力武 義之 院長、力武 崇之 副院長の独自取材記事
四谷川添産婦人科
(新宿区/四谷三丁目駅)
最終更新日:2024/01/05
1935年に慶應義塾大学医学部初代産婦人科教授を勤めた川添正道先生が創立した「四谷川添産婦人科」。開院以来、80年以上にわたり地域の女性のかかりつけ医として妊娠、出産、思春期、更年期、閉経後までを見守り続けてきた。3代目の力武義之院長、4代目となる力武崇之副院長、そして助産師をはじめとするスタッフ全員がチームで患者に寄り添い、一人ひとりを手厚くサポートしている。脈々と受け継がれてきた安心、安全を重視したお産の技術、女性の気持ちに寄り添う産婦人科医療を追求し続けている同院について、義之院長と崇之副院長に話を聞いた。
(取材日2022年6月10日)
~初経、妊娠、出産、閉経~先を見据えた婦人科医療を
長い歴史のある産婦人科医院と伺っています。
【義之院長】1935年に初代院長の川添正道が定年退職して新宿内藤町に開院した医院です。川添正道は台湾で助産学を広め、ドイツ留学から帰国し慶応大学で日本の産婦人科医療において重要な役割を担った人物でした。私は縁あって1989年から先代の川添兼久を手伝うようになり、2009年に院長に就任しました。川添産婦人科は伝統的にお産に注力しており、お産への思いと分娩技術を絶やすことなく継承しています。お産を扱う施設はこの30年で激減してしまい、今では山手線の内側でお産を扱う希少な医院として、安心で安全なお産環境を提供することに努めています。
医院の特徴を教えてください。
【崇之副院長】長く続く地域の産婦人科なので、患者さんとのお付き合いが長いのが特徴です。例えば、当院で出産されたお母さんが、初経を迎えた娘さんの相談とともにご自身の更年期相談で来院されたり、その娘さんが妊娠され出産に来られる。祖母、母、子、孫と、家族の歴史の一場面に入り込んで診療を行うというのが、大学病院や急性期病院などと違うところ。お産は極めて基本に忠実に自然分娩をお手伝いしますが、当院の歴史に育まれた妊婦さんへの思いがあふれる寄り添い型の産院だと思います。月経不順や悪性疾患、更年期、高齢女性医学までトータルで診ていますので、出産だけでなく、一家の婦人科かかりつけ医としてご利用いただければと思っています。
幅広い年代の女性の悩みに寄り添っていらっしゃるのですね。
【義之院長】妊娠できるという男性と違う性を持って生まれた体を大切にしてほしいと思います。毎月の出血が本当の月経なのかどうか、ご自身をよく知ることが大切と話をします。多くの女性が月経があると言われますが、最近排卵が起きない若い人が増えており、また低用量ピルを処方される機会が多くなり、正常な月経がわからない人も増えています。いざ子どもが欲しいとなった時に排卵しない、子宮が育っていないということになりかねないので、きちんとした診断と説明をすることが大切と考えています。
【崇之副院長】更年期の方も不正出血や出血量が増え受診されます。その中に悪性疾患が紛れ込んでくることがあるので、しっかりと病気を除外した上で、安心して更年期を迎えられるようにすることも、私たちの仕事と考えています。
多様な状況の患者さんがおられるのですね。
【義之院長】入院施設があるので、流産の患者さんや、望まぬ妊娠で相談に来られる人工妊娠中絶の方も多いです。育てられない状況で出産してしまうと、家庭でも社会でも、母子は追い込まれてしまう。それが現実です。女性本人を含め周囲の事情も伺った上で、母体保護法に基づいて行う中絶医療は、女性の人生を守るためにも必要です。当院には代々引き継いできた確立した分娩技術があります。次に本当に妊娠したいときに妊娠できるように、精神面もケアしつつ、安全重視の医療を提供しています。
安心してお産に臨める環境づくりを
お産に関する特徴を教えてください。
【義之院長】最近、親と子の愛着という問題が提示されるようになりました。母の子への愛着、子が抱く母の安心感の形成はとても大切です。自然で安全な自然分娩を通じて、子どもへのいとおしさを強く持ってもらえるよう、スタッフと心がけています。
【崇之副院長】妊婦さんが安全に、安心してお産に臨んでもらえる環境の提供をめざしています。妊娠初期から妊婦さんとスタッフ間の信頼関係をしっかりとつくり、些細なことでも相談できる環境を整えています。その信頼関係は出産時の安心感の土壌となります。リラックスした中での陣痛は最大の力を発揮してくれるので、分娩時間は短く、子宮収縮も良く、出血量も少ないので、お母さんたちの産後の負担も軽減します。産後はお母さんの回復を第一に考え、個室環境でおいしい食事で元気になってもらいます。お父さんもパパ指導に参加してもらい、安心してお家に戻れる育児体制を支援しています。
お産には「安心」が大切なのですね。
【崇之副院長】そこがとても大事なんです。お産が怖いという不安の正体は、未知のイベントへの恐怖と孤独の不安です。あたかも痛いから怖いと思われていますが、不安がぬぐえなければ、どんな医療介入を行っても、やはり痛くて恐ろしいんです。自然分娩は痛い。でも、その痛みと不安が大きいからこそ、私たち医師、助産師がいます。家族がいます。しっかりと夫も寄り添い、信頼できるスタッフに囲まれてお産を迎えることは、どんな医療介入よりも大事なことと考えています。当院では助産師、看護師が妊婦さんにがっちりと寄り添い、医師もそれをしっかり見守り正常なお産に導きます。基本に忠実なベーシックな自然分娩ですが、その良さというものが必ずあります。当院で出産されるお母さんたちのアンケートを読むと、とてもその大切さが伝わってきます。これから出産されるお母さんにも、ぜひ自然分娩の良さを実感してもらえたらうれしいです。
東京の特色として里帰り出産される方も多いのでは?
【義之院長】確かに多いです。里帰り出産をしても、出産後に東京に戻ってくると親も家族もそばにいない、夫も何もできないとなってしまい、育児に悩まれる方も多いです。当院で出産された方には、産後のケアにも注力しています。
【崇之副院長】子育ての最大の味方は「お父さん」です。なので立ち合い出産をとても重要と考えています。そして「夫からパパへ」というキャッチフレーズのもと、お父さんに実際の赤ちゃんで沐浴指導し、おむつ交換、ミルクのあげ方、つくり方まで直接指導しています。また、退院後もいつでも相談でき、生後2ヵ月まで赤ちゃんを預かったり、必要があれば産褥入院も行い、お母さんが笑顔で育児できるようサポートしています。
女性の健康を見守る「かかりつけ医」として地域に貢献
先生が産婦人科を志されたきっかけを教えてください。
【義之院長】医学部の産婦人科の臨床実習で、スイス人の女性を担当しました。出産のときの彼女の幸福感と安堵に満ちた美しさに感動した体験が印象的でした。私は子どもの頃から山登りをしていたので、医師免許取得後、ヒマラヤの山岳登山隊として働いていましたが、現地の戦争のため断念して日本に帰ってきました。当時は第2次ベビーブームでしたから、産婦人科を希望する医師が多く、華やかな診療科でしたので、スイス人の女性の出産を思い出して産婦人科医になりました。
崇之先生は早稲田大学卒業後に医学部に進学されているのですね。
【崇之副院長】最初は医師になりたくなかったんですよ。もともと読書と山登りが好きな高校生でした。夏目漱石やヨーロッパの思想家の本を読む中で哲学を勉強したいと思い、まずは早稲田大学の政治経済学部に入学して政治哲学と公共政策を学びました。勉強していくうちに生命倫理やジェンダーギャップの中での女性の自己決定権というところに触れ、その橋渡しをする産婦人科医師もいいなと思いこの道に進みました。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
【義之院長】ストレスというのは、排卵や子どもを作る能力を落とします。女性は自身の排卵や月経による体調変化についてよくよく観察しておく必要があります。四谷地域の女性の健康を担う当院は、皆さんが月経や妊娠、出産、婦人科疾患、更年期、閉経後の老年期の生活を元気に過ごしていただけるよう、丁寧な説明と診察、治療を行っていきたいですね。
【崇之副院長】女性は長く月経と付き合い、閉経後もホルモンの影響があり大変です。長い女性人生を歩いてゆく上で、伴走者となるかかりつけ医をぜひ見つけてほしいと思います。妊娠、出産においては、生まれてくる赤ちゃんを家族みんなで迎えてあげられるような、愛情に満ちたオープンな産院にしてゆきたいです。