桑波田暁子院長の独自取材記事

あかつきARTクリニック

(鹿児島市／鹿児島中央駅)

最終更新日：2025/10/23

鹿児島中央駅から徒歩3分と、通いやすい立地の「あかつきARTクリニック」。院長の桑波田暁子先生が、不妊治療専門クリニックとして2018年に開業、2020年1月に現在の場所に移転した。ホテルのロビーのような落ち着いた雰囲気の待合室には一人掛けのソファーが並び、日光が差し込む大きな窓からは駅前の風景を望む。やわらかな笑顔と穏やかな声で優しく語りかけてくれる桑波田院長が力を入れているのは、体外受精の中でもなるべく薬を使わない自然周期による治療だ。ともすると、排卵誘発剤などの薬が使われることの多い不妊治療。専門クリニックを開いた経緯や、自然周期の治療を勧める理由など、その思いを聞いた。

（取材日2025年8月5日）

地元・鹿児島に不妊治療専門クリニックを
一人ひとりの悩みや体の状態に寄り添うクリニック
一人でも多くの人が、その腕にわが子を抱けるように

地元・鹿児島に不妊治療専門クリニックを

産婦人科の医師をめざしたきっかけや、不妊治療をご専門にされた経緯についてお聞かせください。

祖父と父は医師、母は薬剤師という家庭に生まれ、幼い頃から漠然と将来は医師になるのだと思っていました。大学進学の際、周囲からの勧めもあって最初は薬学部に進んだのですが、医師の夢を諦めきれず久留米大学医学部に入学し直しました。外科系に進もうか迷っていた時、帝王切開の手術に立ち会う機会があり、大出血の手術でも気にせず助手をしている私の様子を見た先生が「君は産婦人科の医師に向いているかもね」と言ってくださったんです。その言葉で、外科系で自分が女性であることを生かせるのは産婦人科かもしれないと思うようになりました。卒業後は鹿児島の病院で11年経験を積みましたが、不妊治療に興味を持ったのは鹿児島医療センターで子宮がんや卵巣がんの治療をしていた頃です。治療後の患者さんから「子どもが欲しい」と相談を受けた時、妊娠したいと望む患者さんを妊娠させるのは難しいことだと気づいて、不妊治療が必要だと強く感じました。

どのように不妊治療や体外受精について学びを深めたのですか？

全国あちこちを見に行きました。中でも名古屋のクリニックへ勉強に行くと、そこでは自然周期の治療を大事にしていました。それこそいろいろなクリニックに通った患者さんがたどり着くようなクリニックだったのですが、「ここでの治療は気持ちが楽です」とおっしゃるんです。その様子を見て、良い治療だな、いつか地元の鹿児島でもこんな不妊治療を提供したいなと思いました。毎日注射があると仕事との両立も難しくなりますし、患者さんは疲弊してしまいます。不妊治療は専門性の高い分野なので、一般的な産婦人科の先生ではわからないこともあります。名古屋と東京のクリニックで計8年働きましたが、充実した日々であっという間でしたね。そして自分の子どもが生まれたタイミングで鹿児島に戻ってきました。

診療時のモットーを教えてください。

根底にあるのは「一人でも多くの方に妊娠していただきたい」という思いです。中には治療が難しい患者さんもいらっしゃいますが、どうすれば妊娠できるかを、常に考えながら診療にあたっています。できるだけ多くの方が妊娠に至ってくれたらと日々取り組んでいます。不妊治療はやはり心身ともに大きな負担がかかるものです。患者さんが抱えるすべての悩みを背負うことはできなくても、できるだけ寄り添い、ともに歩んでいく姿勢を大切にしています。横に並んで、一緒に励まし合いながら前に進んでいけるような存在でありたいです。信頼関係を築くというのは簡単なことではありませんが、私は心から「この方に妊娠してもらいたい」と願って向き合っています。

キッズスペースと専属の保育士さんもいらっしゃるそうですね。

当院がキッズスペースを設けたのは、お子さん連れの方も気兼ねなく通えるクリニックにしたいという強い思いからです。特に不妊治療では、お子さん連れでの通院に気を使われたり、一方では不妊に悩む患者さんへの配慮も必要だったりと、その両立が難しいという課題がありました。そこで、その問題を解決するために、キッズスペースを設置しました。また、2人目の不妊で来院される方も少なくありません。お母さんが診療中に安心して治療を受けられるように、お子さんは専属の保育士がいるキッズスペースで楽しく過ごせるような環境を整えています。保育士についても、子どもを預かる責任の重さを感じ、現在は専属の保育士を常勤で配置しています。とても信頼できる方で、お子さんを安心して預けていただける体制が整いました。成長したお子さんに再会できることもあり、私にとっても大きな喜びです。

一人ひとりの悩みや体の状態に寄り添うクリニック

最近感じる患者さんの変化はありますか？

不妊治療が保険適用になってからしばらくたちますが、その影響もあって、患者さんの意識はかなり変わってきたと感じます。以前は30代〜40代の方が中心でしたが、最近では20代や30代前半の若い世代の方の受診も増えてきました。治療に対する抵抗感も以前より少なくなっていて、幅広い年齢層の方が、より前向きな姿勢で治療に取り組まれるようになった印象を受けます。

不妊治療とどのような気持ちで向き合っていますか？

不妊治療は本当に奥が深く、妊娠が困難な方を妊娠へ導くというのは非常に難しいことです。掘り下げれば掘り下げるほど課題が出てきて、悩みが尽きることはありません。でも、それでも「一人でも多くの方に妊娠していただきたい」という思いで、日々学び続けています。中には卵子がほとんど残っていないなど、非常に厳しい状況の患者さんもいらっしゃいます。しかし、そこで諦めてしまったら終わりです。どうしたら卵子が出てくるようになるのか、そしてその貴重な卵子をどう扱うか、最善の方法を模索し、諦めずに向き合うことをモットーに診療を続けています。

スタッフの皆さんについても教えてください。

私はスタッフにも恵まれまして、みんなが患者さんと真摯に向き合い、話を引き出すことを心がけてくれています。些細な話をきっかけに、患者さんが診察の際に話しきれなかったことがあるとわかれば、もう1回診察室に戻って詳しく悩みを聞くこともできますので、たいへん助かっています。また、当クリニックには卵子や精子を扱う培養士が6人います。清潔に隔離された部屋にいるので、培養士が患者さんと直接話す機会はほとんどないのですが、診療になくてはならない存在です。クリニックを卒業した患者さんからは、赤ちゃんの写真もたくさん届きますよ。手紙や写真が励みになり、モチベーションにつながりますね。患者さんから「先生が鹿児島に戻ってきてくれて良かった」と言われると、鹿児島で診療を提供できて良かったと心から思います。

一人でも多くの人が、その腕にわが子を抱けるように

お忙しい中で、リフレッシュはどうされているのですか？

リフレッシュは小さい頃から続けている水泳です。週に2〜3回は泳いで気分転換しています。高校と大学では水泳部で平泳ぎが専門でした。泳ぐのは良い息抜きになっていて、私にとって大切な時間です。治療を思い出しながら考え事をしていると「次はこの治療をしたら良いかも！」とひらめくこともあります。大好きな水泳で発散しながらも、やはり気になるのは診療のことですね。

今後の目標を教えてください。

不妊治療は患者さんにとってはどうしても敷居が高く感じられるところだと思うんです。だからこそ、「ちょっと相談してみようかな」と、気軽に足を運んでもらえるようなところでありたいと思っています。また、不妊症を人に言えず一人で悩んでいる方もいらっしゃいます。話すだけでも気持ちが軽くなると思うので、不安をなるべく取り除けるように気を配っています。ですが、結果が伴わなければ患者さんの悩みは解決できません。どこに問題があって、どうしたら妊娠できるのか、一生懸命考え続けています。一人でも多くの方の妊娠をサポートできたらうれしいです。

読者に向けてメッセージをお願いします。

不妊の原因は思いがけないところにある可能性もあり、子宮筋腫や卵巣腫瘍が見つかる患者さんもいらっしゃいます。まずは相談だけでも良いので「ちょっと行ってみようかな」と思ってもらえたら良いなと思います。最近では卵子凍結という選択肢もあります。将来的に子どもを望んでいるけれど、今はパートナーがいない、あるいは妊娠できる状況ではないという方にとって、妊娠の可能性を残すための1つの手段で、そういったことを含めてご相談にも乗っていますので、気楽に来てもらえたらうれしいです。