法橋 明 院長の独自取材記事
医療法人法橋心療内科
(高槻市/高槻市駅)
最終更新日:2022/11/09
高槻市駅より徒歩3分。「医療法人法橋心療内科」は2018年、成人ADHD(注意欠陥・多動性障害)治療のエキスパートである法橋明(ほうきょう・あきら)院長が開業した精神科クリニックである。疾患に悩む社会人や学生が通いやすいようにと、平日夜間・土曜にも診療を行う。成人ADHDのほか、うつ状態や不安障害、気分障害など精神疾患全般に対応する同院。真剣に治療に向き合う患者には全力で支援したいと語る法橋院長に、その胸の内を聞いた。
(取材日2022年2月28日)
大人のADHD(注意欠陥・多動性障害)治療に尽力
この春で開業から4年ですね。どのような患者さんが多いのですか?
開業当初は30代の患者さんが多く、その7割が女性でした。ほとんどの方が会社勤めをされており、その相談内容は「なかなか眠れない」「食欲が落ちた」などのメンタル面の不調からくるものでした。疾患の特性からも比較的多いのは女性や若年層でしたが、診療時間の再設定もあり、今では男性や4~50代の方も多く来院されています。患者さんの絶対数は増加し、中でも私が注力しているADHD治療の患者さんの数は増加傾向にあります。
開業までの経緯を教えてください。
一生勤務医として働いていくつもりだったのですが、中央区本町にある「はたらく人・学生のメンタルクリニック」で非常勤医師を務めたことを機に、勤労者の精神疾患をどのようにフォローしていくべきかを考えるようになりました。産業精神医学的な視点を知り、その視点からの治療はできないかと考えたわけです。勤務医としての65歳定年以降に開業するのはさすがに難しいと思い、60歳という区切りで開業することにしました。この地域は、私が中学2年生の時に越してきました。「第二の故郷」としてのなじみ深さや、働く人が通いやすい駅前という立地を考慮して、この場所を選びました。
精神医学に興味を持たれた理由は?
実は高校生の頃に本の読みすぎで精神的に不安定になった時期があります。当時読んだ木村敏先生の精神病理学の本の描写があまりに克明で、「俺、精神病になるんじゃないか」と恐怖感を持ちました。その時に養護学校の教諭であった知人が勧めてくれた、森田正馬先生という精神科医師の本のおかげで気持ちが落ち着き、精神医学に興味を持ちました。それで大学では心理学部を専攻しようと考えましたが、1970年代は抗うつ剤や統合失調症治療薬が処方できるようになった時代で、「医師になれば薬物療法できる」と医学部を受験することにしました。入試の失敗等を経てやっと受かった医学部は、自分に合わず何度もやめようと思いましたが、精神科医師になり10年目頃にやっとこの仕事の面白さが理解できました。私にも精神的な危機は何回かありましたが、さまざまな人々に支えられたことが、精神医学で人を助けたいという今の仕事への意欲につながっています。
適切な薬物療法で早期治療をめざす
大人のADHD治療に力を入れていると伺いました。
ADHDは発達障害の一種ですが、大人の場合は子どもの頃に表面化する問題とは少し異なる問題に悩まされます。子どものADHDは、授業中じっとできないなど、衝動性や多動性が制御できないことが問題になります。一方、大人のADHDは、主に不注意型症状と呼ばれ、仕事の内容が複雑化する、人の指示を聞くべき場面で集中できない・うっかり忘れてしまう、といった症状が現れます。そのような症状に悩まされ、うまく仕事ができないと相談に来られる方は少なくありません。発達障害を受け入れない社会が悪いと言い、発達障害の方々が何に苦しんでいるか、治療法はないのかを考えない医師も多いため、症状に悩む方々に診断と治療を提供できる体制を整えたいと思ったことも、開業後に注力している理由の一つです。ADHDは、さまざまな検査を行って適切な診断、病態把握をすれば薬物療法や環境調整が有用な発達障害の一つです。
診断はどのようにして行われるのでしょうか?
まず問診を行います。問診にはASRS(Adult ADHD Self-Report Scale)と呼ばれる自己記入式のチェックリストが含まれます。ASRSは、米国精神医学会の「精神疾患の分類と診断の手引き」の診断基準:DSMVの症状確認項目A、Bにより構成され、現在では多くのクリニックが採用しているチェックリストです。患者さんの記入だけでは正確さに欠けることがあるため、当院ではADHDの疑いのある方は臨床心理士とともに再度記入する二重方式を用いています。必要に応じ、追加でCAARS検査も行い、さらに詳しく病態を把握します。この検査では不注意症状、多動性症状、衝動性症状の強さを抽出できます。不注意型優位性か、混合型か、などの病態が把握でき、薬物療法の指針になります。
ADHD治療にはどのような薬剤を使用されるのですか?
メチルフェニデート塩酸塩徐放錠、アトモキセチン塩酸塩カプセル、グアンファシン塩酸塩徐放錠の3つです。メチルフェニデート塩酸塩徐放錠は、中枢神経刺激薬と呼ばれる脳神経のシナプス間のノルアドレナリンやドーパミン濃度を高める作用が期待できます。即効性も見込めますが、頭痛や睡眠障害、食欲不振といった副作用が生じることもあります。アトモキセチン塩酸塩カプセルは不足したノルアドレナリン濃度を一定化するための薬剤なのですが、作用まで時間がかかると言われています。また、急速に増量すると吐き気や頭痛等の副作用が出やすいため、様子を見てゆっくり進める必要があります。グアンファシン塩酸塩徐放錠は高血圧の薬から開発された薬剤で、ノルアドレナリンα2A受容体に選択的に作用し、脳の中のシグナル伝達系の安定を促し、衝動性や多動性の制御や不注意型症状の安定化に役立ちます。血圧低下や眠気などの副作用が生じることがあります。
診療時に心がけておられることは?
前述したような薬剤の特性を考慮した上で、患者さんの症状病態及び特性に応じて薬物選択をすることや、治療薬の効果や副作用を十分説明することが大切だと考えています。患者さんの薬物療法を継続する上で、その効果の判定や患者さんの意欲を高めるため、日常生活のチェックリスト(QADスコア)を用いて患者さんにスコアリングして持ってきてもらいます。「本当に良くなっているの?」と思う時期が何度かあるかと思いますが、スコアリングには目に見える形で治療の経過を実感できるメリットがあり、服薬治療を継続しようという気持ちにつながります。副作用や効果の状態を見て薬剤の変更を提案したり、補助薬を出して様子を見たりと、薬物治療にはさまざまな工夫を凝らしています。
さらなる就労支援へ力を入れたい
院内にはたくさんの絵画が飾られていますね。
絵を見ていただくことで患者さんの緊張感不安感を少しでも払拭できればと思っています。開業後に美術の勉強を始め美術が好きになりました。美術には人を癒やす力があると考えています。週末はほとんど美術館に入り浸り、院内には私が癒やされたお勧めの絵画を飾っています。また、愛犬とドライブすることや、読書や語学も良い気分転換です。勤務医だった頃に比べると当直もなく、お酒もやめたので、ずいぶん健康になりました。
今後はさらに就労支援に力を入れていきたいとか。
すでに地域の発達障害対象の就労支援事業所とも密に連絡をとり就労支援に力を入れています。去年の春に医療法人化し、複数の勉強会にも参加しています。医療法人として今後薬物療法以外の支援ができないか模索中です。発達障害者支援センターでのADHDの方々の相談事例も就労が53%と最も高く、やはり就労支援に注力することが適当と考えています。当院推奨図書なども整備し、今後さらに就労支援に力を入れていきたいと考えています。
最後に、メッセージをお願いします。
昔に比べ精神科や心療内科の敷居が低くなったといわれますが、その意味をはき違えず、患者さんには真剣に治療に取り組んでいただきたいです。きちんと来院時間を守って通院を継続し、真剣に症状に立ち向かう姿勢こそが回復への近道です。薬物療法に抵抗のある方もいらっしゃいますが、現在の保険診療の中で合理的かつ経済的に治療を進める上でメリットは大きいです。ADHDは薬物療法が有用な疾患の一つで、一生懸命に治療に向き合えば短期間での通院で症状の安定が望めます。症状を早く安定させ、うまく社会生活ができるようになることが治療の第一の目的です。本気で治療に向き合う患者さんには、私も100%の持てる力で支援したいと思っています。