矢野 順久 院長、矢野 公実子 さんの独自取材記事
やのデンタルオフィス
(渋谷区/北参道駅)
最終更新日:2025/04/28

35年以上の経験を積む矢野順久(やの・よりひさ)院長と、異業種から38歳で歯科衛生士をめざした矢野公実子さんが、夫婦2人で患者のさまざまな口腔の悩みに対応する「やのデンタルクリニック」。船橋市で24年間歯科医院を営み、2018年に新たに北参道で移転開業した。「あまりアピールが得意ではないんです」と謙遜する2人だが、患者の健康をとことん考え、歯科以外の分野の勉強も欠かさない努力家だ。何より、順久院長と公実子さんの信頼関係が深い。互いに尊敬し合い、常に相談しながら患者を診ている様子が話す様子からも感じられる。幅広く診療を行う同院について、2人にじっくり話を聞いた。
(取材日2025年4月9日)
介護経験を生かしたユニバーサルデザインの院内
北参道で開業した経緯をお教えください。

【順久院長】ここで開業したきっかけは母の介護です。もともと千葉県船橋市で開業し、24年間診療してきました。実家で同居している母の具合が悪くなってからは千葉と東京を行き来することに。そこで思い切って一度閉院し、あらためて住まいの近くで開業しようと妻と相談して決めました。2017年に船橋の歯科医院を閉院し、1年間介護に専念した後、2018年に当院を開業。渋谷区は父が歯科医院を開業していた地でもあります。ここ北参道は交通の便も良く、私が勉強している整体の道場も近くにあるので、開業の場所としては理想的でした。運がいいことにたまたまこの場所の空きが出て、こちらで開業するご縁をいただきました。
【公実子さん】船橋では長年通ってくださる患者さんもたくさんいらしたので、閉院を決めるのは簡単ではありませんでしたが、最後は患者さんたちに背中を押していただいたと思います。
院内の設備や内装でこだわった部分を教えてください。
【順久院長】精神的、身体的な不調のある方、診療のトラウマなどで、歯科医院に足を踏み入れるのも怖いという方にできるだけ配慮した空間づくりを行いました。例えば、診療室はプライバシーに配慮した個室と、閉鎖的にならないよう半個室を作り、窓の上はすりガラスにせず木漏れ日を感じられるようにしています。床と壁には電磁波をカットする素材も導入。また、母の介護の経験から車いすやベビーカーでの来院のしやすさにもこだわりました。車道から建物までのスロープがあり、雨に濡れないこともこの場所を気に入った理由です。
【公実子さん】内装以外には、におい対策にも気を配っています。患者さんの中には、薬品などのにおいが苦手な方が少なくありません。薬品の保存は密閉容器を使用し、廃棄する際にもにおいが外に漏れないよう注意を払っています。清掃にはオゾン水を使用し、床、壁、天井も拭き上げておりにおいが残りません。
現在はどういった患者さんがいらしていますか?

【順久院長】たいへんありがたいことに、船橋時代の患者さんが今も通院してくださっています。今は地域の患者さんも増え、現在は近隣にお住まいの方が中心です。患者層としては、2つの保育園で園医を行っていることもあり、赤ちゃんからご年配の方まで幅広いです。近隣の矯正専門歯科の先生からの紹介の関係で、抜歯の症例数も多いですね。
【公実子さん】近隣には会社もたくさんあるので、アパレル業の方やIT関係の方、経営者の方など、ビジネスパーソンも少なくありません。ネットでの予約も受けつけているので、お忙しい方にも便利にご利用いただけていると思います。
原因不明の症状に寄り添い、患者とともに考える
船橋と北参道では、患者さんの層や主訴に違いはありますか?

【順久院長】一番は、セカンドオピニオンで来られる方が増えたことだと思います。船橋の歯科医院ではファミリー層が多く、主にむし歯や歯周病治療、予防歯科がメインでした。しかし現在はそれに加え、他院で原因がわからなかった、治療をしたことで痛みやしびれが出た、といったご相談が増えています。エックス線写真を撮ってむし歯ではなかったとしても、患者さんが痛みや不快症状を訴えている限り何かしらの原因があるはずです。その原因が何かを探して突き止めることを、患者さんと一緒に行うようにしています。
原因がわからない痛みの場合、どのような治療を行うのでしょうか。
【順久院長】原因不明のケースの中には、患者さんの姿勢や生活習慣、体調、免疫の低下などが影響していることがあります。また、心理的なご負担がお痛みに関係してくることも。一緒に原因を探していく中で、患者さん自ら解決法を見出し症状が改善することもあります。治すのは私たち歯科医師ではなく患者さんご自身で、それをサポートするのも私たちの重要な役割だと思っています。私が整体を学んだのも、体のしくみや心と体のつながりをしっかり理解するためです。
【公実子さん】私たちスタッフも、患者さんが来院してからお帰りになるまでの様子に心配りするようにしています。足の運び方や体の傾き、利き腕などを把握し、いつもと違いがないか確認します。長年通ってくださっている患者さんは、電話の声のトーンで様子の違いを感じることも。体調や心理的な変化も含めて患者さんの変化を把握できるよう心がけています。
スタッフの皆さんとのチームワークで心がけていることはありますか?

【順久院長】実は船橋の頃、私はスタッフと関係性を築くのが苦手でした。そこで、妻が先に勉強していたコーチングを私も勉強することに。そのかいあってか、私自身の人との関わり方が少し変化してきたと思います。相手の話も聞きつつ、私の意見も伝えて一緒に解決点を探していくことを意識しています。
【公実子さん】患者さんへの接し方では、スタッフに「すべての患者さんは特別な存在」だということをお伝えしています。例えば、抜歯一つにしても、私たちにとっては日常的でも患者さんにとっては初めてで、一生に1回のことかもしれません。そうしたことを念頭に置きながら、温かく丁寧に患者さんに寄り添った医療をご提供できるようスタッフと心を合わせています。
患者の将来を見据えた治療を行う
長年校医や園医を務めている先生から見て、小児歯科で心配なことはありますか?

【順久院長】小さいお子さんの食べる、話す、飲み込む、呼吸するといった、口腔内の機能低下は気になります。数年前に「口腔機能発達不全症」という病名がついて治療が保険適用となりましたが、それだけ小児の口腔機能が低下しているということです。保護者の皆さんはお子さんのむし歯にはとても気を配りますし、予防歯科で通う方も増え、むし歯はとても減っています。ですので、次はお子さんの口腔機能にも目を向けてあげてほしいと思うのです。大切なのは、治療のタイミングを逃さないこと。そのために歯科医院を活用してもらいたいですね。
小児歯科治療で気をつけていることは何ですか?
【順久院長】保護者との関係性の構築です。小児の口腔状態は、保護者の生活習慣などが大きく影響します。つまり、小児の歯科治療には保護者の協力は欠かせないのです。しかし、こちらから押しつけるようなことを言えば、受け入れてもらえません。ご家庭の状況を理解し、お子さんの将来のために一緒に頑張りませんか?という気持ちで保護者の皆さんに接するようにしています。
【公実子さん】お子さんの歯磨きで悩まれる保護者も多いので、子どもが嫌がらない歯磨きのコツをお伝えすることもあります。歯磨きという単語にイヤイヤを示す場合には、「歯は元気かな」「歯をなでなでしよう」と言葉を変えることも有効です。実際に、歯磨きでは歯ブラシを寝かせて、側面で歯を優しくなでるように磨きます。すると痛みもなく気持ちがいいので、お子さんも嫌がらなくなり、歯石もよく取れます。少しでもお忙しい保護者の助けになれればと思っています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。

【順久院長】患者さんが、ご自身の口腔内を通じて全身の健康を気遣えるように、私たちがサポートできればうれしく思います。以前の私は、痛みや腫れといった症状を楽にすることに重きを置いていました。しかし、最近はそれだけでは違うような気がしています。患者さん自身が、良い状態を保つのに必要なことや、選択するべきことを考えるきっかけづくりができればと考えています。
【公実子さん】患者さんが心も体も健康でいられるよう、うまく当院をご活用いただければと思います。患者さんが健康的になっていくのが、私たちのやりがいです。患者さんの行動が少しでも変わるきっかけをつくれるよう、私たちも努力していきたいと思います。