに加え、現実には何に困っているのか、何を求めて来院されたのかをまず伺います。例えば、「エレベーターのない団地の4階に認知症のお母さんと住んでいて、毎日デイサービスの送迎にお母さんを抱えて階段を昇降するのがつらい」という事情があり、「年だからある程度は仕方ないけれど痛みがつらい」のなら、痛み止めを出しても根本的な解決にはなりません。引越しや他の介護サービスの利用を含めて考える必要があるのです。経済的に引越しが難しければ、それも織り込んだ上で「ではどうする」を相談していきます。疾患があっても地域で長く幸せに生きていくにはどうすればいいかを一緒に考えていくのです。

疾患があっても幸せな地域での暮らしをサポート

家族との関わりや生活背景も診療に反映させるのですね。

富永智一院長 小金井ファミリークリニック3

家族単位で診るという視点は家庭医療には欠かせません。例えば、「認知症のお母さんが夜に徘徊して、度々警察に保護されている。息子夫婦の奥さんは喘息気味で、旦那さんはタバコが止められない。3歳の子どもがいて、その子は予防接種が遅れている」という家族の問題は、単一の疾患名で表すことは不可能です。家族を一つのユニットとして見て、その問題をどう解消するかというのが家庭医療における考え方です。同じ疾患や症状でも、家族の状況や環境が違えば、患者さんの抱える問題は違ってきます。ただ疾患に対処するのではなく、何が心配で、実際に何に困っているのかをしっかり聞き出して、問題の所在を把握した上で、対応していくのが家庭医療に携わる医師の役割なのです。

地域に根差すメリットは?

地域に根差しているからこそ、地域に点在する大学病院や専門クリニックといった医療機関や、訪問看護ステーション、ホームヘルパーなどの医療・介護リソースを熟知しており、必要に応じてつなぐことが可能です。医療・介護の分野では専門用語や複雑な保険体制など一般の患者さんにはすぐに理解が難しい点も多くあり、言語通訳的な役割を果たしながらハブとして機能する機会も増えています。また、医師会の理事として活動する中で行政との関わりも増え、社会問題へのマクロなアプローチも可能となってきています。この地域は、一戸建てに3世代で暮らしている方が多いことが特徴で、まずはそういった家族の問題を見ることが重要。高齢化や認知症の方の増加など地域で取り組むべき問題もあります。こうした問題に対しても、多角的な視点で解決策を探っていきたいと考えています。

訪問診療も実践されているとか。

富永智一院長 小金井ファミリークリニック4

患者さんの一生に寄り添う診療は当院が最も大事にしているところなので、もちろん訪問診療も行っており、緊急時は24時間対応しています。長くホスピスで勤務してきた大井裕子先生も迎え、在宅での緩和ケアも行っています。訪問診療は、「疾患の治癒」をめざす病棟での治療と違い、たとえ疾患があっても、いかに幸せに自宅で過ごせるかをサポートするためのものと考えており、その中には当然看取りも入ってきます。100歳の方の心臓が止まる時、それを「心不全」という病気だと考えて入院させるのか、老衰と考えて自宅で看取るのかは、本来、ご本人やご家族の思いによって決めるべきもの。データで判断するのではなく、これまでの経緯やご家族の歴史、思いをできる限りくみ取った上で、「本人にとって良いこと」を判断できることが、特に大切だと思っています。

患者と長く付き合っていけるクリニックをめざす

家庭医療で大切なものは何でしょうか?

富永智一院長 小金井ファミリークリニック5

ヒューマニティーですね。先輩がよく「博識であれ」と言うのですが、患者さんの困っていることは得てして医学的なことではなく、何も知らなければジャッジもアドバイスもできません。例えば、糖尿病で検査数値が悪く、炭水化物を控えて禁煙するのが理想としても、「お正月はお餅食べちゃうよね」とか「みんながタバコ吸ってると吸いたくなるよね」ということがわからないと、アドバイスなんて絶対できません。そうして共感できる物事を増やすには、まずは経験すること。だから、研修医には「医学書を読む暇があったら遊びに行け」とよく言っています(笑)。また、話しやすい雰囲気をつくるスキル、お話を引き出すスキルも大切です。この能力をどう育むかは結構難しくて、指導する側の課題の一つです。

家庭医療に興味を持つようになったきっかけは?

大学5年生の時に家庭医療専門の医師に出会ったことが最初のきっかけで、その後イギリスとカナダで学びました。帰国後は北区にある診療所で家庭医療に関する専門トレーニングを受けましたが、そこで実際に2組の患者さんをご自宅で診療したことが自分の運命を決定づけました。1組目は脳に疾患のある旦那さんを介護しているご家庭で、往診に行くと奥さんが笑顔で迎えてくれてとても幸せそうで、そこで初めてたとえ疾患があっても「健康」で幸せな人はいるのだと知りました。もう1組は、家族2人ともがんにかかり、ベッドで死期を待っているというご家庭で、その場で何もできない自分にとてもショックを受けました。こうした体験を通じて、自分にできる限りのことをしたいという気持ちが芽生えたことが、現在のような熱い思いにあふれた医師になれたきっかけだと思っています。

今後の抱負と読者へのメッセージをお願いします。

富永智一院長 小金井ファミリークリニック6

病気だけでなくそれに伴う不安を診ることの重要性を実感しています。診療室内で患者さんとご家族の心のイルネスをどう解消するのか、相談員のような役割も果たしながら、医学以外の分野でも信用と信頼を獲得したいと考えています。加えて、診療が終わった後こそ大切と考え、より良い社会づくりにも取り組んでいきたいです。何でも相談できる、何でも相談したいと思える医師、患者さんが長くかかりたいと思ってくれるクリニックであるよう、今後も力を尽くしていきます。

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